第2話 因幡の白ウサギ


この陸地についてから2日ほどたった。

今日も海沿いに歩いている。すると、砂浜の脇の茂みがガサッガサッと音を立てた。

音が出る前から気付いている。人の気配。

ヒロはそちらに歩いていき、持っていた棒で茂みをかき分けた。

白い物体が見えた。

「ヒィ!!」

茂みにしゃがみ込み、隠れていたのは・・素っ裸の若い女の子。

日陰に白い裸体が色っぽく、なまめかしい。

「ひゅう〜」

口笛を吹くカイ。

「そんな格好で、何やってるの?」

震える全裸の女の子に、のんきな声をかけるヒロ。

もちろん普通は言葉は通じない。ヒロは念話を一緒に使っている。

「あ・・・お願いです。殺さないでください」

「殺さないよ?」

「犯さないで下さい」

「犯さないよ?」

「Hなことしたり・・」

「しないよ・・・多分。なんで、そんな恰好してるの?」

「あの・・海を渡るときに船をお願いしたら、その船は海賊だったみたいで、身ぐるみ剥がされちゃって・・逃げてたところなんです。お願いです、助けてください」

自分の着ている上着を脱いで着るように渡すヒロ。

手篭めにされるかと警戒していた女の子。戸惑っている。

とりあえず、渡された服を着る。

『え〜、どうする?ヒロ。面倒だよ?』

『女性には優しくするに決まってる』

『へえへえ、ヒロは相変わらずブレないね』

ヒロが女の子に聞く。

「君の家は近くなの?」

「河を上流に向かって3日ほどです」

「じゃあそこまで送るよ。僕はヒロ。こっちはカイ。君は?」

「え・・・と、私の名前は兎といいます。ヒロ様と・・カイ様?変わった名前ですね」

「僕の故郷の言葉で、ヒロは”大きい”という意味でカイは”小さい”という意味だよ」

「大きいと小さいですか・・そのまんまですね・・」

ニッと笑う青年。

「まぁ、そうだね」




川に沿って上流に向かう。

先頭に兎、そしてヒロとカイ。

「それじゃあ、海を渡って大陸から来たんですか?」

「そうだよ、珍しいの?」

「はい、今まで会ったことはないですね。でも、大陸から来た人が青銅や建物の立て方を教えてくれたという言い伝えはあります」

「言い伝え?。文字では無いの?」

「文字・・ってなんです?」

「なるほど・・」

その時、兎は石に躓いて転びそうになる。

とっさに支えるヒロ。

「ヒロ様って優しいんですね・・」

兎は、来ている服にも感心していた。

ヒロが兎に渡した服は大陸製の上質な綿で作られていた。

この国では見たことのない肌触りの良い真っ白な服。

こんな服を着ているだなんて・・力のある人物に違いない。

「そうか?故郷では女性に男性が優しくするのは普通でしょ?」

「この国ではそれが普通ではないんです」

力説する兎。

「壱岐の国に姫の使いで行こうとしたのに、船員どもに身ぐるみはがされたんです」

「よく命があったね・・」

逃げましたから」

よく逃げられたものだ・・

「私の使えているヤガミヒメさまは、たくさんの男たちに求婚されているんですが力づくでものにしようとするものも多くて・・」

「そうなんだ。それは良くないね」

「壱岐の国の知り合いに助けてもらえないか頼ろうとしていたところなんです。でもこんなことになっちゃって」

「幸い我々に会えたから良かったよね」

「ほんと助かります」

兎はヒロのことを、うるうると濡れた瞳で上目使いで見上げる。

兎とヒロが楽しそうに話している後ろを、カイは一歩下がって歩いていた。

”あぁ・・まただよ・・”

カイは思った。

ヒロが女性に出会うと、トラブルの予感しかしない。

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