第27話 選手権大会 その6

「げぇっ! 魔王……コーネリアっ!」




 その言葉と同時に私は――


 ――飲んでた紅茶を、まるで噴水かのように勢いよくその場でふきだした。


 私のリアクションは当然と言えば当然の事だ。


 まず、私は皇帝陛下に必勝の誓いの上でこの場にいるのだ。

 武術大会の優勝を逃して国に帰れば叱責だけでは済まない。

 更に……フランソワーズちゃんの目の前で……見た目10歳そこそこの女の子に一方的にボコボコにされてしまうという情けない光景を見せる事になる。

 相手は魔王なんだから当たり前だが、フランソワーズちゃんにはそれは分からない。

 見た感じが全てになってしまうので……フランソワーズちゃんからすると、私はやっぱり見た目10歳そこそこの女の子に一方的にボコボコにされたオジサン以外には見えないのだ。


「ねえぱぱー? どうかしたのー?」


 武闘台の上では魔王が、ジギルハイム皇国四天王:肉壁のサムソンを一蹴していた。

 やはり他人の空似……見間違いということはなさそうだ。


「いいや? どうもしていないよ?」


「ねえー? ぱぱはふらんそわーずがおうえんしたら、ほんとうにせかいさいきょうなのー?」


「……うん」


 そこでフランソワーズちゃんは天使の笑みを浮かべて私にこう言った。


「えへへーじゃあ、ふわんそわーずはぱぱをおうえんしてあげるからねー!」


 私はフランスワーズちゃんの頭を優しく撫でまわした。


 そうして天を見上げて、誰にも聞こえないような小声でつぶやいた。


 



「……さて……困った。本当に……どうしよう」












 コーネリアの試合が終了した。

 これで俺もコーネリアも博覧会会場には用事がなくなり、明日の試合まではフリーになった訳だ。


「しかしお前様よ? どうして再度……料理試合会場に?」


「明日はスープパスタ対決なんだよ」


「ふむ?」


「ダシ勝負になってくるからな。この時間から寸胴鍋を煮込んでおく必要がある。事前準備にブースを使う分には構わないとの言質も取ってるしな」


「そう言えば、我らが店で出すカレーも鶏ガラのスープがベースとなっておったの」


「骨からダシを取るなら最低でも数時間は煮込まないといけねーからな。とは言ってもそこまで手の込んだ事をする文化はこの大陸にはねーが……」


 と、俺はそこで息を呑んだ。

 試合会場には俺よりも先に来ていた連中が5人存在していた。

 その内4人はユニフォームから見て、ジギルハイム皇国のシード選手だ。

 ブイヤベース風スープを仕込む者、牛骨スープを仕込む者。

 それぞれの寸胴鍋を見てみるとネギや生姜、その他野菜と共に煮込んだりしてあって、それなり以上に基本が分かっていることが伺える。


「ちょっと舐めすぎてたみてーだな」


 俺も寸胴鍋に水を張って、釜戸に火を入れた。

 俺が作るのはトンコツスープだ。

 いや……トンコツだけじゃなく、むしろ豚肉の出汁スープだな。

 産地直送のブランド豚の肉の塊と、トンコツを発泡スチロールから取り出す。


 と、そこで周囲を見渡していたコーネリアが俺に問いかけて来た。


「あちらを見るのじゃ……どうにも……料理人っぽくない連中がおるぞ? 怪しい事この上無いのじゃ」

 

「お前も十分料理人っぽくねーだろうが」


 コーネリアの視線の先には甲冑を着込んだ人間が2人見えた。

 それはジギルハイム皇国の四天王の内の2人で、彼らは同じくジギルハイム皇国所属の料理人と談笑していた。

 ちなみに、明日の武術大会の準決勝はコーネリアとムッキンガムさんと四天王の内の二人となる。


 と、ジギルハイム皇国の料理人は彼等の仕込んでいる寸胴鍋の中のスープに白い粉末を投入した。


「あっ!」


 俺は思わずその場で声を出した。

 そして料理大会のルールブックを懐から取り出して禁止事項の項目に目を通す。

 更に武術大会のルールブックも取り出して禁止事項の項目に目を通す。


 ――やられた。奴等……本当になりふりかまってねーな……ってか無茶苦茶じゃねーか!


