恋する表参道♪ ⑤
「――お~い、愛美! お待たせ~☆」
数分後、さやかが大きな紙袋を抱えた珠莉を引き連れて、愛美たちのいるところにやって来た。
「さやかちゃん、珠莉ちゃん! ――あれ? 珠莉ちゃん、また荷物増えてない?」
「珠莉……。お前、また買ったのか」
純也さんも、姪の荷物を見てすっかり呆れている。
「ええ。大好きなブランドの新作バッグとか靴とか、欲しいものがたくさんあったんですもの。でも、さやかさんを荷物持ちにするようなことはしませんでしたわよ?」
「いや、そこは自慢するところじゃないだろ。せめて配送頼むとかって知恵はなかったのかよ?」
わざわざ自分で荷物を持たなくても、寮までの配送を手配すればいいのでは、と純也さんが指摘する。
個人の小さなショップならともかく、セレクトショップなら配送サービスもあるはずだと。
――ところが。
「配送なんて冗談じゃありませんわ。手数料がもったいないじゃないですか」
「珠莉ちゃん……」
彼女らしからぬ発言に、愛美も二の句が継げない。
(珠莉ちゃんお金持ちなんだから、それくらいケチらなくてもいいのに)
と愛美は思ったけれど、お金持ちはケチと紙一重でもあるのだ。……もちろん、ほんの一部の人だけれど。
「…………あっそ」
これ以上ツッコんでもムダだと悟ったらしい純也さんは、とうとう白旗を揚げた。
「――ねえ、珠莉ちゃん、さやかちゃん。ちょっと」
愛美は少し離れた場所に、親友二人を手招きした。この話は、純也さんに聞かれると困る。
「何ですの?」
「うん?」
「あのね……。さっき、わたしと純也さんを二人っきりにしてくれたのって、もしかしてわたしに気を利かせてくれたの?」
さやかは電話でそれっぽいことを言っていたけれど、珠莉も同じだったんだろうか?
「だってさやかちゃん、『ブランドものには興味ない』って言ってたよね?」
「うん、そうだよ。でなきゃ、自分が興味ないショップに付き合ってまで、別行動取らないよ」
「ええ。……まあ、純也叔父さまのためでもあったんだけど」
「えっ?」
〝純也さんのため〟ってどういうことだろう? ――愛美は目を丸くした。
「叔父さまに頼まれていたの。『ほんのちょっとでいいから、愛美さんと二人きりで話せる時間がほしい』って」
「え……。純也さんが? そうだったんだ」
……知らなかった。純也さんがそのために、「苦手だ」と言っていた
そして、その頼みを聞き入れた珠莉にもビックリだ。
(やっぱり純也さん、珠莉ちゃんに何か弱み握られてるんじゃ……)
そうじゃないとしても、純也さんと珠莉の関係に何か変化があったらしいのは確かだ。同じ秘密を共有しているとか。
(……うん。そっちの方がしっくりくるかも)
叔父と姪の関係がよくなったのなら、その考え方の方が合っている気がする。……それはさておき。
「そういえばさっき、電話で愛美から聞いたんだけど。二人、連絡先交換したらしいよ」
「えっ、そうだったんですの? 愛美さん、よかったわねぇ」
「うん。……あれ? さっきの電話の時、珠莉ちゃんも一緒だったんじゃないの?」
電話口のさやかの声は、興奮していたせいかけっこう大きかった。だから、側にいたなら珠莉にも聞こえていたはずなのだけれど。
「私には聞こえなかったのよ。確かに、さやかさんの側にはいたんだけど、周りに人が多かったものだから」
(ホントかなぁ、それ)
珠莉の言ったことはウソかもしれないと、愛美は疑った。でも、聞こえなかったことにしてくれたのなら、珠莉にしては気が利く対応だったのかもしれない。
「……そうなんだ。じゃあ、そういうことにしとくね」
何はともあれ、愛美は純也さんといつでも連絡を取り合えるようになり、親友二人にもそのことを喜んでもらえた。それだけで愛美は
「――さて。日が傾いてきたけど、みんなどうする? まだ行きたいところあるなら、付き合うけど」
純也さんが腕時計に目を遣りながら、愛美たちに訊ねた(ちなみに、彼の腕時計はブランドものではなくスポーツウォッチである)。
