第12話:別れ、そして・・・・

魔方陣の上に立つ三人。俺の視界はさらにぼやけてきた。けどなんだろう、今俺の目には、確かに三人の顔がはっきりと見えている気がする。


「・・・・・準備できたわ。・・・・じゃあ、始めるわよ」

「うむ、頼む」

「お願いします」

「お願いねぇ」

「・・・。頼む」


俺たちの顔を順番に見渡す安陪さんに、俺たちは決心して答える。


コクッとうなずいた安陪さんは、術式を発動させる祝詞を唱える。


「小僧」


すると途中で安陪さんの邪魔にならない程度の声で、スウさんが話しかける。


「・・・達者でな。長く生きるのだぞ」

「・・・はは、わかってる。スウさんくらい生きてやるさ」

「くっく、たわけめ」


スウさんは笑ってそう言った。


「・・・祐介さん」

「うん、なんだ、玉藻」


今度は玉藻が。


「お元気で。食事には気をつけてくださいね、祐介さんは偏りがちなので」

「うん、わかった。気を付けるよ」

「えっと、それから・・・癪ですが、友理奈さんとも仲良くしてくださいね」

「聞こえてるわよ!」

「あはは・・・まあ、それも大丈夫かな」

「えっと、それからそれから・・・」

「玉藻、その辺にしておけ。未練が残るぞ」

「あうっ・・・・祐介さん」

「うん」

「お元気で」

「・・・・うん。ありがとう、玉藻」


こくんと笑顔でうなずく玉藻。


「坊やぁ、一つだけ言い忘れてたんだけどぉ」


最後にさっちゃんが。


「なんだ?」

「・・・・棚の中にあるお酒、先に全部飲み干しちゃったんだけどぉ、許してねぇ」

「おい」


なんてことをするんだ。まあ確かに全部さっちゃんのために買ってたやつだけど。


「だってぇ、飲んでおかないと未練残しそうでぇ」

「まったく・・・最後にそれって。まあさっちゃんらしいか」

「ふふ、最後までウチはウチよぉ」

「はは、そうだな」



そこまで話し終えると、ちょうど安陪さんの祝詞も終わったらしい。すると魔方陣が突如光を放ち、スウさんたちを飲み込んでいく。


「・・・ではな、小僧」

「・・・祐介さん、本当に、お元気で!」

「・・・後のウチらのこと、よろしくねぇ」

「・・・・っ!ああ!任せろ!俺はもう、大丈夫だから!・・・だから」




―――――さよなら




俺のその言葉を最後に、みんなは笑いながら光の中に消えていったのだった。









―――あれから一年後。


俺は高校三年生となり、今は夏手前。受験シーズンに向けての準備を進めていく学生が多くなってきた。俺も例外なく受験勉強に勤しむ毎日。


今日も図書室で勉強をしていると、正面の席に女生徒が座った。誰だと思い視線を向けると。


「ってなんだ、友理奈かよ」

「なんだとはご挨拶ね。仮にも彼女に向かって」


友理奈だった。・・・え?彼女ってどういうことって?え~と、それを話すには半年前まで遡る必要があるのだけど。


「必要ないわ。私から告白してオーケーを貰った。これが全てでしょ?」

「だから俺の心のうちを勝手に読むな」

「顔に出ているもの、読まなくてもわかるわ」

「マジかよ」

「マジよ」


そんなやり取りをしていると、図書委員の人から注意されてしまった。


「・・・それより、今日の夕飯はどうするの?」

「今怒られたばかりなのに、よく会話続けようと思ったな・・・・明日から休みだし、カレーにでもしようかと」

「そっちではなくて、あの子たちよ」

「・・・ああ、そっちね。ってあれ、まさかもう無い?」

「ええ、無いわね」

「・・・・・。買いに行くか」

「ふふっ、大変ね、ダ・ア・リ・ン」

「うぜぇ」



しかしそうと決まれば早めに行かないとな。


「んじゃ行きますか」

「ええ」


そうして俺たちは学校を出て、買い物をさっさと済ませると家に帰った。


ちなみに友理奈は一年前、あの一件が終わると一度実家へ戻り、またすぐ戻って来たかと思ったら、今度は正真正銘、住所登録をうちにして引っ越してきた。なんでと聞くと、彼女たちに任されたから・・・だそうだ。