 そしてその場で舌打ちを行った。


「どうしたのじゃお前様よ?」


「とりあえず、お前は明日の武術大会……少しだけで良いから警戒しとけ」


「ふむ? 我が……何を心配するというのじゃ?」


「明日の武術大会……今までみたいな完全舐めプレイだと足下をすくわれるかもしれねーぞ?」


「足下をすくわれるとな? 我が? 人間とのタイマンで? 冗談も大概にせえ」


 俺の視線の先では、予想どおりの光景が広がっていた。

 白い粉末の投入された寸胴鍋からスープが皿に取り分けられる。

 そして明日のコーネリアとムッキンガムさんの対戦相手に手渡された。


「あいつらがさっき鍋に入れたのは何か分かるか?」


「そういえば何か白い粉末を入れておったの? あれは調味料なのかえ?」


「調味料と言えば調味料だし、違うと言えば違う」


「と、言うと?」


「まず第一にアレはドーピングアイテムだ」


「ドーピング?」


「ノーブルエリクサーとマンドレイクを混ぜ合わせて悪魔の尻尾とバジリスクの牙を合成させた薬だよ」


 そこでコーネリアは何やら思案する。


「身体能力が1.5倍程度に跳ね上がるじゃろうの」


 ああ、と俺は頷いた。


「普段は禁制の薬だな。そんでもって単価も高いから滅多な事では使えねえだろう」


「そうじゃのう。まあ、高ランクの武芸者を集めて高位の魔物を狩る際等には普通に使われるじゃろうがな」


「と、言う事で明日はお前も気を付けろよ?」


「じゃから何故に我が気をつけねばならん? ステータスサポート系の魔法と似たような効果じゃろう? そのようなものは、魔王の城に人間が攻め込む際は事前に幾重にも重ねがけは当たり前の話じゃぞ?」


「分かってねーな……」


「ふむ?」


「ここは戦場じゃねーんだよ。基本的に武術大会なんだから魔法も含めて……常識的に考えてドーピング系はご法度だろうよ。実際、今日はジギルハイムの連中はドーピングはしてなかったわけだろう? まあ、最初からこういう事態を想定してルールブック上は禁じ手にしてなかったみたいだがな」


「じゃからどういう事じゃ?」


「なりふりかまってられねえ程度に連中は必死になってるって事だ。ドーピング以外にも色々と仕掛けを打っていると見るのが妥当だろう」

 

 そこでコーネリアはポンと掌を打った。


「なるほどの。極端な話……敵は武闘台で相対する者に限らぬという話か」


「そういうことだ。観客席から毒の吹き矢なんかもありえる訳だ」


「ところでお前様よ?」


「なんだ?」


「ムッキンガムや我に対して連中が強硬に出ているという事は……お前様もウカウカとはしてられぬのではないか?」


「そのとおりだよ。あのドーピングの白い粉末ってのはな。実は調味料でもあるんだ」


「調味料?」


 ああと俺は頷いた。


「中枢神経に作用して、神経を興奮させて過敏にする成分が入っているんだ。戦闘にも当然有用だが……味覚も含めた五感が冴えわたり……美味さを感じやすくなる」


「つまり……?」


「連中の作ったあのスープの旨味成分は単純計算で倍になる。まあ、魔物の討伐時なんかには普通に使われる薬だから、毎日常用って訳じゃなくて一回コッキリだったら食用にしても健康に害はない。その意味ではチート級の調味料だろうな。いや……調味料って言うのもアホらしい。あれは完全に味覚を騙すようなクスリだ」


 しばしコーネリアは押し黙る。


「のう……お前様よ?」


「何だ?」


「勝てるのか?」


 そこで俺は不敵に笑った。


「旨味が2倍になったところで、相手になんねーよ。仕入れも違えば調理知識も違えば調理技術も違う。負ける要素が無い。だが、今回は俺も流石に……キレた。だから――」


「だから?」





「本気で戦ってすらやらねーよ。俺はとことんまで手を抜いて……その上で奴らをぶっちぎる」





 そこで不思議そうにコーネリアが訪ねてきた。


「本気で戦わずに……とことんまで手を抜いて、その上で圧勝するじゃと?」


「ああ。まともに戦う気が無い奴を相手に、こっちもまともに戦ってやる道理なんてないだろう?」


「しかし、連中はそれなり以上の料理人であるのじゃろう? しかも旨味2倍の調味料を使っておる訳じゃ。どうやって……とことんまで手を抜いてぶっちぎるつもりなのじゃ?」


