夏休みは、見守ろう会の結成を!

 先月の七夕祭りで一歩前進したお2人は、これで漸くハッピーエンド…かと思いましたけれども、何と…あの光条さまが苦戦されておられる模様です。


…えっ?!…嘘でしょう?…まだ、恋人にもなっておられませんの?…という感じでして…。あれから1ヶ月近く経つというのに、光条さまも頑張ってデートに誘っておられるようですのに、悠里先輩の反応が今一つのようでして。つまり、彼女はデートだと思っておられない、ということかもしれません。


七夕祭りの時に、目立ちたくないとか陰ながら見守る予定だったとか、彼の取り巻きの後ろに隠れていたかったなどと、仰られておられました。悠里先輩はかなりの恥ずかしがり屋さんで、目立つことに慣れておられないご様子です。


無事に光条さまの恋人となる為には、悠里先輩のようにシャイなお人が乗り越える壁は、幾つか有りそうです。このままでは何年も掛かりそうだと、おせっかいだと思いつつも余計なお世話で、恋のキューピットを引き受けようかと、私は決心致しましたわっ!…こういう時には早速、元悪役令嬢キャラ達を招集です。


そういう訳で『2人を見守る会』の代表として、会長の私を筆頭に副会長の麻衣沙に会員の美和ちゃんとエリちゃんの3人を、招集致しましたのよ。…というのは嘘ですが、実は元々この4人で遊びに行く、約束をしておりましただけですよ。夏休みはこうして女性陣は女性陣で、男性陣は男性陣でも遊んでおりますの。何でも男性陣は、専ら飲み会だそうですが。


私も20歳はたちを無事に迎えまして、もうお酒も解禁なのですけれど、何故か家族からも樹さんからも、お外飲みが許可されないのですわ。お陰様でまだ、お酒を解禁してはおりません。どちらに致しましても、エリちゃんが完全に未成年ですからね、4人でご一緒に飲み会することは出来兼ねます…。実は麻衣沙もまだ、お誕生日を迎えられておりません。美和ちゃんはお酒に弱くて、殆ど飲めないようですし…。流石に1人飲みは、寂しいです…。


そういう事情は、今回は置いておきまして。本題は、光条さまと悠里先輩のことですわ。私がお2人のご関係を説明致しますと、美和ちゃんとエリちゃんはノリノリになられていますわね…。麻衣沙も恥ずかしがりつつ、恋バナをされたいご様子ですわ。麻衣沙も岬さんとは、良いご関係のようでして。……ふふふっ。


 「確かにあのお2人は、見ているのがもどかしいぐらい、両片思いという感じですね~。瑠々ちゃんが言う通り、私達でくっつけちゃいましょう。」

 「そうですね。今回は私も、お姉様達と同意見です。乙女ゲームと違い光条さんも案外と一途ですし、折角…勿体ない。私達が後押しをすれば、問題ないかも…。」

 「…まあ、そうですわね。悠里先輩のご様子ですと、何年も先延ばしになりそうな気配が致しますもの。誰かからの後押しも、必要なのかもしれませんわ…。」


…おやおや?…皆さん、物凄く乗り気ですね。『2人を見守る会』を主導した私さえも、会を結成した甲斐がありましたわ。ふふふっ…。あれ?…エリちゃんも、光条さまの初恋のことを…ご存じですの?…、私だけ…?


 「…光条さまの初恋のお話を、エリちゃんもご存じなの?…もしかして、皆さんも…ご存じですの?」

 「「「………」」」


…えっ?…何、この間は……。何ですの?…このいや~な空気は……。訊いた私の方が、冷や汗を掻きそうな雰囲気は………


私が光条さまの初恋に関して訊いた途端、お3人が一斉に私を振り返られ、何とも形容しがたい表情で見つめて来られるのです。然も無言で…。え~と…私、何か訊いてはいけないことを訊いてしまったとか、だったりするのかしら…。


 「…ええ?…瑠々ちゃんは…まだ、気付いていなかったの?」

 「………はい?」

 「ルルお姉様らしいですね…。私、光条さんが…ちょっとお気の毒に、思えてきましたよ……。」

 「………へっ?」

 「…まあ、そういうところが、ルルなのですわ。樹さんも…ご苦労なさって、おられますもの。」

 「…???……」


一体、何のお話なのでしょう?…私がまだ気付いていないとか、私らしいだとか、そういうところが私らしいとか、さっぱり…意味が分かりません。お3人共、ご自分達だけ分かっておられて、狡いですっ!…私にも分かるように、はっきり仰ってくださいませ~。話が飛び過ぎていて、理解不能ですわ…。


それに、光条さまがお気の毒に思えるとは、彼に何か…ございましたの?…樹さんがご苦労なさっているというのは、本当のことですの?…それほど何に、ご苦労なされていらっしゃいますの?


私は彼の婚約者兼恋人なのですし、彼のことを、いけませんのよ。今度、樹さんには直接…伺ってみようかしら?