時刻はそろそろ夕方五時。今から電車に飛び乗って帰ったとしても、六時半からの夕食に間に合うかどうか……。
「あっ、じゃあクレープ食べたいです! チョコバナナのヤツ」
「わたしも!」
「私も。ヘルシーなのがいいわ」
〝原宿といえばクレープ〟ということで、女子三人の希望が一致した。
甘いもの好きの純也さんが、この提案に乗らないわけはなく。というか、思いっきり乗り気になった。
「実は俺も食べたかったんだ。じゃあ決まり☆ 行こうか」
「「イェ~イ!!」」
「…………いぇーい」
愛美とさやかは大はしゃぎで、珠莉は恥ずかしいのか小声でボソッと言い、四人は竹下通りまで戻ってクレープのお店に足を運んだ。
ここは券売機で注文するシステムのようで、各々好みの商品の券を買った。
「あたし、ばななチョコホイップ。プラス百円でドリンクつけよう」
「わたしも」
「僕も同じので」
「私はツナチーズサラダ、っと」
ドリンクは愛美・純也さん・さやかはタピオカミルクティーをチョイスした。珠莉はドリンクなしだ。
「愛美は初タピオカだねー」
「うん!」
山梨のド田舎にいた頃は飲んだことはもちろん、見たことすらなかったタピオカドリンク。愛美はずっと楽しみにしていたのだ。
「実は、僕も初めて」
「「えっ!?」」
純也さんの衝撃発言に、愛美とさやかは心底驚いた。
「いや、男ひとりで買うの勇気要るんだよ」
「はぁ~、なるほど……」
分からなくはない。女子が「
「ちょうどいいや。写真撮って、SNSにアップしよ♪」
「あー、それいいね」
愛美とさやかはクレープとタピオカミルクティーを並べてスマホで撮影し、さっそくSNSに載せた。
「……なんか以外だな。愛美ちゃんも、SNS映えとか気にするんだ?」
「毎回ってワケじゃないですよ。今回は初タピオカ記念で」
純也さんの疑問に、愛美はちょっと照れ臭そうに答える。流行に疎いということと、流行に興味がないこととは別なのだ。
「純也さん、……引きました?」
「いや、別に引かないよ。ただ、君もやっぱり今時の女子高生なんだなーと思っただけだ」
「……そうですか」
その言葉を、愛美はどう受け取っていいのか迷った。「女子高生らしくて可愛い」という意味なのか、「すっかり世慣れしてる」という意味なのか。
……愛美としては、前者の意味であってほしい。
愛美とさやかの二人が満足のいく写真をアップできたところで、四人はクレープにかぶりついた。
「「「お~いし~~い☆」」」
「うま~い!」
「ばななチョコ、とろける~♪ ホイップもいい感じだねー」
「ねー☆ やっぱチョコはテッパンだねー」
最後の感想は、もちろんチョコ好きのさやかである。他にも美味しそうなクレープが何種類かあった中で、何の迷いもなくチョコ系を選んだのがいかにも彼女らしい。
「ツナチーズもいけますわよ」
「えっ、マジ? 一口ちょうだい! あたしのも一口あげるから」
「……そっちは太りそうだからいいですわ」
さやかと珠莉は、お互いのメニューをシェアし始める。
「――純也さん、美味しいですか?」
「うん、うまいよ」
愛美が感想を訊ねると、純也さんは子供みたいにホイップがついた口を拭いながら答えた。
(純也さん、可愛い)
愛美は彼の姉になったような気持ちで、またクレープをかじった。
すると、横からズズーッと何かをすする音がして――。
「――あまっ! タピオカミルクティーってこんなに甘かったのか」
タピオカ初体験の純也さんが、あまりの甘ったるさに眉をしかめていた。
「そんなに甘いですか? ……うわ、ホントだ」
愛美も甘いものが大好きだけれど、ここまで甘ったるいのはちょっと苦手だ。こんなに甘ったるいものが、よく人気があるなと思う。
「ホントはソーダみたいなサッパリしたドリンクの方が合うんだけどね。色もキレイだから映えるし」
「えっ、そうなの? じゃあ、そっちにすればよかったかな」
炭酸が入っている方が、後味スッキリで飲みやすかっただろう。