 そうして俺はニコリと笑って親指を立たせたのだった。


「禁断の調理法があるんだよ」


「禁断……じゃと?」


「お袋には邪道だから……賄い飯以外では絶対に使うなと言われていたんだ。そう、絶対にお客さん相手には使うなと言われていた……ウチの店では禁忌とされてきた禁断の調理法だ。今回は――それを使う」


 俺は沸騰した寸胴鍋に長ネギとザク切りのショウガ、そしてトンコツを投入する。

 同時に豚バラの塊を投入し、アクを取りながら1時間ほど煮込んだところで豚バラの塊を湯から引き上げた。

 引き上げた豚バラの塊を、醤油と味醂とニンニクと生姜の漬けダレに投入して煮たたせる。

 更に1時間程度が経過して、俺は火力を弱火に変えた。


「良し……後は一晩放置だ」


 汗をぬぐいながらコーネリアに視線を向ける。

 彼女は座椅子に座っていたのだが、暇を持て余していつの間にか寝入ってしまったらしい。


「おい、帰るぞ?」


「……ほぇ?」


 軽くヨダレを垂らしながら寝ぼけ眼でコーネリアは応じ、俺達は帰路についた。



 


 ――そして翌日。


 スープパスタ対決の試合開始の3時間前に俺とコーネリアは会場に入場した。

 調理ブース内では出場者達が世話しなく走り回り、中々に慌ただしい。

 と、俺の調理スペースに到着した所で、コーネリアが大きな声で叫んだ。


「なんじゃこれはっ! スープが……無茶苦茶な事になっておるっ!」


 先日に仕込んだ寸胴鍋の中が真っ赤に染まっていた。

 野良犬の血液でも入れたらしく、犬の生首が煮込まれているというオマケつきだ。

 そこで、拳を握りしめてプルプルとコーネリアは肩を震わせた。


「……許せぬ……っ! 犯人は絶対に……奴等以外にはありえぬっ!」


 コーネリアはジギルハイムの4人の料理人を睨み付ける。


「まあ待てよコーネリア」


「これが黙っておられるかっ! お前様が許そうと……この蛮行には……我は黙っておれぬっ!」


「だから待てって。そもそもこれは想定の範囲内なんだからさ」


「予想通りじゃと?」


「奴らがなりふりかまってないのは昨日の時点で俺達は知ってたよな。それでスープを放置するなんざ馬鹿のすることだ」


「確かにそれはそうじゃのう……?」


「まあ、別にスープが台無しになってなければそれを使っていたけどな。俺は昨日言ったはずだよな? 本気は出さないってさ」


「つまりどういう事なのじゃ?」


「今から水を沸騰させて、諸々の準備で1時間。2時間の……やっつけ仕事でスープを作る」


「しかしそれで……お前様は本当に勝てるのか? スープパスタは……時間をかけたスープ作りが肝要じゃと言うておったではないか?」


「あの時俺はこうも言って無かったか? とことんまで手を抜いた上でぶっちぎるってな。安心しろよ……3時間もあれば十分だ」


「と……言われてものう?」


「奴らが使っていた白い粉ってあっただろ?」


「うむ。確か……舌の感覚が鋭敏になって旨味が2倍に感じられるのじゃろう?」


「奴らは魔法の白い粉。で、俺も似たような白い粉を使う」


「白い粉……じゃと?」


 ああと頷き俺は言った。


「魔法ならず、科学の白い粉だ」


 再度、トンコツを寸胴鍋で煮込む事2時間。


 豚バラ肉を1時間ほど湯で煮込み引き上げて、醤油と味醂のツケダレで再度煮込む。


 更に豚の背油を2時間ほど別の鍋でお湯で煮込んだ後、ザルにあげる。

 そうして背油をミキサーにかけ、醤油と味醂のツケダレの中に投入する。


 次にニンニクを20個ほど皮むきし、みじん切りにして皿にまとめる。


 最後に、スープの寸胴鍋とは別に火をかけていた寸胴鍋で、モヤシと極太麺を湯に通す。


 微かにシャキシャキ感を残してモヤシをザルにあげ、麺は若干固めに仕上げる。

 