    ****************************






 「ねえ、麻衣沙っ!…私、良いことを思いつきましたわっ!…夏休み中は、光条さまと悠里先輩の恋のキューピットに、私達4人がなれば良いのですわ。そうして私達4人で『2人を見守る会』を、結成致しますのよっ!」

 「……はいはい。『見守る会』の会長は、ルルがなされば宜しいですわ。」

 「……っ!?……私が会長というならば、麻衣沙は…副会長ですわ。エリちゃんと美和ちゃんは、会員ということですのね…。」

 「………(はあ~)」


夏休みに入ったある日、ルルがまた唐突な話題を振って来られましたわ。あの後の光条さまと悠里先輩のご関係は亀の歩みの如く、殆ど…いえ全くというほど、進展されておられませんし、おせっかいなルルとしては、見ていられない状況なのでしょう。それに致しましても『見守る会』の結成とは、乙女ゲームの影響を受け過ぎではないかしら…。


態と会長にルルをご指名致しましたわたくしに、ルルは寧ろ嬉しげに誇らしげにされた後、何気なくわたくしを副会長に推して来られまし…。そういう手を使われましたか…。わたくしは唯の会員で、満足でしたのに……。


思わず溜息を零すわたくし…。益々その気になってしまわれたルルは、本当に厄介でしてよ…。何年もご一緒しておりますわたくしは、よおく存じ上げておりますのよ。今回に限りましては、わたくしの他に英里さんも美和さんもご一緒ですし、多少は気が楽ですわ。こうして拝見致せば、美和さんもド天然な雰囲気ですが、ルルほど周り中を巻き込むお人では、ございませんわね…。


私達女性4人で遊びに参りました時に、使ルルが『見守る会』の初仕事として、作戦会議をしようと申し出られ、今わたくし達はあるお店にて、その作戦会議とやらを実行しておりました。


ルルの使命感が伝染したのかどうかは謎でしたが、英里さん美和さんも同調されておられます。確かにわたくしも一度くらいは、自分が恋のキューピットになってみたいと、思ったこともございましたので、お2人もそういう気分だったのですね、途中までは…。


 「…ルルお姉様が、まだお気付きになられていないとは、正直ビックリです。光条さん、あれだけルルお姉様を守っていらしたのに、本当に不憫ですね…。」

 「瑠々ちゃん、もしかして、私よりド天然なのかな…。私でも光条さんが誰を庇うのかが、分かったのに…。斎野宮さんも瑠々ちゃん一筋なのに、肝心の瑠々ちゃんは新ヒロインが登場するかも…って、話していたよね…。」

 「…そうなのです。ルルは余程ご自身に自信が持てないらしく、常にご自分は平凡だと思っていらっしゃるのですわ。」

 「あははっ…。瑠々ちゃんが平凡なら、私も平凡になっちゃうよ。」

 「そうですよね…。ルルお姉様が平凡なんて、有り得ないですよね。」

 「普通はそうなりますけれども、ルルの場合は何故かご自身だけが、平凡に見えるらしいのですわ。」


ルルがご自分の世界に浸かっておられる間に、わたくし達3人はこういう会話を交わしておりました。ルルはご自分のことよりも、美和さんの方がド天然だと思われておりますので、その彼女からド天然扱いされました事実には、ショックを受けられそうですわね…。まあ、わたくしから拝見致しますと、お2人共等しく思われましてよ。お2人は、そういうド天然タイプですものね。


 「会長の瑠々ちゃんがこの状態では、今日の『見守る会』の集会は、もう終了しても良いのかな?」

 「……えっ!?……ま、まだ…始まったばかりですわっ!…ぐ、具体的な対策として、まだ何も決まっておりませんもの。」


あらっ、お帰りなさいませ、ルル。ですこと。以前よりもお早い復帰と、なられましたわね…。樹さんとラブラブになられてからは、妄想される回数も劇的に少なくなられたご様子ですし、それだけ心穏やかとなられたのかしらね…。これも、樹さんの努力の賜物かしら…。


こうしてご復活されたルルとわたくし達3人は、おせっかいを焼くことに決めましたのよ。ルルのド天然ぶりに振り回されますわたくしも、ルルのそういう部分には逆らえませんことよ。わたくしも随分と、彼女に甘いようですわ…。


翌日から早速、そのおせっかいな作戦は開始されましたのよ。光条さまと悠里先輩には、ルルをお止め出来なくて…申し訳ございません。嘸かしご迷惑なことと思われますが、わたくし達の作戦に乗っていただければ、幸いにございます。


その後に、わたくし達の作戦をお知りになった、岬さん達男性側も加勢されましたので、わたくし達の唯のおせっかいな作戦から、本格的な恋人計画へと変更となりましたのは、申し上げるまでもございません…。


最終的には計画を立てられた、樹さん。ルルには、良いところをお見せになりたいのですよね…。ですが、わたくしの岬さんまで、巻き込まないでくださいませ…。



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 2年目の夏休み中の出来事です。とあるカップルが中々くっつかず、周りがヤキモキしています。


今回は、前半が瑠々華、後半が麻衣沙視点となります。


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 徳樹と悠里をくっつけようと、女性陣が変な会を作って活動する…という、閑話的な話です。また、ルルが脱線しました…。そして、まだ徳樹の前の恋の相手が誰なのかを、ルルだけ…知りません、という内容でして。



※読んでいただきまして、ありがとうございました。

 夏休みのお話は、また近いうちに更新予定でいます。多分、来週中かと…。

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