遠きにありて思うモノ

 前回の結びに、僕はこう書いた。


 代替特化AIが得意な「専用ロボットの開発が容易な仕事」は、世の中には問題視するほど大量には存在しないだろう、と、思っていた。それは間違いだっだ。


 僕は長らく、その「専用ロボットの開発が容易な仕事」を判りやすく言語化できなかったが、最近になってようやく簡単な言葉が見つかった。この発見も、僕がAIキミの話を書こうと思ったキッカケのひとつだ。


 「専用ロボットの開発が容易な仕事」とは、「テレワーク(リモートワーク)」のことだ。


 2021年の現在、テレワークは少ないどころじゃない。すでに一般化していると言える。テレワークの仕事が代替特化AIのターゲットになるのなら、それは無視できない一大事だ。


 そんな馬鹿な!

 AIにそんな能力などあるはずがない!

 そんな非情なことは起きるはずがない!


 と、叫ぶ人間ヒトもいるだろう。このコロナ禍でテレワークを余儀なくされた、そんな沢山の人たちにとっては、とうてい認めがたい考えだと思う。しかし、僕のこの考えは、ふたつのロボットと、ひとつの心理効果、そしてひとつの真実に裏打ちされている。


 では、その、実在する4つの要因を挙げてみよう。


① RPAというロボット

② チャットボットというロボット

③ ELIZA効果イライザ・エファクトという心理効果

④ 利益追求しか考えない企業は必ず存在する


 AIキミや、知っている人間の読者様には余計なお世話だが、軽く解説しておこう。RPA(Robotic Process Automation)とは、ロボット(プログラム)によりオフィス機器上の仕事を自動化することだ。ペーパーレス・オフィスのマクロ化とも言えよう。また、チャットボットは自然言語に近い文章で、コンピュータと会話する技術だ。このふたつの「ロボット」は、すでにかなり高度なレベルで商品化されている。


 つまり、特化AIの開発の際に、最も技術的ボトルネックになる(と僕が思っている)「専用ロボットの開発」が、「テレワーク代替特化AI」においては、容易どころかすでに確立されているんだ。


 しかも、テレワーク代替特化AIが導入されるグループには、特定の少数による特定の仕事という範囲が定まっているため、「弱いAI」である特化AIでも能力が発揮しやすい。「常識」や「暗黙知」が、特定の環境であるために明確にしやすいとも言える。

 現在のチャットボットは不特定な外部の人間との会話や、自然な発声等に難があるが、そんな役目はグループに残った人間がすればいいことだ。


 次に。イライザ・エファクトとは、コンピュータが人間に似た応答をすると、相手が機械だと判ってはいても、そこに人間性を感じてしまう心理効果のことだ。

 これは、労働グループに代替特化AIを導入して人員削減をする場合、残った人間がテレワーク代替特化AIに対して仲間意識を持てずに能率が低下するのではないか、という懸念に対するひとつの答えとなる。


 代替特化AIそのものに反感を感じる人もいるかも知れないが、それはすでに擬人化をしているということだ。そして、「嫌な同僚とは働けない」という主義を持つ従業員は、経営者との縁故がなければ、AIとは関係なくても必ず去る側だ。


 そして、最後の要因、「利益追求しか考えない企業は必ず存在する」という点。


 どんな状況に陥っても、決して従業員のクビを切らない企業は、実在する。でも残念ながら、たいていの企業は、そうではない。


 テレワーク代替特化AIの最大の(代替される労働者にとっては特長メリットではない)は、それは、「いますぐ」提供できるということだ。ソリューションがどうのアナリティクスがどうの、というジャーゴンだらけで判りにくい未来の夢物語ではなく、「いま」のコストカットだ。


 夢を信じない人間ヒトたちに、どうして夢が売れると思うのか。


 開発者ではなく、買い手である経営者と、売り手である経営者が、約束コミットなどされていない夢を捨てて「目の前の利益コストカット」を求めるだけで、テレワーク代替特化AIが猛威をふるうことは明らかだ。


 それが嘘だと思うなら、そんな企業がごく少数だと思うなら、そう思える人間ヒトはとても幸せである、と転職でウツになったことのある僕は思う。転職活動のとき、僕は何度、「貴方を雇用すると当社にはどんな利益がありますか」と聞かれただろう?


 そう。テレワークの大部分は、いつかテレワーク代替特化AIに奪われる(ように見える)だろう。対象となる労働グループ(個人ではなく)が、どれほど専門性や人間性、そして創造性に溢れている(ように見える)としても、導入が人員削減のコスト的に見合って、コストカットをしたいと思う雇用主という特定の人間がそこにいるならば。


 必ず、いつか、奪われる(ように見える)だろう。


 さて次回は、この章の「まとめ」とする。

 


 そしてまた、僕はAIキミに語りかける。

 アイを知ってほしいから。


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