第2話 襲撃

 最初の人間の殺害に喜びの叫びを上げるギガロス。次の獲物は何処かと早速鼻を利かせる。


『フゴッフゴッ……コロス……』


 見つけた。ギガロスの感知した人間の匂いは複数。三人どころでは無く、十、それ以上だった。


 ギガロスは早速その方向に走り出す。獲物を探す獣ではなく、見つけた獲物をこれから狩ろうとしているかのように、一直線に。


『ウオオオオオオ!!!』


 一方、ギガロスが向かう先にあるのは小さな村。中には警備隊と呼べる者はおらず、あくまでも魔物が襲って来た様に作った罠と、申し訳程度の狩人が見張りとして働いていた。


 その村は荒野の出口の境界にある村で、助けを呼べばすぐに他の地域から救援を呼び出せる位置にある。ただし、村の人間は荒野から襲ってくる魔物どころか、荒野の境界の外は環境が激変する為、その変化に慣れない魔物は滅多に襲って来ない事を知っていたので、これまでに救援を要請した事は、数えるほども無かった。


 ギガロスがこちらに向かって来ているとも知ら無い村人達はいつも通りに豊かに暮らしていた。だが少なからずは異変を感じていた。


 それは、狩人の三人がキャンプに行ったきり戻ってこないのだと。予定としては二日程、日を空けるという話だったが、そう遠くまで行くとは聞いていないので、途中報告として一旦戻ってくるだろうと村人は考えていた。しかし、一向に報告さえも、戻ってくる気配は無い。


 この村は人口百人も及ばない数で、たった三人が居なくなればそれなりに騒ぎになる。それも見張り役を担っている狩人が戻って来ないとなれば、確実な安全も保証できなくなる。村人は、ただ無事に三人が帰ってくる事を願い、帰って来た時の為いつも通りの態度を装うしか無かった。


 そして、三人の狩人が戻って来ないという知らせが村全体に響いて二時間が経った頃だった。見張り台から遠くを望遠鏡で眺めて警備する狩人は、異様な物をその目で見た。


 望遠鏡でも分かるその巨体。誰もがそんな魔物は見た事が無かった。ましてや大型以上と推測できる魔物すら、荒野の村人は知らない。


 こちらに向かって来るのでは無いかとガタガタと望遠鏡を覗きながら震える狩人は、次の瞬間、予想が的中してしまった。


 望遠鏡で覗くレンズと化け物の目が合ってしまった。咄嗟に狩人は村の警鐘を鳴らす。


「みんなぁー! 魔物だ! 魔物の襲撃だぁ!! 数は一匹。大きさは……大型以上と推測する!!」


 警鐘の音が村全体に木霊する中、狩人の叫ぶ情報に村人は一瞬驚くが、見たこともない様な巨大な存在がこちらに向かっているという事に冗談混じりに笑う。


「えぇ? 大型以上だって? どういう事だそりゃぁ!」

「来るんだよ! マジでアレはヤバいって! 速く逃げるんだぁあ!!」


 見張り台の狩人は必死にそれを伝えるが、今まで無かった突拍子も無い情報は村人を動かす事は出来なかった。しかし、次の瞬間、狩人とその他全ての村人の表情が絶望感に満ちる。


『ウオオォォアアアァアッッ!!!』


 聞いた事も無い様な獣の咆哮。あまりの恐怖に先程まで冗談だろうと思っていた村人は突然叫ぶ。


「うわあああぁぁあ!!??」


 狩人の警告聞いて素直に非難していればもしかしたら間に合ったかもしれない。だが、正体不明の獣の咆哮を聞いてからでは遅かった。遅すぎた。


 狩人は恐れ慄く村人に身振り手振り逃げろと叫びながら伝えるが、その時、狩人の目の前を黒い影が通り過ぎた。その先に目をやると、望遠鏡で見たあの化け物が、叫んでいた村人を無造作にかぶり付いていた。恐れから叫んでいた村人の声は今や、断末魔と変わっていた。


『ニンゲン、ニンゲン! グオオオ!』

「ぎゃああぁっっ!?!? た、助け! うぎゃあああああっっ!!」


 村人が化け物に血飛沫を飛ばしながら、ぐちゃぐちゃに貪り喰われる姿を他の村人は最早叫ぶどころか呆然と見つめている事しか出来なかった。脚が竦んで動こうとしない。


 ギガロスは、次に横へなぎ払い、呆然と立ち尽くす村人を吹き飛ばす。そして家を破壊し、村人を叩き潰す。


 そこでギガロスにまた変化があった。無数の恐怖の叫びを聞くギガロスはその叫びを快楽として受け止めた。一人、泣き叫ぶ女村人をひと摘みで持ち上げる。


 女村人の表情は恐怖に染まり、青ざめ、涙が止まらない。


「嫌っ……助けて……いやぁあああっ─────」


 ギガロスはその叫びを最後まで聞く事なく、途中で握り潰す。そして一瞬で肉塊となった村人を見張り台で腰を抜かす狩人に投げる。


「うわあああぁ!!」


 巨体の肩から投げられる肉塊は、肉塊とあれどその速さ異常であり、肉塊と衝突した狩人は一撃で首が吹っ飛び、見張り台も崩壊する。


『ウオオォォオ!!』


 崩壊した見張り台を武器として持ち上げるギガロス。その計り知れないリーチを生かし、村の家々を簡単に薙ぎ払っていく。


 そうしてその荒野の村は、半日経たずとも、一度も救援を呼び出させれる事もなく。血の海と化した。

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化け物の成長記録 Leiren Storathijs @LeirenStorathijs

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