おばあちゃんの知恵袋は異世界でも活躍する!? ~精神年齢は100歳以上。非合法婆ちゃん~

夕日ゆうや

11歳編

第一章 戦場のヒロイン!

第1話 マチコ死す!

 ぽくぽくチーン。


 享年92歳。戦時中も経験したお婆ちゃんが、眠るように息を引き取った。

 老衰死だった。


 梅干しや沢庵たくあん、ぬか漬けが得意だった。それ以外にも様々なことを知っていたお婆ちゃん。


 そんな彼女は遺族の目の前で永眠したのだ。

 みんなその死をいたんだ。

 名前は笹原ささはらマチコ。

 さよならマチコ。


 さようなら。


※※※


「わしは死んだのか……?」

「そうですよ。マチコさんは死んだのですよ」


 神聖な佇まいをした、荘厳とした大理石の城と、王宮。その中にある、王室でくつろいでいる。わしと少女は見つめ合う。

 赤い絨毯がふかふかして気持ちいい。


「一話から死んでいるじゃないか」

「そうですね。でもこれからは転生してもらうので安心ですよ」


 ティーカップを用意する目の前の少女。ティーを用意してあり、わしに手渡すと、自分も口をつける。


「そうなのか極楽浄土があるのかえ?」

「それは想像力が豊かな人が考えた空想ですよ」


 ずずっとお茶をすするわし。

 ふむ。お茶のいれかたを知らないようじゃ。


「そうなのか。ならわしの魂はどうなるのじゃ?」

「魂は綺麗に洗われて異世界の赤子に転生します。転生される魂は限られていますよ」


「ほう。それは面白い。わしももう一度生まれるのかえ?」

「そうなりますね。でも善行を重ねたのであなたにはチートを授けます。来世はいいものになりますよ」

「それはよかったのじゃ」

「ただし、記憶はリセットされるので、気をつけてください」

「……どう気をつけるのじゃ?」

「え! ええと。はい、仰る通りで」

 マチコお婆ちゃんを前にタジタジになる少女。


「ところであんたは何者じゃ? わしのことおを一方的に知っているようじゃが」

「失礼しました。わたしは女神セクメト。闘いの女神です」

「ほう。闘いとな。あれは酷かった……」

「す、すいません! あれはわざとではなく、民衆に悲しみを教えるために――」

「そんなん言うても、あれはやっちゃいけないじゃろ」

「そ、そうですね。すいません」

 ペコペコと何度も頭を下げる女神セクメト。

 貫禄のあるマチコには勝ち目がないのだ。


「さっそく始めてほしいのじゃ」

「は、はい! やってみます!」

 魔方陣が足下に浮かび上がり、光の柱がマチコを包み込む。

「おお。暖かい」

 暖かな光りに包まれて消えていくマチコ。

「よき、旅路にならんことを」


※※※


「そんなのを思い出したんじゃ」

 わしはこの世界での母親に語る。

「それはそれは面白い夢ね」

「本当の話じゃ」

「ルナはお話を作るのがうまいな。これなら書籍を出せるぞ」


 父リアムは今でいう作家だ。紙に物語りを描いて読者を楽しませる。それも紙という高級品を使っているから、金持ちや貴族の知り合いが多くなる。

 こっちの世界ではそういった職業なのだ。


 中世ヨーロッパを思わせる雰囲気と、ガス灯や自動車があるのだ。


「よし! 降りてきたぞ!」

「あなた今日はルナの11歳の誕生日なのよ?」

「気分が乗っている時に書かないと落ち着かないんだ」

「パパ頑張るのじゃ」

 わしは微笑み、父を送り出す。

「いいの。ルナは寂しくないの?」

 訊ねてくる母ミリー。


「いいのじゃ。父が働いてくれないと、家族みんな困るのじゃ」

「そ、そうね……。この子はなんて賢いのかしら」

 目の前に見えるパウンドケーキを食べながら、わしは首肯する。

「しかし、甘い物ばかりで飽きるのう」

「あら。じゃあ、これでも食べる?」


 母がよこしたのはブラックチョコレート。

「そうじゃないのじゃ」

 わしがほしいのは塩っ気。せんべいや漬物、筑前煮が食べたいのじゃ。

「まあ、これはこれでありがたく頂くが」

 わしはブラックチョコをかじりながらソウルフードに思いをはせる。


「苦いのう」

「うふふ。なんだかお婆ちゃんみたい」

 母は嬉しそうにほころぶ。


 11歳の誕生日。その日になってみてなぜか前世の記憶が蘇ったのだ。そこでは92歳まで生き、世界に翻弄されて生きていた。コロナというウィルスとの闘いにもうち勝ったのだが、寿命が来てしまったのだ。老衰死だった。

 何も思い残すことなどない、そう思っていたがこちらの世界に来て思う。もう少

しだけ生きよう、と。


 次の日からわしはおこづかいをはたいて塩を購入する。もし塩がなかったら、海水から作ることも考えていたが、この街にはすでに塩を作る人がいるらしい。けっこう安い。日本円にして1kg78円程度だろうか。


「まあ、こんなに買ってどうするの?」

「前世の漬物を作るのじゃ」


 ほどよい大きさの樽、重しになる石、それに白菜とキュウリを購入してきた。

 漬物の材料じゃ。


「食べ物で遊ばないの!」

 わしが樽に塩と白菜、キュウリをぶち込んでいると、母が悲鳴に似た声音をあげる。

「まあ、いいじゃないか。ルナは自分のお金で購入したんだろ? 好きにさせてあげなさい」

「そうだけど……。失敗するって分かっているのに?」

「それも経験のうちさ」


 何やら母と父が話し合っているが、わしは漬物を作る。


「あんなのしょっぱいわよ。食べられたものじゃないわ」

「まぁまぁ。失敗は成功の母と言うじゃないか」


 二日後。

「まだおいているの? 悪くなるわよ」

「大丈夫じゃ。まだ食べ頃ではないの。やはり地球と一緒か」


 五日後。

「できたのじゃ!」

 テンションの上がるわし。

 できあがった白菜とキュウリの漬物を食卓に並べる。


「それ大丈夫なのかしら?」

「さ、さあ……?」


 困惑する父母。それを目の前に、わしは箸でつまむ。

 ちなみ箸は枝を折って作った。スプーンやフォーク、ナイフは使いづらいのじゃ。

 あーん、と口にする。


「……うっ!」

「「ぅ……!」」

「うまい!」

 わしは久々にうまいという単語を使った。


「え? ホントなの?」

「俺らも食べてみよう」

「いいのじゃ、食べてみせよ」


 スプーンですくう二人。ちょっと食べづらそうに口にする。

「ん! おいしい」

「うまいな! これは今度のパーティに出そう!」


「はい……?」

 パーティと言えば、貴族やお金持ちが集まる場所。そこに漬物なんてだしていいのだろうか? 疑問に思うわしじゃった。

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