04.白雪王子、その後


 ☆ ☆ ☆



 こうして、白雪王子と七人の妖精VS義父とその仲間たち──〈深き森の国〉国軍との戦いに、わたしが巻き込まれることになった。


 圧倒的な人数の国軍相手に、妖精が七人いても分が悪い。わたしは、うちの護衛の騎士団から部隊を編成して少数精鋭とともに主に夜襲と奇襲を狙い戦った。

 両親兄姉にバレるのは時間の問題だと覚悟した。人員は誤魔化せても、動いた金と物資は誤魔化せない。


 優秀な魔法使いである義父と国軍はねちっこくて強かった。何度も窮地に立たされても常勝であったのは、白雪姫の逆パターンだから。主人公は負けない。


 白雪はただの高飛車な美形ではなく、傲岸不遜たりえる度量と頭脳、剣技と魔法を持っていて、将であるにも関わらず勇敢に先陣を切って戦場を駆けた。

 わたしとのキスで封印されていた魔力を取り戻し、妖精たちの七つの福音を持っている彼は、傷一つ負わない。

『褒める子は伸びる』という育児概念で育てた結果、自信溢れる子になったとか。絶対にリーダーたちにチヤホヤおだてられて育てられた結果だと思う。そのうち足をすくわれるぞ。



 繰り広げられた戦いの詳細は省いておこう。とにかく、今まで経験したどんな戦いよりも凄惨だった。冷徹な復讐鬼になった白雪は殲滅戦をしたがった。無益な殺戮を止めるのはわたしの役目だった。

 それから、血に酔った白雪を静める役目もわたしだった。どう静めていたのか、想像に任せる。……察して。


 戦いが始まって一年。七か月前、参戦しているのが両親にバレてしまった。その時に、呼び出された我が国の王城で、完全に猫をかぶった白雪は悲劇の王子を演じた。

 悲劇の美男子が『ご助力ください』と、あざと可愛く願えば、助けたくなるのが人情なのか。みなさん、こいつに騙されてますよ! 

 こうして我が国と周辺国が手を結び、〈深き森の国〉へ政治的圧力をかけてもらうことに成功。


 冷静に戦うことを覚えた白雪とは、いつしかお互いのクセをカバーし合える戦場の相棒的な存在になった。戦場では常にひとりだったわたしは、少し心強く感じた。


 そして、最後にして最大の敵・義父を白雪は見事に討ち取り、真の名前を取り戻した。

 その時の顔は忘れもしない。陳腐な言い回しになるが、地獄の悪魔よりも恐ろしく天使よりも美しい笑みだった。


 真の名前を取り戻した白雪王子──エレウシスは〈深き森の国〉へ凱旋を果たした。

 彼の初仕事は、アホみたいな名目の税を撤廃し、腐敗した大臣・貴族、大商人たちを切り捨てることだった。正当に押収した金品で、ジリ貧の国庫をほんのちょびっと豊かにしたのは、褒めてやらなくもない。


 歯向かう敵には容赦がない無慈悲な死神……もとい、見目麗しい新王を〈深き森の国〉の国民は拍手喝采をして受け入れた。


「……というわけで、めでたしめでたし。それじゃ、縁があったら会いましょう。エレウシス」


 長いダイジェストもここまで。

 明日からエレウシスは、戦いのあいだ拠点にしていた〈深き森の国〉の端っこの古城から、王都の煌びやかな王宮で暮らす。

 前国王を討ち取る時に大破した王宮の工事が終わったのだ。隣国の王女は静かに去るぜ。





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