心の掃除(物理)

鯨飲

心の掃除(物理)

 最近、ストレスが溜まっている。仕事の疲れや対人関係、色んなものが私のことを圧迫してくるのだ。

 

 そろそろ、あの時期がやってきたのだろうか

 

 私は家に帰り、早速掃除をすることにした。

 

 胸に取り付けられた戸を開き、その中にある心の引き出しを開ける。

 

 やっぱり。引き出しの中には、さまざまなゴミが溜まっていた。

 

 引き出しを引っこ抜き、ゴミを選別して、ひとまとめにした。

 

 そして、それをゴミ箱に投げ入れた。

 

 バサッ、という音がした。

 

 最近、心の引き出しにゴミが溜まるスパンが短くなってきている。

 

 転職したからだろうか。

 

 環境の変化が心に影響を及ぼしているのかもしれない。

 

 こんなにも、頻繁に心の掃除をしなければならないのは困る。

 

 掃除のことばかり考えて、仕事のアイデアも中々思い浮かばない。

 

 いっそ掃除しなければ楽なのだが、心には、仕事のアイデアや楽しい記憶などが保管されていくため、ゴミで一杯だと、それらが入るスペースがなくなってしまうのだ。

 

 そこで私は思い付いた。

 

 そうだ。心の引き出しを買い替えよう。

 

 今のよりも大きいやつにするのだ。

 

 次にゴミが溜まったときに、新しい心の棚を買いに行こう。

 

 1ヶ月後、ゴミが溜まった私は心具を買いに向かった。


 しかし、その道中で気になる店を見つけたのである。

 

 それは、「心クリーニング屋」であった。

 

 噂には聞いたことがあった。

 

 それは、心の掃除を自分の代わりにやってくれる店だった。

 

 専門の機械を使って、本格的な掃除を行ってくれることで話題になっていた。

 

 気になった私は、試しに行ってみることにした。

 

 店に入ると、若い男の店員が話しかけてきた。

 

「いらっしゃいませ。当店のご利用は初めてですか?」

 

「はい、初めてです」

 

「でしたら、初回はサービスとして、半額でクリーニングさせていただきますよ」

 

「え、いいんですか?それは嬉しいですね。是非お願いします」

 

「それでは、こちらにお座りください」

 

 そう促されるままに、私は席についた。

 

「それでは始めさせていただきますね」

 

 専用の機械を奥から、持ってきながら、店員はそう言った。

 

 私は頷き、クリーニングが始まった。

 

 心が吸われていくような感じだ。

 

 20分後、クリーニングが終了した。

 

「お疲れ様でした。気分はどうですか?こんなにもゴミが取れましたよ」

 

 店員は機械の中に溜まったゴミを私に見せてきた。

 

 それを見て私は驚愕した。

 

 私が普段掃除するときの5倍ほどのゴミが取れていたのだ。

 

 満足した気持ちで、店を出た。

 

 久しぶりに清々しい気持ちだった。

 

 これで明日から仕事にも集中できるだろう。

 

 翌日

 

 私は会社で困り果てていた。自分のアイデアを全て忘れてしまっていたのだ。

 

 昨日「心クリーニング屋」で取れたゴミを見た時の衝撃で忘れてしまったのだろうか。

 

 困った私は対処法を調べた。

 

 すると、昨日行った店の横に「アイデア屋」があることが分かった。

 

 私は、迷わず予約した。

 

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心の掃除(物理) 鯨飲 @yukidaruma8

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