第2話 神栖

「夢子さんはどうしてホ茶倶楽部に来ようと思ったの?」

 神栖かみすくんがまっすぐ私を見つめて言った。彼は最初から目を見て話しかけてくる。目線をそらすのも気恥ずかしいし見つめたままも気恥ずかしい。


「好きな人がいるから、女子力を上げたくて……」

 私は気恥ずかしいまま気恥ずかしい回答をした。


「いいなぁ、そういう頑張っている女の子、好きだな。よかったらその人の話、聞かせて?」

 神栖くんは首をかしげて言った。こんなイケメンにそんな仕草をされたらほとんどの女子は落ちるだろう。


 私の好きな人、それは会社の中原なかはら先輩。優しくて仕事が出来て、必要な時にはちゃんと指導してくれる。神栖くんほどじゃないけれど結構イケメンで、まだ二十六歳だけれど中々なかなかエリートなの。

 あ、仕事は出来るんだけれど熱くなりすぎる所があって時々暴走しちゃうのも事実。そこが魅力的でもあるんだけれど。

 いつだったか共同作業している時にね、手が触れちゃったの。でも仕事上だから全然気にしないって感じで。私はすっごくどきどきして嬉しかったんだけれど。

 それに私の思い違いかもしれないけれど……先輩は私と話す時、私の目をじっと見てくるの。もしかして私の事……ん?

 神栖くんにガン見されている事に気づく。


「どうしたの? 続けて」

 神栖くんは色気のある目で微笑みながら言った。

「いや、見つめられるとなんか……」

「好きな人の事を話している夢子ちゃん可愛くてさ、見ちゃうんだよ」

 何? 可愛い? しかも今夢子ちゃんって言った?


「俺の話じゃないからちょっとけるけど」

 神栖くんがすねた顔をする。

 ナチュラルにこんな台詞言えるってどういう事?


「早速だね」

 南が私の席に来た。

「夢子、神栖はこれが通常なのよ。私は指名ホストがいるからいいけれど初めて来た人に神栖が当たったら刺激強いよね」

 そ、そうなんだ。


「俺以外の指名ホストに一途な南さん、素敵ですよ」

「はいはい」

 南はうんざりした様子で自分の席へ戻って行った。


「あっ、ごめんね。南さんは常連だから挨拶だよ。今は夢子ちゃんの時間だから遠慮なく甘えてね」

「ホストみたい……」

 私は思った言葉をそのまま口に出していた。まぁ、ホストクラブでもあるんだろうが。明るい時間帯でカフェだからどうもそうは思えない。


「ホストじゃないよ、今の時間は恋人だよ俺たち」

 神栖くんが真剣な眼差まなざしを私に向ける。こんなイケメンに見つめられてこんな台詞言われたら……顔が熱い、恐らく赤くなっている。


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