第6話 裕貴

 十月最後の週、世はハロウィンムードの中、寂しい気持ちが押し寄せる。一人でいたくないと強く思った。

 先輩には近づかないようにしていたが呼ばれたら行かなくてはならない。先輩の左手の薬指に指輪が光っていたのを見てしまい目を背けた。


 ハロウィン当日、ホ茶クラブに行ってみた。いつも通り快く迎えてくれた。ほんの少しだけ気持ちが変わった。今日は三回目。ホストも三人目。


裕貴ゆうきです」

 無表情で名前だけを言った三人目のホスト。藤くんと違ってこれは不愛想というのだろう。トータルでちょっと悪そうな感じ。皆私服といえどジャケットとか着ているけれども裕貴くんは楽そうなズボンにロンティーだった。


「何飲む?」

 しかもタメ口。

「ハロウィンだし……ハロウィンパフェにしようかな」

 ちょっとムッと来たけれど気分を上げるためにハロウィン限定メニューと書かれたパフェにした。

「……」

 裕貴くんが何かを言ったけれど聞こえなかった。


「何?」

「いや、似合わねーと思って」

「は? どういう事?」

 似合わないって、パフェが? 私が気分を上げる為に注文した華やかなパフェが似合わないって事? どんだけ失礼なのこいつ。店長呼んでと言いそうになった。


「いつもの紅茶にフレーバーつけたら?」

 急に目線を合わせて言われてドキッとしてしまった。やっぱりこの店のホストは綺麗な子が多い。サラサラの長い前髪をまん中で分けている裕貴くんの目ははっきり見えている。


「え……? 私がいつも紅茶なの知っているの?」

「あ……」

 さっきまで不愛想だった裕貴くんがみるみる赤くなってゆく。どういう事?


「ごめん、緊張しちゃって……あんたが毎回紅茶だって神栖から聞いてたから」

 神栖くんって一人目の王子みたいな子か。ライバル同士じゃないんだ?

「俺たちはチームで仕事してるから」

 チームで仕事……その言葉が刺さった。

 私の仕事もチームだ。一人では出来ない。でも最近の私は誰にも関わらない事を優先している。そんなんで良い仕事は出来ない。涙が出た。


「え……」

 私は次々と涙が出た。裕貴くんがギョッとした。

「何かあった? 店入った時から冴えない顔してたからさ。パフェなんて冷たいものより温かい方が良いと思ったんだ」

 そうだったのか。最初から私を見ていたんだ。プロだな、でも冴えない顔ってはっきり言うのはどうなの。


「……好きな人が結婚したの」

 裕貴くんは遠慮がないので私も遠慮なく言ってしまった。何とでも言ってくれ、下らないとか言ってくれたら吹っ切れるかも。

「……そういう時はエスプレッソかレスカですっきりしろよ」

「レスカは冷たいよ」

 私は自然とつっこみを入れていた。


「じゃーエスプレッソだ! お菓子はマカロンなんかどう?」

「それにする」

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