EPISODE31:「仲間」

「次は誰がいいかな……?」


 悩むカイにリョウはふと気になった事を言う。


「なあ」

「うん?」

「お前の友人で素手で戦う奴っているか?」


 イオリとの戦いで見せたカイの戦法。それを見て訊ねた。


「いるよ」


 目的の一部が自分と同じだった友人。盟友


『殺してやる!!灰も残さず消し去ってやるぅぅぅぅぅぅ!!』


 クリス。悪性は『憤怒』。


「元々良い所の出だったんだけど……全てを失った。そして復讐者になった」


 才能があった戦闘技術と手に入れた劔能オルガノンを使い、憤怒、憎悪、怨念により復讐対象を殴殺、蹴殺、滅殺した。灰すら残さず殺して行った。


「俺はアイツが放って置けなかった」

「……」

「だから関わった」


 復讐者にも救いがあっていいはず。有名な復讐者エドモン・ダンテスにとっての救いをもたらす者達エデやファリア神父になろうとした。


「まあ最初は邪険にされたね」


 苦笑いするカイ


「でも放って置けなかった。だから関わった」


 あのままでは駄目だ。何も残らない。だからこそ必死に関わった。


「そのうち、どうにか仲良くなった。でも……」

「……」


 黙り込むカイ。察したのか何も言わないリョウ。

 確かに彼女は復讐はやり切った。だがほとんど何も残らなかった。


「……。すまん。湿っぽくなった」

「いや……」

「じゃあお次は……義妹」

「妹がいるのか?」

「……自称妹」

「自称!?」


 どこか憎めない年下の妹分。


『なんスか!アイちゃんが可愛くないんスか!』


 コアイ・マラル。愛称はアイ。因みに一人称は『アイちゃん』。そして悪性は『■■』。


「助けたら何か慕われてね……。犬っぽかった」

「ふうん」


 少しだけ場が和む。


「いつも一言余分で」

「……うん」

「人の倍……十倍は食べて」

「大食いなのか?」

「おう。おごりだと倍は食う」

「最低だ!?」


 稼いだ金を結構使われた。何度アイツに相棒と関節技を掛けただろう。でも……


「どこか憎めなかった」


 カイの逆鱗には一度も触れなかった。どこか危機回避の上手い奴だった。だが――最後は危機に自ら突っ込んでいった。


「義妹の次は……義姉だな」

「……また自称だったりしないよな?」

「よくわかったな」

「当たっちゃった!?」


 いきなり出来た姉貴分。


『私が今日からあなたのお姉ちゃんです!』


 アラクネ。悪性は『■■』。


「あの時はちょっと荒れていてね」

「お、おう」

「ケンカで相手を必要以上にブチのめしたり、威張るだけの馬鹿に気合いを入れたり、不味い料理屋の代金を踏み倒したり……」

「どこの不良!?」


 色々あって荒れていたカイ。そんな時に出会った。曰く放って置けなかったそうな。


「で、世話焼かれて、多少マシになった訳」


 恐らく合わなかったら自分は酷い事になっていたかもしれない。感謝はしているが……


「恨みもちょっとある」

「な、何したんだよ……」

「あの事を何も言ってくれなかった事。そしてある事を証明する為に取った行動」


 いくら何でもアレはない。そう思う。誰しも秘密はあるものだし、言いづらいかもしれないが言って欲しかった。


「じゃあ次は……」


 その時の義姉と結託していた戦闘狂。


「宿敵」

「て、敵?友人じゃなくないか?」

「ライバルとも言う」

「ああそう言う……」


 『強敵』と書いて『とも』と呼ぶという奴である。


『ギャハハハ!笑え!嗤え!哂え!』


 ソルドアウト。悪性は『闘争』。


「凄い戦闘狂。まあTPOを弁えているし、必要以上の殺生はしないからマシっちゃマシ」


 あの“糞屑”よりマシ……というか比べるのが失礼千万。


「だからまあ友人って言える」

「ふうん」


 そうでなければ――今彼の劔能オルガノンを十全以上に使えていない。


「けど……」

「けど?」

「あの野郎……」


 少し怒気を漏らすカイ。彼はやらかした。カイと本気で戦う為に地雷をワザと踏んだ。そして――


「……別の道あっただろうに……」


 物悲しそうにカイは呟いた。


「さてお次は……と。アイツかな」


 穏やかで優しい人。


『わたくしは信じています。きっと皆救われる事を』


 マリア。悪性は『■■』。


「朋友。もしくはポンヨウ。優しい人だった」

「ふうん」

「聖職者でね聖女って呼ばれていた」

「へえ。回復能力でも持っていたのか?」


 リョウの疑問に首を横に振るカイ。


「ううん。破壊能力を持っていた」

「なぜに!?」


 理不尽や不条理を砕く人。その副産物で凄まじい怪力を持っており、それを活かして人助けをしていた。とても優しい人。だからこそ“聖女”と呼ばれた。


「でも……優し過ぎた」

「え」

「全てを救おうとして救えなかった。しくじった」


 だからこそあんな結論に辿り着いたのだろう。未だに彼女とのやりとりは思い出される。


『あなたを殺してあげましょう救ってあげましょう

『お前を殺してやる止めてやる


「……」


 少し沈黙後、口を開く。


「そんで次は……」


 ふと頭を過ったのはあの笑顔。

 のんびり屋なスピードファイター。


『大丈夫~?生きてる~?』


 アンジェリカ。悪性は『憎悪』。


「友達」

「どんな奴なんだ?」

「ん?いい奴だよ」


 それは間違えない。目立った才能や特異性はなかった。強いて言えば劔能オルガノンのチカラが少し変わっていた位だろうか?


「でも……」


 ふと目を伏せるカイ。


「前に言った言葉覚えてる?」

「どれだかわからん」

「『お前が憎い。殺してやる』って」

「あ、アレか」

「アレ言ったのが友達」

「!?」


 リョウの眼が見開かれる。


「アイツさ、俺が仇だったんだ。だからこそ俺に近づいた」

「え……」

「まあ幾らか誤解もあったんだけど……」


 それでも自分が復讐対象出会った事は間違いない。ただ――


「それでもアイツは俺を殺せなかった」


『殺せない……殺せる訳ないだろう……。キミは……ボクの友達なんだから』


 あの泣き顔が忘れられない。


「友である事、仇である事。矛盾は両立できるんだよ」


 遠くを見るような顔になるカイだった。 

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