エピローグ


 駅のホームで、私とゆかりがキスをしている現場を、なぜか、夜空に浮いている私が見ていた。


 あぁ。これは夢だって解る。

 ゆかりと結ばれた、あの日だ。

 やっぱり、あれは夢だったのかな。

 あり得ないよね。私とゆかりが両想いだったなんて。それこそ、物語みたいな出来すぎた話だ。


 自嘲気味に笑っていると、どこからともなく声が聞こえてきた。


 …きて。お…て。す…。おき…。


 この声、どこかで聞いたことある。

 それにしても、なんて言ってるんだろう。

 解らない。解らないけど気持ちが良いから、このままもうひと眠り───。


 夢の中で二度寝しようとした瞬間、私の唇に柔らかななにかが触れ、私の視界は真っ白な光に包まれた。

 

 「やっと起きた。菫、いつになったらキス以外で起きてくれるの?」


 目覚めた私の目の前には、春らしいジャケットを羽織ったゆかりが呆れた顔をして立っていた。


 「ゆかり…おはよ…」

 「おはよう。菫」


 現実に戻ってきた私は、開かない瞼を擦り、欠伸を一つ。


 「それじゃあ、私は先に大学行くからね」


 そう言って、ゆかりは玄関に向かおうとする。

 ん?待って。

 私、今日は、ゆかりと一緒に一限に出る日じゃなかったっけ?


 「ゆかり、今、何時?」

 「午前八時」


 時間を聞き、遅刻ギリギリであることを確信した私は、ベッドから飛び起きる。


 「なんで早く起こしてくんなかったの!?」

 

 私の慌てっぷりにゆかりは、ケラケラと笑う。


 「起こしてたよ。起きなかった菫が悪い」

 「待って!私もすぐ用意するから!」

 「待たなーい。ゆっくり歩いてるから、追いついてきてね」


 ゆかりはバイバーイと手を振って、先に行ってしまった。

 ゆかりは付き合う前のほうが優しかった気がする。というか、尻に敷かれはじめている。付き合う前は、むしろ逆の立場だったと思うんだけどなぁ。


 狭い2Kの部屋を慌ただしく走り回って、ようやく準備ができた私は、誰もいない部屋に、


 「いってきます!」


 と、言い残し、家を飛び出して、ゆかりの跡を追いかけた。


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