「でも、コレはコレでいい記念になったから、まあいいかな」
一ついい勉強になったからよしとしようと愛美は思った。「タピオカミルクティーは甘ったるい」と。
(それに、大好きな純也さんと一緒に飲めたし)
思い出とは〝何を〟飲んだり食べたりしたかではなく、〝誰と〟が大事なんだと思う。大好きな人と、同じ経験を共有できたことが何よりの思い出になるのだ。
「――ふーっ、お腹いっぱいになったね。じゃあ純也さん、あたしたちそろそろ帰ります。今日はお世話になりました」
「叔父さま、今日はありがとうございました」
原宿駅の前まで純也さんに送ってもらい、三人はそこで彼と別れた。
さやかと珠莉は彼にお礼を言い、すぐにでも帰りそうな雰囲気だったけれど、愛美は彼との別れがまだ
「愛美ちゃん、今日は楽しかったね。連絡先、教えてくれてありがとう」
「……はい」
「じゃあ、また連絡するよ」
「はい! ……あ、じゃなくて。わたしから連絡してもいい……ですか?」
恋愛初心者にしては大胆なことを、愛美は思いきって言ってみた。
今度こそ、引かれたらどうしよう? ――愛美は言ってしまってから後悔したけれど。
「うん、もちろん。待ってるよ」
「はぁー……、よかった。じゃあ、また」
「うん。気をつけて帰ってね」
愛美は純也さんに大きく頭を下げ、二人の親友と一緒に改札口へ。
「――さやかちゃん、珠莉ちゃん。今日、すっごく楽しかったね」
帰りの電車の中で、愛美は二人のどちらにとなく話しかけた。
「うん、そうだね。初めて好きな人にプレゼントもらって、初めて劇場に行って、好きな人と連絡先交換してもらって、そんでもって初タピ? 盛りだくさんじゃん」
「……もう! さやかちゃんってば、列挙しないでよ」
一つ一つはいい思い出だけれど、順番に挙げられると色々ありすぎて目まぐるしい日だった。
特に愛美自身、大胆すぎると思った言動が多すぎて、思い出しただけでも顔から火を噴きそうなのだ。
「でも、そのおかげで恋も一歩前進したじゃん。よかったんじゃない?」
「う……、それは……まあ」
「っていうか、純也さんのアレってさぁ、『付き合ってほしい』って意味だったんじゃないの?」
「…………」
さやかの衝撃発言に、愛美は電車内の天井を仰いだ。
「違う……んじゃないかなぁ。ちゃんと言われたワケじゃないし、わたしも告白してないし」
恋愛が始まる時、キチンとお互いに想いを伝えあって、「ここからがスタートだ」とラインを引けるのが愛美の理想なのだけれど。
「愛美はカタチにこだわりすぎなんだよ。友達から恋愛に発展したりとか、ただ連絡取り合うだけの関係から始まる恋愛もあるんだよ?」
「そうかもしれないけど……。わたし、純也さんより十三歳も年下なんだよ? 姪の珠莉ちゃんと同い年なんだよ? そんなコと付き合いたいとか思うかなぁ?」
愛美はまだ未成年だし、ヘタをすれば犯罪にもなりかねない。もしそうならないとしても、周りから〝ロリコン〟だと思われたりするんじゃないだろうか?
「純也さんが、愛美の気持ちに気づいてたとしたらどう?」
「えっ? どう……って」
愛美はグッと詰まる。もしもそうなら、両想いということで、彼が愛美との交際をためらう理由はなくなるわけだけれど……。
「案外、そうかもしれませんわよ?」
電車に乗り込んでからずっと黙り込んでいた珠莉が、ここへきてやっと口を挟んだ。
「……珠莉ちゃん、何か知ってるの?」
もしかしたら、彼女は叔父から彼の愛美への想いを打ち明けられているのかもしれない。愛美は淡い期待を込めて、珠莉に訊ねた。
「知っていても、私からは言えないわ。それはあなたが叔父さまご本人から聞かなければ意味がないことじゃありませんの?」
「……うん、そうだよね」
珠莉の言うことはごもっともだ。でも、だからといって純也さん本人に「わたしのこと好きなんですか?」と訊く勇気は愛美にはない。
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