角(つの)

松長良樹


 ある時、カオリの頭に小さなつのが生えた。それはあまりに突然だった。カオリは悩み苦しんだ。無理もない。彼女は高一になったばかりの乙女なのだから。


 何の因果か、呪いか、先祖に鬼がいたのか、さっぱりわからない。可愛くて男子に人気のあったカオリは塞ぎ込んで学校に姿を見せなくなった。明るかったカオリの顔から笑顔が消えた。


 両親が心配して医師に診せると、切るほかないと医師が言った。


 すぐに切除された角だったが、安心したのも束の間またすぐ角は生えてきた。お先真っ暗で死のうかと思った。


 そんな時、最愛の彼氏、リョウが彼女を心配して家に訪ねてきた。かれこれ一か月は会っていない。彼を避けていたからだ。


 カオリはリョウに向い思い切って言った。


「リョウ、わたしにはこの通り角が生えたの、わたしは化け物だから、もう付き合ってくれなくていいよ……」


 大粒の涙が溢れた。


 リョウは言葉もなく驚いて帰ったが、一週間すると再び家に来てこう言った。


「実はねえ、僕の頭にも角が生えたんだ。隠していてごめんよ」


 リョウの帽子の下には紛れもない角があった。カオリが驚き、そして笑った。

それからも二人はずっと恋人同士だった。


 心優しいリョウはカオリの為につくりものの角を作ったのだ。


 それからかなり経ったある時、突然カオリの角が落ちた。カオリは凄く喜んだ。


 リョウももちろん喜んだ。そして自分の角が作りものだとカオリに明かした。

カオリの為に角をつけた事を告白した。


 ところがどういう訳か、リョウの角は取れなくなっていた。角はいつの間にか頭蓋骨に根をはっていた。リョウは訳もわからず途方に暮れた。


 カオリはリョウの角が本物だと思い込んでいた。


 だから偽物ものだなんて嘘をつくリョウが嫌いになった。


 やがてカオリに新しい彼ができ、リョウに別れ話を切り出した時、空は青く澄み渡り桜の花が咲き誇っていた。




                 了

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角(つの) 松長良樹 @yoshiki2020

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