EPISODE28:「開始」

 暫くするとイオリが生徒達の前に出る。


「さて、皆。そろそろ始まる時間だよ?説明は……一応しておこうか」


 今回の野外実習の決まりは単純。『武蔵の森』のチェックポイントを通過して一泊二日する事。道中出て来た魔物はどうしても構わない。討伐して証明出来れば加点される。本当に危なくなったら助けを呼んでも構わない。


「――といった感じだよ。じゃあ皆頑張ってね」


 その言葉と同時に野外実習がスタートする。森に入っていく生徒達。因みに全員恰好は動きやすい服装(制服と自前の服装が半々位)でリュック(普通の物。空間拡張とかはしていない)を背負っている。


「危険は特に無さそうだな」

「……今のところ魔物の気配もないな」


 カイの班はリョウが先頭でカイが殿を務めている。最初のチェックポイントを通過し多少会話をしながら歩く四人。


(感知にも異常なしっと)


 因みにカイは劔能オルガノンを皆にバレないように使っている。使用しているのは義姉の【糸絃闘々 アリアドネ】。糸の形状をしており彼女の糸術(糸を使った戦闘技術)と合わせると単純に人を縊って暗殺するだけでなく、切断や打撃、防御、移動、感知、捕縛、治癒、造形まで可能とする万能なチカラ。この班の面々には愛着が湧いて来たので使う事にしたのである。


(クオンは大丈夫かな……)


 ふと気になったのは友人であるマリカ。自分とは違う班になってしまった。せっかく出来た友人に何かあったら嫌なので万が一……否、億が一彼女に何かあってもいいように手は打った。過去の経験から結構過保護だった義姉が自分に使っていた手である。だが……


(そういえば……俺って友人と死別しまくっているな)


 ふと思うカイ。

 最初に同胞もしくは兄弟姉妹みたいな人達と死別し、異世界では大事な友人達を全員亡くした。後を追おうかと思った事は何度かある上、人間関係全てを捨て去り一人で生きようとした事もあるが――


(人は一人では生きられないからな)


 それを止めたのも友人達だった。だからこそ今の自分がいる。それに――最後に相棒はもう何も失わないと言ってくれた。


「今度こそ上手くやる」

「……何か言った?」


 タナカが声を掛けて来た。どうやら聞こえたらしい。なので適当に説明しようかと思った時だった。


「反応有り!警戒!」


 糸に反応を感知。声掛けをするカイ。有耶無耶に出来そうなのでありがたい。


「「「「「!」」」」」


 その言葉に班全員が戦闘態勢を取る。出て来た魔物は……


「ゴブリン……」


 子供程の背丈の小鬼――ゴブリンだった。数は十体程。武器は粗末な棍棒のみで上位個体や特異個体はいない。下級の魔物である。


「どうする?」

「一人二~三体は倒せ!」


 リーダーであるリョウの指示。単純だが明快である。


「「了解」」

「あいよ」


 そしてゴブリンとの戦闘が始まる。


「この程度なら……」


 リョウが懐から出したのは札。それを幾つも投擲すると鋭い刃となりゴブリン三体を斬る。一枚だけでは威力は低いが何枚も喰らえばズタズタになる。彼は札を使う魔導術士である。


「これでどうや」


 タナカはゴブリンにそのまま突っ込む。棍棒を振りかざし迎撃するゴブリンだが小棒は風の鎧に阻まれ彼の体に届かない。そのまま殴られ蹴られ絶命するゴブリン。彼は風を纏って戦う魔導戦士である。


「水よ」


 サトウは水の弾丸でゴブリンを撃つ。急所に当て数少ない弾数で仕留める。彼が水の魔導を得意としており、攻撃や防御だけでなく回復までこなせる魔導術士である。


 そしてカイは――


「弱いな」


 糸を使いあっという間にゴブリンを縊り殺す。数秒もかからない。昔はゴブリン数体がギリギリだったのに大した進歩である。

 そんな彼にリョウが声を掛けて来た。


「お疲れ。早いな」

「そっちこそ」


 するとタナカとサトウも会話に入る。


「二人とも強いな」

「これなら安心だな」


 そういう二人にカイは――


「油断は禁物だよ」


 注意喚起する。そして――


「――ねえ知ってる。生き残る奴の条件って」

「「「?」」」


 カイの言葉に三人が首を捻る。それに答えを言うカイ。


「強い奴でもない」


 力で勝つだけでは駄目である。


「賢い奴でもない」


 頭が良くてもどうにもならない状況がある。


「適応する奴が生き残るんだよ」


 カイ自身の経験則の言葉であった。

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