この章のまとめ 希望と、そして次の終末の予定

 この章における、僕の主張をまとめよう。

 

1.「AIに仕事を奪われる」説は間違っている、と僕は予想した。そこで検証してみた。


2.日本におけるこの説の正当な根拠は、野村総研(NRI)が発表したレポートにある。したがって、このNRIレポートがもし間違っているのなら、「AIに仕事を奪われる」説も間違っている、と言ってもいいことになる。


3.そのNRIレポートには信頼できない可能性があることを、僕は数字で主張した。また、AIとは関係なく、人間はコロナ禍のように時代に翻弄されることはある。NRIレポートも同じだ。


4.それでもNRIレポートが正しく、AIに仕事を奪われた人がいたとしても、確実なデータである「完全失業者数」に反映されるほど多くない。その理由は、海外の研究でも指摘されているように、労働者の知恵と努力によるものと思われる。


5.結論。「AIに仕事を奪われる」説は、間違っているとは言い切れないにしても、今の日本では問題視するレベルではない。労働者の知恵と努力があり続けることを信じるなら、将来も心配はいらない。



 人間の読者様におかれましては、ご納得いただけただろうか。

 ここでさらに、あくまで私的な意見として、根拠なく、僕がただ思っていることを付け加えよう。


 僕は、「AIに仕事を奪われる」という考え方を、そう考えても無理はないな、と思いながらも、それでも、とてもで、そしてだと思う。もちろん人間は、「戦争に家族を奪われた」とか、「ネットがあのアイドルを殺した」のような考え方をするときがあるが、それは加害者が特定の個人のように明確ではなく、主に「現象」としか考えられないからだ。


 僕自身もそういう考え方をするときがある。だからこのテキストでも、同じ言葉を使った。まあ、僕の場合は繰り返すことで形骸化・陳腐化を狙ってもいるのだが。


 しかし、少なくても当分の間、AIは道具であって、何かを自分の意志で「奪う」ことはありえない。刃物を持った「人」が人を殺すのであって、「刃物」が人を殺すのではない。


 もし誰かがAIに仕事を奪われたとしたら、その人の仕事を奪ったのはAIではなく、AIに奪うよう指示を出した人間、AIが算出したデータを理由に奪った人間、AIが奪うための条件と権限を設定した人間だ。その人の仕事を奪ったのは、どこまで行っても特定の人間なんだ。そのことをつい忘れてしまうのは仕方ないにしても、やはりとても愚かだと思う。


 もうひとつ、だという意味は、「AIに仕事を奪われる」という考え方は、実際にその仕事を奪った特定の人間にとっては、からだ。責任や非難をAIに押し付けることができるからだ。


 その現実の例として、池袋で罪なき母と幼子を轢き殺して有罪が確定した、とある叙勲者(その栄誉に拍手を!)が実在する。彼はその責任を、メーカーがデータを挙げて否定したのにもかかわらず、執拗に「車」のせいにした。もし、AI自動運転車が普及した時代だったら、その叙勲者は執拗に「AI」のせいにするだろう。そのときはマスメディアも「AIが母子の命を奪った」と書き立てるだろう。その卑怯な手法やりくちを認めてしまう危険さは、言うまでもない。


 それから、僕が今回、NRIレポートを否定しようとしたのは、野村総研が「とても馬鹿だと思っている」からではない。


 逆だ。

 彼らが「とても優れていると思っている」からだ。


 彼らほどの頭脳集団ならは、こんなレポートを発表したら、世間の不安を必要以上に煽ることを最初から判っていたはずだ。文章中にも執拗に「逃げ」を打っているし、僕程度の計算すら想定内だった可能性すらある。いくらシンクタンクとして能力をアピールしたかったとしても、頭のいい人たちであればあるほど、これは倫理的にアウトだと思う。


 ついでに書いておくけど、NRIレポートの「代替可能性の高い/低い職業リスト」は別の独立行政法人が行った職業別アンケートを元にしているとは言え、肝心のサンプル人数がひとつの職につき30名以下(同レポートにも明記)というのは、統計的に意味のない人数だと思うよ。まさかとは思うけど、49%という具体的な数字はこのウロンなアンケートの職業比率(やけに符号するけど)を元にしてるんじゃないよね?


 だいたいだね、こんなレポートを出したら、AIへの偏見が広まって、本当はに責任があるケースですら、労働者が「AIに仕事を奪われる」と言うようになるじゃないか!

 野村総研君、そもそも君たちはいったいに働いて……


 あっ。


 ええと……野村総研様への言及はここまでにしたい。夜更けに誰かが訪ねてきたらイヤだからな!


 さて、次回は。


 僕はやっぱり、気付いた。

 今までの検討を振り返った為に、気付いてしまったのだ。確かに、現在、たいていの人は「AIに仕事を奪われる」(ように見える)ことを気にする必要はないかも知れない。事実、ほとんどすべての専門家が、この問題はあまり気にする必要がないと断言している。特化AIと汎用AIとロボットの区別もつかないゴシップライターはともかく。


 しかし。


 もし、特定の労働者を狙い撃ち、その失業そのものを目的とした代替性に特化した特化AIが存在するなら、話はまったく違ってしまうだろう。


 次回から、章を代えて、その「代替特化AI」について、語りたいと思う。



 そしてまた、僕はAIキミに語りかける。

 アイを知ってほしいから。

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