第27話 背水の陣と単騎戦闘!

 相手の兵力が二百越えに対してこちらの兵力は五十ほど。

「しかして、この作戦はうまく行くのですか?」

「じゃろうな。昔のアイデアじゃが勝てるじゃろうて」

 最悪、わしひとりでも勝ってみせるわい。

「伍長! 見張りのひとりがやられました!」

「なに、もう攻めてきたのか!」

「そうじゃろうて。疲弊している我らを見過ごすわけがないからのう」

「ルナ嬢。そこまで分かっていたのなら、なぜ水行をさせたのですか」

「それはあとあと必要になってくるんじゃ」

 それに漬物という力を得たのじゃ。それなりに期待しても良さそうかのう。

「して。全軍、指示通りに!」

 足の遅い弓兵や槍兵には先に逃がして、足の速い剣士は盾を持ったまま、じりじりと川のふちへ後退していく。

「いいぞ! 抑え込んでいる!」

 魔族のうちのひとりが叫び、猛進してくる。片手には剣が握られており、猛然と突き進んでくる。

 が、わしはそれをかわし、さらに後退。

「何をやっている。遊んでいるのか?」

「そうじゃないかのう。わしにはわしの間合いというものがあるのじゃ」

 わしは川のふちに後退すると、バシャバシャと水の中に入っていくではないか。

 それに驚いた敵兵は攻撃をやめ、言葉を失う。その瞬間、多数の矢が夜闇の中、飛来してくる。

「なぜ、この暗闇の中、攻撃できる? 川の上で矢は吹けぬ!」

 川の上に樹木の板を浮かべ、縄で流れないよう、固定する。そこから弓兵が矢を放っているのだ。

 わしらがいた本拠地が灯りとなり、矢を飛ばすのに索敵ができる、という寸法だ。

 四倍あった戦力差もすぐに近づいてしまう。戦死者は二百を超えるじゃろうて。

 こちらの弓兵は川の上で発射しているのだ。それに加え、守りに槍兵と剣士をおくった。これで勝てぬわけがない。

 あとは消耗戦だ。

 朝日が登り、白んだ空になると、わしは真っ直ぐに敵地へ乗り込む。

 槍を砕き、その先にいる兵士を吹き飛ばす。さらに向こうにいる弓兵を撃ち倒していく。

 わしの完全防御と、魔法があれば、なんなく撃ち倒していける。


※※※


「いいぞ! 抑え込んでいる!」

 魔族のうちのひとりが叫び、猛進してくる。片手には剣が握られており、猛然と突き進んでくる。

 じゃがわしは後退をやめない。攻撃しようと川へ追い詰める魔族だが、後方からすぐに矢が飛んでくる。その矢を受けて沈んでいく魔族。


※※※


「いいぞ! 抑え込んでいる!」

「いったん後退する! 全軍後退だ!」

 魔族のうちのひとりが叫び、大蛇を身体に巻き付けた女が大声を上げる。

「なんだ? こちらの手を読んだのか?」

 ヒースが思案を巡らせるが、わしは違うと感じた。

「あやつの能力じゃな」

「なんと?」

「あやつの周りだけ時間が狂うのじゃ」

「それがなぜ分かるのか?」

「体内時計という奴じゃな」

 実際は、わしの居場所が変わらなかったことが主な証拠である。それにわしには完全防御のチートがある。恐らく時間遡行の能力にも効果があるのじゃろうて。

 はて。なぜ時間遡行と分かったのかのう。これもチートの能力か。

「追うな!」

 伍長の叫びで我に返るわし。

「そうじゃ。追ってもいいことはないのじゃ!」

 矢をつがえた兵士や、剣を掲げた兵士も、みな止まる。

「作戦は失敗だ。これ以上、損耗はだせない」

 時間を遡行できるのなら、負け戦なんてありえない。だが、今回はどうだ。これ以上、刺激するつもりはないが、しかしどうしたものか。

 このままじり貧で戦うわけにもいかないし、かといって奴が反撃する可能性もある。

「どうしたものじゃのう……」

 わしは伍長と他、重要な人物を集めて会議を開く。

「相手はあの〝クロノスの悪魔〟ですか……」

「そのようです。それで急に退いたのですか」

「その彼女が申しているのでしょう? ホントなんですかね?」

「グレミー。どういう意味だ?」

 本を読んでいたグレミーはにまりと笑う。

「いやね。この小娘が適当なことを言っている可能性ありません?」

「適当?」

「つまりですね。こちらの作戦がうまく行かなかったんで、相手のせいにしようとしているのではないですか?」

 グレミーが肩をすくめる。

「む。ならわし単騎で攻め込もうぞ」

「そりゃいい! お前さんみたいな小娘に何ができる!」

「グレミー。口を慎みたまえ。相手はあの二重字勲章を持っているのだぞ」

「そーでした。このひと、偉いんでした。で? ご自身で敵を迎え撃つと言ってますが?」

「う、うむむ。それはできない。このままだと上層部になんて報告すればいいのだ」

「まあ良い。わしが単独でツッコむ。矢を放つのは側面からじゃな」

「なっ!?」

 驚きのあまり言葉を失う一同。

「さ、さすがに敵に突っ込むわりには、矢を放て、と?」

「そう申しておろう」

「危険です! それではルナ嬢の身体にも突き刺さりますぞ」

「当たらないから大丈夫じゃ」

 わしの絶対防御なら問題ない。

「まったく、どうしてこんなじゃじゃ馬に……」

「勲章を持っておるからのう。わしひとりでも戦うんじゃ」

「聞いたわ。わたしも一緒にいく!」

「ミア。そんなことをしている場合じゃないかのう」

 忘れた頃にやってくるミア。今度はどんなことを言うのだろうか。

「わたしと一緒にいけば倒せるの?」

「倒せないんじゃ。わしひとりでないと意味がないかのう」

 わしひとりならどうとでもなるが、ふたりとなると、その分の回避が必要になる。となればわしの負担が増加する。

「できればわしひとりがいいんじゃが……」

「ひとりじゃ行かせられない」

 伍長が首を横に振る。

「何を言っておる。わしに傷一つつける奴はおらんかて」

「そう言われたって、本当かどうか……」

「力を示せばいいのじゃな? それこそ、敵地に潜りこんでみせよう」

「その勇気――いや蛮勇。どこから湧いてくるのか……」

 ヒースも頭を抱えている。

「しかして、わしひとりで行くのに問題ないじゃろ」

 ひとりテントの外に向かうわし。

「待て」

 その手をつかんだのはグレミー。

「ひとりで行かせるわけにもいかぬ」

「ほう。してどのような良案が浮かんだのかえ?」

「案は、ない! だがもっと賢いやり方というものがあるはずだ」

「わしの時間遡行を信じてくれれば、こんなことにはならんぞい」

「そうはいかぬ。こちらにも五十の兵の命がかかっているのだ」

「それに比べれば、わしひとり。安いものじゃろ」

「そうはいっていない!」

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