第14話 トンネルの完成から50年後

 地下に巨大なナマズ王国ができて50年が経ちました。

 大ナマズ族がそれまでと全く違う発展を遂げているのを国民全員が感じていました。

 当時、シティの専門学校で習得した技術を元に30年後ナマズ族の技術者だけで水中にもいろいろな建物が建設されました。そしてナマズ王国にもいろいろな専門学校や大学が建っていきました。

 地上には、レイバーピープルが建てた巨大な緑の公園や美しい街並みがありますが、水中にもいろいろな建物やお店が並ぶ美しい街になっていました。

 50年前まで泥の穴の中がとても安心できる場所だったのですが、今はほとんどの大ナマズがそんなことは忘れて近代的な建物の中で自分たちの生活を楽しんでいました。

 中心の広大な湖はガロン湖と呼ばれるようになりました。そしてその周囲は官庁街となりましたが、その中に小学校もでき子供たちの声がいつも聞こえる街になりました。そしてもちろんアーリーンが希望した通り、各区のすべてに小学校ができました。


 建国50周年の行事が行われ、あちらこちらでパーティが開かれました。

 そしてガロン湖の宮殿の前に多くの国民が集まりました。

 国民が歓声を上げるとテラスにガロンが現れ笑って手を振りました。

 アーリーンが少し後ろに下がって微笑んでいました。

「リーン、ダメだよ。もう僕の横に立つんだよ。」

「 …」ニッコリしながら静かにガロンの横に立ちました。

 ガロン国王ばんざーい!!♪ リーン様ばんざーい!!!

 国民がバシャ!バシャ!とたくさんの水しぶきを立てて歓声をあげました。


 少し前の事…

 新たな国を造ったガロンはゆるぎない国王としてすべての国民から崇拝されました。そして国王の周辺ではアーリーンがお妃(きさき)になるのが当然と考える雰囲気に満たされていました。

「今日の会議は11時からです。」「はい♪わかりましたお妃様!」 

「わ!私は妃ではありません。」はずかしそうに顔を赤くして下がるアーリーンでした。

「お妃様♪」食事係が呼びかけました。

「や!やめて下さい。皆さんは単なる世話係の私をなぜそんなにいじめるのですか。」

「あら、みんな新しいお妃様はアーリーン様だと決めているのです。

 それともガロン様が全然知らないお妃候補の女性を連れて来てもいいですか?」

「それは …それは答えられません。」

「キャハハ♪」いつもてきぱきしていたアーリーンがもじもじするのを見てみんな楽しそうに笑いました。


「行政参謀様、皆さんはなぜ私を妃(きさき)と呼んでからかうのですか。」

「アーリーン様、それはからかっているのではなく、みんなで決めたのです。

 もう国政は安定し、ナマズ王国は考えられなかったような大発展をしています。偉大なガロン様はこの国に相応しい家族を持つべきです。」

 アーリーンはもう答えがわかっていました。

「 … そんなことはガロン様がお決めになることです。」

「はい!ガロン様もお決めになっています。がはははは!♪」

 聡明なアーリーンはみんなが望んでいることを前から理解していました。

 そしてすでにガロンと強い絆(きずな)で結ばれていることも事実でした。

 でもなかなか自分が信じられなかったのです。


 ある日、アーリーンはガロンに呼ばれました。

「アーリーン、心の中でずっと前から決めていた大事なやり残した事を君に伝えるよ。」

「偉大なガロン様、ガロン様が望まれた新しい国ができました。国民の皆さんもとても喜んでいます。フフフ」

「ダメだよ、アーリーン。今度は君が望まれて妃になるんだよ。僕は君が大好きさ。そして君は僕がきらいかい?」

 もうわかっていることのようにいたずらっぽくガロンが聞きました。

 でもガロンも内心、真面目なアーリーンに断られたらどうしようかとドキドキしていました。

「はい、ガロン様が大好きなので今まで通りずっとお側(そば)に置いてください。」

「 … … お側というのは、世話係じゃないよ。」

 アーリーンはガロンをしっかり見て小さく答えました。

「はい。」

「やったー!!!」偉大な王が少年のように喜んでアーリーンを抱え上げてクルクルまわりました。

「 … 」

 そしてアーリーンが静かなのであわてて床におろしました。

 アーリーンは三度目の涙を少し流して言いました。

「ガロン様、ありがとうございます。私の人生で一番幸せな時です。

 … ひとつだけお願いがあります。」

「なんだい?」

「私の本当の名前はアーリーンではなくて実はリーンです。これからはリーンと呼んで下さい。」

「え!アーリーンがすてきだよ。アーリーンじゃだめなのかい?」

「はい!アーリーンは世話係の名前、リーンが本当の名前なのです。ガロン様と一緒にあたらしい世界に進むので本当の名前で呼んで下さい。よろしくお願いします、ガロン様」

 ガロンはアーリーンが時々見せる強い意志のようなものを感じて答えました。

「わかったよ。そうだね。新しい名前もいいね。僕の愛する妻リーン♪」

「はい♪ フフフ♪」

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