第6話 錬金は楽しい

 宿に帰るとお夕飯までの間に早速バッグを作る事にした。


 カーキ色の生地と糸を出して、どんなバッグにするかを頭に思い浮かべる。斜め掛け出来るメッセンジャーバッグを思い浮かべた。


「錬金!」


 一瞬光った後、バッグが出来上がっていた。思い浮かべたメッセンジャーバッグが、きちんと出来ていた。きちんと身体側にはお財布用のポケットも出来ていた。この世界の錬金すごいわ、こんなに簡単にバッグが出来るなんてすごすぎる! 錬金でいろいろ作れそうで楽しみが増えた。


「ひぃろ、これどうかな?」


『ハル、バッグかっこいいくま~。服にも合うと思うくま!』


「ひぃろ、ありがとう。良かった~」


 次は薄手の生地と紐と糸を錬金してお財布用の巾着を作った。これでアイテムボックスからお金を出さなくて大丈夫になった。お財布はバッグの身体側のポケットに仕舞っておく。


 

 アイテムボックスの中を整理しながら考える。もしかしたら錬金で食べ物も作れる……?

 今ある材料を考えるとバターも小麦粉もお砂糖もあることを考えると、クッキーがすぐに思い浮かんだ。


 クッキーが作れるか意識しながら小麦粉を鑑定してみる。

 錬金材料(クッキー:小麦粉、バター、砂糖、卵)


「わぁ、やった! ひぃろ、錬金でクッキーが作れるよ~」


『クッキー? それは何くま???』


「クッキーはサクサクした甘くて美味しいお菓子だよ」


『お菓子? 甘いくま? 美味しいくま? ハル、食べてみたいくま~』


 スライムだから首かしげられないからか、聞くたびにコロンと転がるひぃろが可愛すぎる。


 ぽよんぽよん跳ねて、食べたいと訴えるひぃろをなでなでしつつ、材料を出していく。とりあえず普通のクッキーから作っていこうかな。


「錬金!」


 材料が光るとお皿に乗ったクッキーが出来ていた(気にしちゃいけないけど、相変わらずお皿は一体どこから……)


「はい、ひぃろ。味見しよう。お夕飯前だから1枚だけね」


『わぁい、ハルありがとうくま~。いただきますくま』


 ひぃろがぱくんと食べると。


『ハル、これ美味しいくま。さくさくっとしてバターの香りも良くて、ほんのり甘くて美味しいくま』


 私もサクサクとした食感を楽しみながら食べていく。錬金で作ったけど、とても美味しい。

 普通に作るよりも美味しい気がする? もっと美味しくなるように思い浮かべて作ったら、もっと美味しくなるのかも……? また今度試してみよう。


 とりあえず今は、まだ食べたそうに見ているひぃろを見ない振りをして、残ったクッキーをアイテムボックスに仕舞った。

 次は何を試そうかと考えていたら、ちょうどお夕飯の時間になったので、また食後に作る事にして下に降りていく。


 今日のお夕飯は何かな。抱っこしたひぃろも、嬉しそうにぷるぷるしている。


「ひぃろ、錬金楽しいね」


『錬金美味しいくま~』


 間違ってない、間違ってはないけど何かが違うよ? 美味しいものが嬉しくてうきうきしているひぃろに、否定は出来なかった。

 まぁ、可愛いから良いのです。可愛いは正義! うちの子最強! 脳内がおかしなテンションになったけど、気にせずにお夕飯を食べにいく。


「今日のお夕飯は何だろうね~。ひぃろまた一緒に食べようね」


『楽しみくま~』


 2人はにこにこしながら食堂へ行くと、今日のお夕飯はウルフ肉の野菜炒めとスープとパンだった。昨日のお夕飯でも思ったけれど、これは……ご飯が欲しいなぁ。旅の途中で見つかるといいな。


「いただきます」


『いただきますくま~』


「今日も美味しいね」


『とっても美味しいくま~』


 食べ終わった所でキャルさんが、2人分のジュースを持ってきてくれた。

「今日のお夕飯はどうだい? これもどうぞ」


「わぁ、ありがとうございます。今日もとっても美味しかったです。ごちそうさまでした」


『ありがとうくま。おいしかったくま~』


「お口にあって良かったよ」


 ジュースでお口の中がさっぱりした所で、お礼にクッキーを渡した。

「あの、クッキーを作ったので良ければどうぞ」


「あら、良いのかい? ありがとう、後で頂くよ」


 お部屋に帰ってきて次は何を試そうか悩んでいると、ひぃろに声を掛けられた。


『ハルハル~、クッキーもまた作っておいて欲しいくま~』


「気に入ってくれて良かった。じゃあ、もう少し作っておこうか。依頼の途中とか食べられるしね」


 材料を用意すると、今度はサクサクとさっきのよりも美味しく出来るように思い浮かべながら錬金した。


「ご飯の後だから半分ずつしようね」


『わかったくま~』


!!!