 ――その作業でジャスト3時間が経過した。



 



 


 古代ローマのコロシアムのような満員の会場内。


 会場中央には審査員が10名がテーブルに座っていた。その全員が美食で知られる各国の著名人だ。



 そんでもって、審査を受ける料理人は8名となっている。

 その内4人はジギルハイム皇国の料理人となる。



 そうして、実食の順番はジギルハイム皇国以外の人間が先に試食を受ける事になる。

 この順番は明らかに連中が仕組んでいるものだ。

 連中は味覚を鋭敏にする白い粉をスープに混ぜ込んでいる。

 もしも連中のスープを飲んだ後に、別の参加者が作った料理が食べられると……その料理も2倍に美味しいのだ。

 それでは本末転倒なので、食べる順番までもが仕組まれているという寸法だ。




 ちなみに俺の番は都合の良い事に4番目となっている。



 先の3名が思い思いの自信作のスープパスタを出し、それぞれ批評を受けていく。

 と、ようやく俺の順番が回って来た。

 俺の料理が10人の審査員の各々の前にサーブされていく。



 そこで会場内からどよめきが起こった。



「あんなスープパスタ料理は見た事ないぞっ!」


「何なんだアレはっ!」 

 

 観客だけではなく審査員もまた目をパチクリとさせている。




 まあ、そりゃあそうだろう。






 ――俺が出したのはニンニクたっぷりの……爆盛りモヤシラーメンなんだからな!






 ちなみに、今までの料理人連中は審査員達が8人分の料理を食べる事を前提に少量ずつしかスープパスタを出していない。

 で、そこは審査員達も先刻承知で、腹が一杯にならないように、食べても一口か二口で抑えている。

 まさに、味見と言った風情だ。




 ――だが、俺が出したのは明らかに爆盛りのモヤシラーメンだ。




 チャーシューなんていう次元ではない、豚の塊が丼にはゴロゴロと盛られ、ラーメンの上に盛られたモヤシに至ってはエベレストも真っ青の高度を誇っている。

 そしてモヤシの上には、エベレスト覆う雪のようにこれでもかと振りかけられた味付け済みの背油だ。

 更に麺の量自体も通常のラーメン屋の3倍はある。



 その丼が、10人全員の審査員の眼前に置かれているのだ。



 ギットギトの油塗れのラーメンに、審査員連中は困惑した表情を浮かべている。


「これは……」

「見た目が……」

「下品……だ」


 まあ、これ系のラーメンは見た目も重要だ。

 けれど、これはスポーツ系の部活帰りの男子高校生やら大学生には絶大な人気を誇る爆食系なのだ。

 必然的に、下品は褒め言葉になる。


 で、恐る恐ると審査員の誰かが一口……ラーメンに口をつけた。




「これは……!?」



 二口目を食べると同時に、審査員の目が血走った。

 そして彼はそのまま一心不乱に丼の中の麺をかっこみ始めた。


 ズズっ……ズズっ……ズズっ……ズっ――ズビっ……ズビビっ……ズビィーーーっ!


 その様子を見て、恐る恐る……という風に他の審査員達もラーメンに口をつけはじめる。


「「「これは……っ!!!!?」」」


 ズズっ……ズズっ……ズズっ……ズっ――ズビっ……ズビビっ……ズビィーーーっ!


 ズズっ……ズズっ……ズズっ……ズっ――ズビっ……ズビビっ……ズビィーーーっ!


 ズズっ……ズズっ……ズズっ……ズっ――ズビっ……ズビビっ……ズビィーーーっ!


 ズズっ……ズズっ……ズズっ……ズっ――ズビっ……ズビビっ……ズビィーーーっ!


 ズズっ……ズズっ……ズズっ……ズっ――ズビっ……ズビビっ……ズビィーーーっ!


 ズズっ……ズズっ……ズズっ……ズっ――ズビっ……ズビビっ……ズビィーーーっ!



