フツウの失恋

詩音

結局、私っていつもこうだ。特別な人なんて出来ないし、誰かの特別にもなれやしない。その事実に対する感情なんてとうの昔に置いてきた。常に脇役。主人公?ヒロイン?そんなもの、なれない。なれなくていい。だって

、面倒臭そうじゃない。私は、それでいい。…なんてね。

そりゃあ、あいつの特別になれたらって思うこともあった。いつもの私ならあいつの好みに全部合わせてた。もしそうしてたら何か望みはあったのかもな、なんて思ったり。でもさあ、あんただよ?「いつも好きな人に合わせすぎ。もっと自分を貫きなよ。」って言ったのは。で、やってみようと努力したら、どうよ。このざまじゃない。だから結局私は特別にはなれない運命なんだよ。やっぱり私は普通に、何事もなく生きていくべきなのかもね。

貫いた「自分」を教えろって?んー。服装とか。…まあそうだね。先輩の好みから未だに系統変えてないかも。あとは、タバコの銘柄とか…それも確かに先輩の時のまんま。あと他に?そうだなあ…。音楽とか、食べ物とか、かな。趣味とかないし…。って、言われてみれば音楽も食べ物もあの子に合わせた時のままだわ。「自分」がない、って…。いや、いいの。それらが合わさって私になってるんだから。…多分。そう言うあんただって元彼と同じタバコ、同じ酒、今でも吸って飲んでるじゃない。…着たいものを着て、したいメイクして、性格もこのまま。はいはい。そーですね。どーせ私は好きな人によって全部変わる人間ですよ。いーじゃない。好かれたくてやってんの。…さっきの私の真似しないでくれる?もう。あ、マスター。同じの、お願い。ねえ、あんたもなんか頼めば?そろそろ無くなってきたでしょ。

あいつがどんな奴だったか?えっとね、顔が可愛くて、犬みたい。性格も、子犬みたいな感じ。いい匂いするし。初めて会った時、思わず「可愛い…。」って言っちゃったもん。多分、聞かれてなかったと思うけど。…出会い?高校の時の、1年後に入ってきた部活の後輩。だから…5、6年前くらい。部活、入ってましたよ、失礼な。ま、半分幽霊部員だったけどね。あとはねえ…。普段可愛いのに、体付きとか、キスする時とか、魔法みたいに「男の子」になるとこ。結構好きだったなあ…。ならその後もちゃんと「男」だったの、か…。それ聞いちゃう?私たち、付き合ってなかったし。何ならキスより進んだことない。キスフレっていうのかな。そんなんばっかり…まあ、そうだね。先輩とも、あの子とも、付き合わないで体の関係だけ持っちゃって、その後切られた訳だし。私はちゃんと皆好きだったのにな。

先輩もねえ…。格好良かったよねえ…。顔と行動が。それに、あの子もすごく可愛かったし…。ほんと、同い年なのに肌とか髪とかあんなに綺麗かな。何してても可愛くて、綺麗な子だった。何シてても。や、ごめん。何でもない。ん、先輩とあの子の写真?あるよ。見たいんだ。ほんっとあんたって面食いだよね。先輩に至っては前も見せたじゃん。…はい。これが先輩で、こっちがあの子。あ、そうだよ。どっちともホテルで撮ったやつ。あいつは…。撮らせてくれなかった。写真、嫌いなんだって。まあ、会ってたの部屋だったし余計嫌だったんじゃない?…ちょっと、もう良くない?そんな見る?全く、これだから面食いは…。ねえ。近い。何。……。そーゆー事は、好きな人としなよ。酔ってんの?あ、そう。慰めてくれたのね。私、男女両方が恋愛対象とは言え、あんたとは流石にそーゆー関係になりたくないからね。やめてね。あんたもそうだって事は知ってるけどさ。

…普通ってさ、何だろうね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

フツウの失恋 詩音 @shi_on

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