「お、美味しい!」


『おいしいくま!』


「さっきも美味しかったけど、さらにこんなに美味しくなるとは思わなかったね。錬金凄いね~」


『ハル、これはいつも置いておいて欲しいくま!』


「うん、わかったよ。また材料も買っておこうね」


 今度は何を作ろうかな。スパイスとお塩を混ぜ合わせておきたいな。お肉に合いそうなスパイスを鑑定で見ていく。

 テーブルの上に合わせる材料を置いたらお肉に合うスパイス塩を思い浮かべて錬金した。スパイシーな香りがとても食欲をそそるお塩が出来た。


『ハル、今度は何を作ったくま?』


「今度はお肉を焼く時に使うと、美味しくなるお塩を作ったんだよ」


『お肉! 食べるの楽しみくま~。今焼くくま?』


「いやいや、ひぃろ。今さっきお夕飯食べたばかりだからね。それにお部屋の中じゃ火は使えないよ」


『残念くま~。今度絶対食べさせてくま』


「もちろん。コンロもあるから今度お外で食べようね」


 食に貪欲になっていくひぃろである。最初のけなげな感じはどこへいったやら。でも、この方が一緒に同じ物が食べられてきっと楽しい。これからの日々が楽しみになっていくね。

 ひぃろに美味しい物をたくさん食べさせてあげよう。


 アイテムボックスにハーブが沢山あったので、ハーブ塩も作っておいた。他にもスパイスとハーブを合わせたお塩も作っておいた。これで色んな味が楽しめるようになったかな。


 ふと、アイテムボックスの中身を考えていたらアプルの実を見つけた。あれ、もしかしてこれがあれば……酵母が作れる? もしかしたらパンも作れる気がする。思い立ったら試さないと気が済まないので、早速アプルの実を酵母が作れるか考えながら鑑定した。


 アプルの実:さわやかな酸味が美味しい実。錬金材料(アプルの実、水)


「わ! 酵母が出来る!」


『こうぼって何くま???』


「パンのふっくらする素だよ~。ここのパンも美味しいけれど、錬金で作ったらもっと美味しくなりそうじゃない?」


『ハル、早速やるくま!』


 ひぃろの後押しもあって、早速アプルの実と美味しくて酵母を作るのに向いたお水を準備した。


「錬金!」


 材料が光った後、瓶に入った酵母が出来ていた。今パンを作っても味見出来ないから、明日にしようかな。ひぃろが絶対食べる気がするし……。


『ハル、パンはまだくま?』


「え、えっと……今味見出来ないし、明日にしようかな~なんて」


 言った瞬間に、ひぃろが泣きそうになっている。私は慌てて作るって答えていた。


 パンを作るには強力粉がいいけど、あるかわからないから小麦粉で作ろう。小麦粉、お砂糖、お塩、牛乳、酵母を準備して美味しい美味しいふわふわなパンになるように考えた。


「錬金!」


 材料が光るとお皿に乗ったパンが16個出来上がっていた。15個はアイテムボックスに収納しておいた。


「ひぃろ、味見に一口だけ貰っても良いかな?」


『良いくま~。早く食べたいくま』


「美味しい!」


『ハル、このパン美味しいくまぁ~』


 美味しくてうっとりしているひぃろに、思わずほっこりしてしまった。


「これも美味しいね~」


『とってもとっても美味しかったくま!』


 錬金が一段落した所で、そろそろ寝る準備をする為に2人にクリーンを掛ける。


「明日は冒険者ギルドで依頼を受けようかなと思うのだけど、どうかな?」


『良いくま~。楽しみくま』


「そろそろ寝ようね。お休みなさい」


『ハル、おやすみくま~』


 ひぃろを抱っこしたらすぐに眠くなった。明日もよろしくね、ひぃろ。

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