 ただただ、麺を吸い込む音だけが会場に響き渡る。

 審査員全員の目が血走って全員が全員、喉がつまるんじゃなかろうかと言う風に猛烈な勢いでラーメンを平らげていく。

 彼らは全員が残る4人――ジギルハイム皇国の料理人の審査を残しているのに、満腹になるか否かなど関係ないとばかりに、ただひたすらに麺をすする。



 ズズっ……ズズっ……ズズっ……ズっ――ズビっ……ズビビっ……ズビィーーーっ!


 ズズっ……ズズっ……ズズっ……ズっ――ズビっ……ズビビっ……ズビィーーーっ!


 ズズっ……ズズっ……ズズっ……ズっ――ズビっ……ズビビっ……ズビィーーーっ!



 その様子を見ていたコーネリアが俺に不思議そうに尋ねて来た。


「これはどういう事なのじゃ?」


「化学調味料だよ。旨味成分を何倍にも引き立たせる……魔法の粉だ」


「カガクチョウミリョウ……じゃと?」


「ドギツイ塩気と、ドギツイ油の中で……化学調味料は更にその魔性を爆発的に増すんだ。一口喰っちまったら……もう止まらねえ。正当派のウチの店では禁断の調理法で……禁断の邪法だ」


 ズズっ……ズズっ……ズズっ……ズっ――ズビっ……ズビビっ……ズビィーーーっ!


 ズズっ……ズズっ……ズズっ……ズっ――ズビっ……ズビビっ……ズビィーーーっ!


 ズズっ……ズズっ……ズズっ……ズっ――ズビっ……ズビビっ……ズビィーーーっ!



「しかし、何故に奴らは……あれほどの勢いで? あの食物は……よほどの大食いにして、ようやく完食可能と言う量じゃぞ? それを全員が……フィニッシュまでいきそうな勢いじゃ!」


「それが化学調味料のラーメンって奴なんだよ。満腹中枢を刺激……いや、麻痺させて、ジャンク一色で舌を魅了しちまうんだ。俺が普段作る料理の旨さとは……質が違う。もう、それはほとんど洗脳魔法に近いんだよ。それが故にウチの店では禁忌の調理法とされている」


 取り付かれたようにラーメンをすする審査員を見て、コーネリアは畏怖の表情と共に唸るように言った。


「なるほど……確かにあの審査員達……鬼気迫る表情をしておる……」


 ちなみに、本気でやっているラーメン屋さんの名誉の為に言っておく。

 俺の作った今回のラーメンは正直に言うと手抜きだが、本職のラーメン屋は本当に手間暇をかけてキッチリと作っている。

 化学調味料がガッチガチなのは大体のラーメン屋さんで同じだけれど、化学調味料=手抜きって事では決してない。

 

 実際に自分でラーメンを作ってみれば分かるが、あくまでも化学調味料ってのは旨味の掛け算の為の魔法の粉なのだ。


 キッチリと取られたスープの出汁と、そして丁寧に処理された油があってこそ、初めて化学調味料による旨味の掛け算が行われる。


 適当に作ったスープにいくら化学調味料を入れても……何て言って良いのかな、要は化学調味料にスープが負けてしまって、逆に味気なくなってしまうのだ。




 ――まあ、適当に作ってもそれなり以上になっちまうから魔法の粉って呼ばれてんだけどな。俺が作ったラーメンは、それこそ適当に作ってる下手なラーメン屋よりは確実に美味い。




 それはさておき……と、俺はジギルハイム皇国の料理人4人に対してニヤリと笑った。

 

「残念だったなお前等」


 審査員のほとんどが爆盛りラーメンをスープまで平らげてしまった。

 つまりは、審査員連中の胃の空き容量はほとんど0である事を意味している。




「審査員連中は爆盛りラーメンを食べちまって腹一杯だ。お前等のスープパスタが……腹に入る余裕はどんだけあるんだろうな?」


 まあ、控えめに言っても腹一杯の時には何を喰ったって美味くはねーわな。

 そうして俺は言葉を続けた。

 

「終わりだよお前等は」



 そのまま俺は満面の笑みで、連中に向けて右手中指を作ってファックサインを作った。



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