EPISODE30:「友人」

 だが――


「俺さ、夏休みに仲間……友人達が出来たんだ」


 ポロリとカイの口から言葉が漏れる。


「お前……」

「聞きたいんでしょ?まあ時間つぶしになるし、多少なら言ってもいいかなって」


 そう言ってカイは話を続ける。今日は綺麗な星月夜だから言いたくなったのかもしれない。


「まあ聞きたくなくなったら止めて」

「お、おう」

「じゃあ、最初から――」


 そう言ってカイがまず思い出したのは――


『君が新人だね。宜しくね』


 全ての始まりと言っても過言ではない友人。


「戦友、もしくはカメラード」


 メアリー。戦場を敵の血に塗れ戦い抜く“血塗クリムゾン”。


「ドイツ語?と言うか戦友?内戦にでも参加したのか?」

「みたいなもん。……手っ取り早く飯のタネ稼ぐには丁度良いんだよ」


 兵士には衣食住が支給される。だからこそカイは異世界に落ちて初めに兵士募集に飛びついた。チカラが手に入る当てすらあったのだから渡りに船だった。そこで出会ったのが彼女だった。


「色々教えて貰った。いい奴だった」

「そうか」

「それに何よりまともだった」


 彼女はカイの異世界での友人達の仲間の中でも一際まともだった。『十の誓い』というものを持ち守っていたので当然かもしれない。

 内訳は――


 Ⅰ.崇高な精神と品格を備える。

 Ⅱ.同胞を尊敬し、友愛と平和を守る。

 Ⅲ.常に前向きに考え行動し、創造性と力強さを持つ。

 Ⅳ.真実、公正、正義を守り、試練や誘惑に立ち向かう。

 Ⅴ.常に自身の言動に責任を取る。

 Ⅵ.他人の力を頼りにしない。

 Ⅶ.前を向いて歩き続ける。

 Ⅷ.愛する事は守り合う事。

 Ⅸ.自分を信じて決して後悔しない。

 Ⅹ.一人で駄目なら皆で力を合わせる。


 こんな感じである。


(まあ、そのせいか実力的には一番弱かったな……)


 ふと思うカイ。

 劔能者バルバロスには階梯があり、第二段階に覚醒するには自分自身の悪性――闇や影、業、罪、歪み、負の側面、認めたくない物等に向かい合わなければならない。……なのだが、戦友の場合はそれがなかった。だからこそ戦友は後々に出会う友人達が第二段階以上に達していた(もしくは達した)のに第一段階のままだった。


「強い奴ってさどこか外れているんだよ」

「……そういうもんか?」

「そういうもん。でも……」


『君は生きるべきだ。キー』


 彼女の最後の行動が全てを分けた。


「人間的には出来た奴だったな」


 そうして次に思い出すのは――


『『『立ち上がれ!』』』

『『『斬り伏せろ!』』』

『『『進め!進め!!進み続けろ!!』』』


「先人達」

「せ、先人?達?」

「そうとしか言いようがない。なんて言えば良いのかな……」


 少し考え、ふと思い出す。


「ああそうそう。かなり年月を経た魔導具なんかで所有者の記憶や技量、残留思念を保持している物があるじゃん?」


 魔導具と劔能オルガノンは一応似ている。だからこそこの例えで間違いはない。


「聞いた事はあるけど……それか?」

「うん。みたいな感じ。だから先人達」


 彼がに手に入れたチカラ――能力変質前――の且つての所持者達。その残留思念。会話して何度も助けられた。

 そして――能力変質後、手に入れた残留劔能オルガノンに残されたチカラと能力、技量等々。それを理解してこそ保存ストックが可能となる。


「人は死んでも名だけじゃなくて記憶も残るんだよ」


 感慨深げに言うカイ。そして次は――


『死ねでござる』

『お前が死ねよ。大馬鹿野郎』


 馬鹿二人。悪性は『殺意』。


「悪友と親友。(一緒に紹介したら怒るかな?)」

「いい奴だったのか?」

「ううん。全然。と言うかこの世に存在しない方が良い」

「どんな奴ら!?」


 思わずツッコミを入れるリョウ。それにケラケラ笑ってカイは当たり障りの内容に答える。……流石にこの二人は今はオブラートに包んで説明しなければならない。


「悪友は――最強を目指す求道者」

「……それなら格好良いんじゃないか?」

「言葉だけならね」


 彼の行動を思い出す。最強になる為に――この世界に存在する全ての知的生命体の抹殺をしようとしている馬鹿。最初に家族や兄弟姉妹弟子、街の人々を皆殺しにしてメインディッシュに師匠を殺して出奔した。そのまま殺戮行脚を続けている傍迷惑。……流石にこれは言えない。


「んで親友は――」

「……(不安)……」

「……表向きは普通の人」

「裏向きがあるのかよ……」


 彼女の裏を思い出す、それは連続殺人鬼。何万人も殺した彼女。


『私にとって殺しはね――生き様なの。呼吸、食事、睡眠、排泄、瞬き』


 人にとっての生理現象。しなければ死ぬ。


『鳥は飛んで、魚は泳ぐ。そして私は人を殺す。それと同じ。だから止められない』


 こちらも傍迷惑な馬鹿である。……まあ大馬鹿と違って全滅させようとしていなかったのは救いだろうか?


(ま、二人とも自業自得の最後を遂げたけど……)


 悪友と親友馬鹿二人は当たり前だが恨みを買いすぎて討伐された。とは言え――


『よう、馬鹿共』

『あ……』

『キー?』

『言ったよな?いずれ報いを受けるって』


 ――あの時は、間に合った。


『まあいい。……どうした?殺してやるから掛かってこい』

『あ、ああ!忝い!』

『ありがとう……!キー!』


 この手で介錯できたのは救いだろうか?


「アレは救いになったのだといいな」


 小さく呟くカイだった。

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