EPISODE27:「強者」

 ★★★



 魔導士でかなりの実力者に与えられ持っていれば一目置かれる戦闘系の称号がある。それこそ“双射”、“三槍”、“五剣”、“六撃”、“七色”、“九無”の六つである。


 “双射”は銃や弓等の射撃武器を使う魔導戦士だけでなく、百発百中の精度を誇る魔導術士も該当する。初歩的な攻撃三属の魔法の一つである〈~アロー〉しか使えないで選ばれた魔導術士もいる。


 “三槍”は槍を主武装メインウェポンにする魔導戦士――魔導槍士が該当する。シンプルな槍だけでなく、薙刀や、馬込みの突撃槍ランス使いもおり、刃の付いていない長棍や杖で選ばれた人もいる。因みに双節棍(ヌンチャク)や多節棍はアウト。“六撃”に入る。


 “五剣”は刀剣を主武装メインウェポンにする魔導戦士――魔導剣士が該当する。単純に剣一つで戦う人が多いが、中には副武装サブウェポンで暗器や糸、銃を使う者もいる。


 “六撃”は斧や鎚、棍棒等の打撃武器を主武装メインウェポンにする魔導戦士が該当する。どうでもいい事だが鞭使いでなった人もいるらしい。


 “七色”は魔導術士や異能魔導士が該当する。風や水、攻撃三属といった属性術士だけでなく戦闘力さえ示せれば良いので、錬金術や回復使いで選ばれた人もいる。……因みに回復使いは“九無”の一人と素手戦闘ステゴロが互角の怪物である。


 “九無”は徒手空拳で戦う魔導戦士が該当する。魔導や異能力無しの純粋な体術の実力が高い上に身体操作の技術が凄まじく、内臓曲げや関節外し、体毛操作等自由自在。


 この六つの称号に選ばれた三十人はそうと分かれば一目置かれる。探索士をやっている“双射”、“六撃”、”七色”は様々な依頼から引っ張りだこになっている事からもそれが伺える。だが――これらの称号は選ばれるのも簡単ではない。

 の称号は四年に一度魔導協会主催の大会が開かれ、それの上位五人に入ると、今代と決闘する機会が得られて勝てばなれるがそう簡単ではない。

 そして“五剣”と“九無”は魔導協会ではないとある二つの団体(集団?)の最強格が選ばれているので更に厳しい。そのため運よくなれたとしても三日天下どころかわずか一時間で交代という事例まであったそうな(笑)。

 その為、その座に長年付き続けている者は尊敬され確かな強者と言う事になる。だからこそ重要人物の護衛や上級以上の魔物討伐に駆り出される事がある。だからこそ十数年前の痛まし過ぎる悲劇以降、学園生徒の護衛には万が一があったら困るので彼彼女らが駆り出される。



 ☆★☆



 そして特にこれといった事件や騒動もなく実習日当日。……ただイオリが事前に説明を忘れていて実習の班決め等が結構ギリギリになった。

 毎年実習先は違い、去年は下級魔物しか出ない遺跡、一昨年はとある平原。そして今年は『武蔵の森』で行われる。


(昔よく入ったな……)


 そう思うカイ。一度学園に集まってからバス(この時代の車の燃料は電気や魔力、水素が主力。ガソリン車は絶滅危惧種)で現地まで移動。そして今は説明前の待機時間といったところである。

 実際そこは下級の獣や蟲系の魔物しか出ないため、夏休み異世界落下前の彼でもどうにかなる狩場であった。だからこそ選ばれたのだろう。

 周りが遠足気分の中、カイの表情は明るくない。

 

「まあここなら大丈夫だろ。な?」


 そう同意を求めてきたのはリョウ。カイと同じ班である。計四人が彼と行動を共にする。因みにカイへの対応も悪くはないので上手くやれていた。


「……多分ね」

「た、多分て」

「シンゲツはここに行った事あらへんの?」


 同じ班の一人――タナカ=ハナオの言葉(似非関西弁)にカイは苦笑する。


「あるよ。何度も。数えきれない位には」

「……だったr」

闇鍋の世界今の時代は何が起こるかわからないからね。だからこそ……な?」


 そういうカイにタナカは沈黙する。すると……


「だからこそ万が一があっても大丈夫なように先生や探索士の皆がいるんだよ」


 カイと同班のサトウ=タロウがタナカを安心させるように言う。因みに担任教師のイオリを筆頭に実力者が何人もいて、中級以上の探索士までいる。更に――


「それに“七色”までいるんだから」


 サトウがとある一点に視線を送る。そこに全員の視線が向く。教師や探索士の中に一際小柄な人がいた。全身を橙色のローブで覆っており顔どころか体の輪郭すらわからず、右手にその身長の二倍はありそうな錫杖を握った性別不詳の人間。その人こそが今回派遣された“七色”の一人にして“橙”の称号を持つ魔導士であるシルト=ガーディ。結界や障壁を得意とする魔導術士であり、凄まじい防衛能力から“最堅”とも呼ばれている。因みに名前からわかるように外人である。わざわざ出張して貰ったらしい。


「そうだろう?シンゲツ」

「……まあな」


 肯定しておくカイ。確かに万が一なら大丈夫だろう。だが――


(億が一が出たら不味いよな)


 最悪は突如訪れる事を人生経験で知っている彼の内心は優れなかった。

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