いやだからってそこまですんのかと思ったが、もう言っても無駄だと諦め、今に至る。



家に帰ると、三匹の動物の鳴き声がした。


「ただいま~」

「「「にゃぁぁぁ~~~」」」

「おおよしよし、今帰ったぞ~」


そう、三匹のの声が。



あの後、魔方陣はしばらく残ったままだったのだが、再び光ったと思ったら、この子たちが出てきたのだ。瞬時に悟った。スウさんたちだと。


俺はまた涙を流した。それはもう大泣きした。今思うと友理奈が実家戻ったタイミングでほんと良かった。絶対あとでからかってくるからな。


「ついでに私もただいま~っと」

「「にゃぁぁぁ」」

「ふふっ、あなた達は可愛いわね、誰かさんと違って」


そう言って少しにらみを効かせて一匹の猫を見る。


この猫だけはなぜか俺にしか懐かない。友理奈が言うには絶対この子の元は玉藻だったとか。よくわからないが。


「んにゃぁぁ」


頭をこれでもかと擦りつけてくる猫。ああ、可愛いなぁ。


「待っててな、ご飯用意するから」

「うむ、よろしく頼むぞ、小僧」

「ああ。・・・・・・・・・・・・・・え?」

「・・・・・・ちょ、今、あなた・・・」

「むっ、何をそんなに驚いている、それより速く用意せんか」

「そうよぉ、ウチもお腹空いたわぁ」

「すみません祐介さん、お願いします」


「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」


あまりの事態に固まった。いやだってしょうがないだろう。なんせ・・・・・。



「スウさん?さっちゃん?・・・玉藻」


「うむ」

「えぇ」

「はい」


「ちょっと待ちなさい!?あ、あなた達、しゃべれるの!?っていうか、心を・・・・・!!」


「うむ、どうやら持ったまま転生したらしいな」

「不思議よねぇ」

「けれどこれで、また一緒に暮らせますね!祐介さん!」

「あ、ああ。って、どうなってんだ?」

「私にも何が何だか・・・・」


確か心とかは持たずに転生するのではなかったか・・・・・・・いや、でも、まあ。



「・・・けど、そうだな。これでまた、みんなで一緒に暮らせるんだな」

「そういうことだ」

「ふふ、よろしくねぇ、坊や」

「よろしくお願いします!祐介さん!」

「ああ!よろしく、みんな!」


そういうことならば、なにも文句はない。俺たちはまた、ここから一緒に歩んでいけるのだから。


「はあ、まったく、文献も当てにならないわね・・・」

「はっはっは、それより友理奈、小僧と付き合い始めたらしいな?」

「ええ、半年も前だけど」

「・・・・フゥゥゥゥゥゥッ」

「・・・玉藻あなた、以前よりも露骨に嫌うわね」

「だって、友理奈さんには負けたくありませんので!」

「言うわね、猫の分際で。っていうかあなた何で猫なのよ!そこは狐でしょうが九尾!」

「私が選べるわけじゃないんです~!むしろ私がこうなったのは友理奈さんの腕が未熟なせいです~!」

「なんですって~!!」

「ああ~~!!こらさっちゃん!!また勝手にカリカリ食べたでしょ!!帰るまで待てって言ったのに!」

「だってぇ、お腹空いたんだものぉ」

「くっくっく、また騒がしくなるな!」





皆さん知ってますか?


うち、元は普通の家だったんですよ?

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うち、元は普通の家だったんです 高町 凪 @nagi-takamiya

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