第10話 ダイアナの死闘

 それから何時間が過ぎても、ティムはいっこうに目を覚まさなかった。ダイアナは次第に不安になってきた。こんなに長く意識消失が続くなんて不自然だ。もしやティムの神経細胞には大きな異変が起きているのではないだろうか? そのために目を覚まさないのでは? ひょっとしたら彼は一生目を開かないかもしれない……。

 そのことでダイアナは不安になった。彼女は生きて動いているティムの姿しか目にしていない。彼が動かなくなった姿なんて想像してはいない。彼女の脳裏では、ティムはずっと元気で明るく飛び跳ねていた。彼が意識を失うなんて考えられないことだった。

 どうすればいいのか分からない。

「お腹が空いたな……」

 ふと、そんな言葉が漏れた。考えてみれば、昨日から何も食べていない気がする。このカプセルの内部には生温かい水で満たされているが、もちろんそんなものでは腹の足しにはならない。

 カプセルの内部は大きく傾いた状態だったが、かろうじてすみっこだけは通れる状態だった。ダイアナは身体をひねって隙間を通り抜ける幅を作り出した。どうにかその狭い隙間を通り抜ける。そしてついにロケットの内部を通って外部に出ることができた。

 ダイアナは川岸に這い上がって一息ついた。何か食べるものがないかと見回す。しかし、こんなところに果物なんかが見つかるわけがない。ダイアナはしかたなく、ぶらぶらとあてもなくさ迷い歩いた。せめて草の根とかはないのだろうか……。

 探索すること一時間あまり、ようやく食べられそうなものが目についた。地上からの高さは四メートルほど、丸い実はソフトボールほど。食べられるかどうかは、うん……とりあえず食べてみないことには分からない。

 この木の実ぐらいなら、よじ登るのは大したことではない。彼女は小さな頃から木登りが得意だった。四メートルほどよじ登るのに、さほど疲れたりはしないはずだ。トラブルなど起きるはずがない。たとえばそうしてよじ登っている最中に、猛獣に襲われたりしない限りは……。

 だが、まさにそういう事態が起きてしまったのだ。

 細い一本の枝に手を伸ばした時に、ダイアナはぐるぐると獣の声を耳にして、はっとなった。すぐ目の前に黄色い豹がいて、彼女に向かって口を開いていた。

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第三帝国の残影 山本弘 @hirorin015

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