5 弱点(4)

「宗叡高校~ファイオファイオ!」

「「宗叡高校~ファイオファイオ!」」


 朝のランニング。


 市街地をまるで運動部のように声を上げながら走らされている。


 花ヶ崎が先頭を走って声を上げる。それを俺と杏奈が復唱する。双子は声が出ていない。青っ白くなって死にかけている。


 花ヶ崎の反射神経を上げるトレーニングの一環で、その場ですばやくもも上げをする。足をすばやく動かすと全身の運動神経の敏捷性を高める効果があるらしい。


 花ヶ崎は運動オンチなのか、動作がすごくぎこちなかった。


 もも上げをすると、花ヶ崎のお胸さまが揺れていた。


 ぎこちない動きもあいまって、こう、ボルンボルンって揺れていらっしゃる。 


 それにスマホとか寮の鍵とか入れたランニングポシェットを肩にかけててさ、その肩紐が谷間に挟まっているわけ。


 俗に言うパイスラッシュである。


 あ、聞こえなかったかな。もう一度言うね。


 パ イ ス ラ ッ ア ア ア ア シ ュ !


 まじで目に毒なわけ。花ヶ崎のパイスラまじで目に毒なわけ。俺は陰キャよろしく、目を伏せて黙々と走ることしかできないわけ。結果、オーバーペースになって手を膝について休憩するハメになってさ、「先に行ってていいぞ~」なんて言ってみんな先に行かすよね。息を整えてから、また走ろうとしたそのときだった。


「おいぃいいい」


 サングラス&マスク姿のみるからに怪しいおっさんが俺に声をかけているのである。


 おっさんといっても三十代半ばといったところか。背が高くガタイもいい。


「は、はい?」

「ハぁ……ハぁ……も、もしかして、エリハルといっしょに暮らしているのか? なあ、に、ハぁ……怪しいものじゃ、ハぁ、ないんだ」


 このおっちゃん、なにハァハァ言っちゃんてんの。


 エリハルって恵璃奈と晴瑠のことだろうか。


 なんだよ「エリ★ハルちゃんねる」のおっかけか?


 め っ ち ゃ 怪 し い ん で す け ど ! ! ! !


 そうだよな、あいつらYOUTUBEだとめっちゃかわいいよな。ファンもつくよな。


 っいうかマジもんのマジなんじゃね?


「なにを、おおお、お、おっしゃっているんですか。そんな双子いるわけないっていうか、俺は知らないっていうか」

「おや、私は双子と言った覚えはないんだが」


 ま さ か の 墓 穴 !


「あははは、そうですかね。っていうか僕部活中なので先に行きますねじゃあ!」


 こいつがJKを狙う変態だったら。


 あのふたりが不幸な目にあったら……俺は双子のご両親に顔向けができないッ!


 俺はえへえへ笑顔を作って、


 ダッシュ! 脱兎のごとく、俺は逃げた。


 それから俺は、ゲーミングハウスに帰って警察に電話した。女子高生を狙う変態が出ましたって。マジ疲れた。

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