恋する表参道♪ ⑥

「――あー、やっぱり寮に着く頃には六時半回りそうだな、こりゃ」


 神奈川県に入った時点で、さやかがスマホで時間を確かめて呻く。すでに六時を過ぎていた。


「とりあえず、学校の最寄り駅に着いたら晴美さんに連絡入れとくよ。『あたしたちの晩ゴハン、置いといてほしい』って」


「そうだね。やっぱりクレープだけじゃ、夜お腹すくもんね」


 ――さやかはその後、最寄り駅に着くと、言っていた通り寮監の晴美さんに連絡したのだった。


****


 ――その日の夜。愛美は部屋の共有スペースで、スマホを持ったまま固まっていた。


「う~~~~ん……、なんて書こうかな……」


 せっかく純也さんと連絡先を交換したので、さっそく彼に連絡しようと思い立ったのはいいものの。この時間、電話は迷惑かも……と思い、メッセージアプリを開いたのはいいけれど、文面が思いつかないのだ。男の人にメッセージを送るのは初めてだし……。


(とりあえず、無難に今日のお礼でいいかな……)


 よし、と気合を入れ、キーパッドを叩いていく。


『純也さん、今日はありがとうございました。すごく楽しかったです('ω') 東京にはまだまだ面白そうなスポットがありそうですね。また案内してほしいです。』


 勢い込んで送信すると、すぐに「既読」の表示が出て――。


『メッセージありがとう。僕も楽しかったよ。愛美ちゃんたちと一緒にいると、何だか若返った気分になった(笑) また一緒にどこかに行こうね。……今度は、できたら珠莉たち抜きで。』


 という返信が来た。


「え……」


 はっきり「好きだ」といわれなくても、この文面だけで何となく分かる。――これは、紛れもないデートのお誘いだ。


「……いやいや! まだそうと決まったワケじゃないよね」


 愛美ははやる気持ちを抑えようと、そう自分に言い聞かせる。まだ本人の口から聞く(もしくは、メッセージで伝えてもらう)までは、百パーセント決まりではないのだ。


「はぁぁぁぁ~~~~……」


 恋にため息はつきものだと、小説で読んだことがある。まさか、自分自身がこんな風になるなんて、一年前には想像もつかなかったのに。


(早く純也さんのホントの気持ちを聞いて、安心したいなぁ)


 それまでは、愛美に心穏やかな日常は訪れないだろう。彼の言動一つ一つに一喜いっき一憂いちゆうさせられて、ハラハラドキドキしっぱなしに違いない。


「……とりあえず、落ち着こう」


 こういう時は、〝あしながおじさん〟に手紙を書くのが一番だ。今日一日の体験を聞いてほしいというのもあるし――。


 愛美は勉強机に向かうと、今日原宿の雑貨屋さんで買ってきたばかりの新品のレターセットを開けた。


****


『拝啓、あしながおじさん。


 お元気ですか? わたしは今日も元気いっぱいです。

 先月のお手紙でもお知らせした通り、今日は純也さんからのお招きでさやかちゃん・珠莉ちゃんと一緒に東京の原宿に行ってきました。

 朝からいいお天気で、絶好のお出かけ日和でした。

 東京って、というか原宿って、楽しい街ですね! 色んなお店や場所に行きました。ミュージカルを鑑賞した劇場、オシャレなカフェ、可愛い雑貨屋さん、古着屋さん、クレープ屋さんに高級ブランドのショップ……。

 どこも面白くて、何から書いていいか分からないくらいです。

 純也さんとは、午後一番でJR原宿駅の前で待ち合わせしてました。いつもはスーツ姿の純也さんも、今日はちょっとカジュアルな私服姿。でも背が高いので、モデルさんみたいでカッコよかったです!

 わたしたち四人は、まずは駅前のオシャレなカフェでランチを頂きました。

 食後はミュージカルの開演時刻まで時間があったので、竹下通りを散策してました。その時に、雑貨屋さんでさやかちゃんが見つけてくれた三人お揃いの可愛いスマホカバーを、純也さんがプレゼントしてくれました! 

 わたしの誕生日が先月の四日だったことを知らなかった純也さんは申し訳なさそうに、「知ってたら、先月寮に来た時に何かプレゼントを用意してたんだけど」っておっしゃってました。でも、わたしは一ヶ月遅れの誕生日プレゼントでも、すごく嬉しかったんです。男の人からのプレゼントなんて初めてだったから(あ、おじさまがお見舞いに送って下さったお花は別です)。

 その後、バッタリ治樹さんに会いました。さやかちゃんはお兄さんとの遭遇にちょっと迷惑そうでしたけど、珠莉ちゃんが何だか治樹さんのこと気に入っちゃったみたいで……。わたしには分かる気がします。もしかしたら、珠莉ちゃんは治樹さんに恋してるんじゃないかって。

 ミュージカルが上演された劇場は、渋谷駅の近くにあります。わたしは劇場に入ったのが初めてで、すごくワクワクしてました。

 上演されたプログラムは、わたしがまだ読んだことのない小説が原作になってる作品でしたけど、すごくいい作品でした。

 歌もダンスもお芝居も、そしてキラキラした舞台装置も素晴らしくて、夢を見てるみたいでした。そして何より、お話の内容にも魅了されました。

 プロの俳優さんってスゴいですね! どんな役柄にもなりきってしまえるんだもん。わたしは多分、女優には向いてないと思います。演技とか、ウソついたりするのが苦手だし、だいいち音楽の成績があんまりよくないから。

 劇場を出た後は、お買いものタイム! わたしも古着屋さんを数軒回って、夏物の洋服とか靴を安く買いました。珠莉ちゃんなんか、両手にいっぱい紙袋を抱えて、それでもまだ買いたいものがあるって言って、セレクトショップへさやかちゃんを引っぱって行きました。

 でもそれは、わたしを純也さんと二人きりにしようっていう二人の作戦みたいで、わたしはその後しばらく純也さんと二人で行動することになりました。

 わたしたちは一緒に本屋さんに行って、表参道駅の近くで休憩。純也さんとは色んなお話をして、連絡先も交換してもらいました。純也さんがそうしたかったらしくて。彼はどうも、珠莉ちゃんに気兼ねすることなくわたしと連絡を取りたかったそうです。わたしの方が、「本当にいいの?」って思っちゃいました。

 最後に四人でクレープを食べて(そのお店では、わたしと純也さんの二人がタピオカ初体験でした!)、それから原宿駅で純也さんとお別れしました。

 珠莉ちゃんはリッチだから、金額なんて気にしないで欲しいものをホイホイ買うことができますけど。わたしは横浜に来てすぐにそれで失敗してるので、キチンと値段を確認して、お財布の中身と相談して安く買えるものは安く買うっていう工夫ができるようになりました。やっぱり、ムダ遣いはよくないし。自分の力で生活できるようになった時に困らないように、〝節約する〟ってことも覚えなきゃ! そうでしょう、おじさま?

 話がれちゃいましたね。今日のお出かけで、わたしの恋は一歩前進したと思います。

 純也さんはわたしに、「出会えてよかった」っておっしゃってくれました。さやかちゃんによれば、それは告白されたも同じことだ、って。

 それはわたしも同じです。わたしも、純也さんに出会えてよかったって思ってます。でも、はっきり「好きだ」って言われたわけじゃないから、彼の気持ちがまだちゃんと分かりません。それでも、わたしと純也さんはお付き合いしてるってことになるんでしょうか? 初めてのことだから、よく分からなくて。

 長くなっちゃいましたね。今日はここまでにします。おじさま、おやすみなさい。


                   五月三日    愛美    』

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