もう一度、伝えたくて。

梔子

もう一度、伝えたくて。

・深水 日和(ふかみ ひより)(19)

……地方から大学に入学するため上京し、一人暮らしをしている女の子。とても素直で明るい性格。


・ヒロ(瀬名寛人/せな ひろと)(享年26歳・黄泉がえり後外見年齢10歳)

……恋人に会いたくて黄泉がえりした青年。黄泉がえりによって少年の姿になる。迷子になりお腹を空かせていた所を日和に助けられる。


・ハル(深水 小春/ふかみ こはる)(享年15歳・黄泉がえり後外見年齢19歳)

……複雑な思いを抱えて黄泉がえりした少女。その正体は病気で亡くなった日和の姉。今はバイト仲間として、日和の傍にいる。


・ハテナ/果名(黄泉の役人)

……黄泉の国未練救済庁の職員。黄泉がえり課パスポート交付係勤務。元はこの世の人間であったが亡くなり、黄泉の国で再就職を果す。今では生前の世界に未練を持った人々のために働いている。




ハテナ「皆様こんばんは、そして、はじめまして。私は黄泉の国、未練救済庁黄泉がえり課パスポート交付係のハテナと申します。」


ハテナ「おやおや、聞きなれない言葉ばかり並べ立てしまったようで?失礼致しました。私は文字通り、黄泉の国、つまり亡くなった人達の行く世界で、死者が生者の国へと黄泉がえりをするための手続きをする窓口に勤めている者です。」


ハテナ「実は黄泉の国には、亡くなった時に何か未練を残してしまった方々への救済処置として、一度だけ生き返ることができるシステムがあるのですよ。」


ハテナ「ほら、そう言っている間にまたお客様が……」

ヒロ「あの……黄泉がえり、したいんですけど。」

ハテナ「書類を拝見致しますね。……瀬名寛人様。性別男、享年26歳、死因:交通事故。黄泉がえり申請理由は……恋人との再会希望、ですか……。」

ヒロ「はい。お恥ずかしながら、僕、彼女にプロポーズしに行く途中で事故にあってしまって……人に実害を与えなければ、どんな理由でも申請可能なんですよね?」

ハテナ「可能といえば可能ですが……」

ヒロ「ですが?」

ハテナ「魂としてよみがえることはできても、生前の肉体のままよみがえることは不可能なのですよ。」

ヒロ「つまり?」

ハテナ「瀬名様がよみがえってお付き合いされていた方の前に現れても、まずその方は瀬名様だと気づかないということになります。」

ヒロ「そんな……」

ハテナ「申し訳ありません。黄泉の国の規則ですので、私達役人にはどうすることもできないのです。もし、それでも良ければこちらにご署名して頂くことで、黄泉がえり成立となります。……いかがでしょうか?」

ヒロ「…………それでも、会いたいです。悲しんでいる彼女を勇気づけたい。サインします……!」

ハテナ「……承知致しました。これにて、契約成立となります。こちらが生者の国へのパスポートです。決して無くさないで下さいね。」

ヒロ「ありがとうございます!」

ハテナ「どんな姿で蘇ることになるかは、生者の国の門に辿り着くまで分かりませんが、瀬名様の黄泉がえりライフが良いものになることをお祈り申し上げます。」

ヒロ「はい……!いってきます。」

ハテナ「いってらっしゃいませ。」


ハテナ「さて……と、お次の方、どうぞ。」


ヒロ「えーっと……門って、どこだ?」

ヒロ「あっ、あれか……って、ええっ!?

身体が……縮んでい……く……。」


【この世】


日和「ふぅ、今日忙しかったね……」

ハル「ね、お疲れ様。」

日和「ハルも今日は上がり?」

ハル「うん。」

日和「じゃあ、駅まで一緒に行こ。」

ハル「うん。」


ハル「日和この後空いてる?」

日和「時間は有るけど、どしたの?」

ハル「ご飯どうかなって思って。」

日和「あー……すっごく行きたいけど、お財布がピンチで今日は自炊かな。昨日買い出し行っちゃったからさぁ。」

ハル「そっかぁ。」

日和「ごめんね。」

ハル「ううん、気にしないで。また今度行こ。」

日和「うん、ありがと。」

ハル「それじゃ、私あっちだから。またね。」

日和「うん、またね。お疲れ様!」



日和「はぁ、何作ろっかなぁ……ん?あれって……?」


ヒロ「うーん……」

日和「ねえ、君、大丈夫?」

ヒロ「うう……」

日和「ちょっと、起きて。こんなとこに居たら風邪引くよ?」

ヒロ「はらへった……」

日和「お腹空いてるのかぁ……仕方ない。うち、上がってきなよ。今からご飯作るから。」

ヒロ「えっ?いいの?」

日和「今日だけだよ?」

ヒロ「命の恩人だぁ……おねーさんありがとう!」



日和「はい、どーぞ。召し上がれ。」

ヒロ「わあ……!あったかいご飯だぁ。遠慮なく、いただきまーす!」

日和「よっぽどお腹すいてたんだね……私も、いただきます。ていうか君、家は?親御さんたち心配してるんじゃない?」

ヒロ「僕、親いなくて……」

日和「えっ、あっ、ごめんっ。無神経なこと言っちゃって……」

ヒロ「いや、そういうことじゃないんだけどね。」

日和「ん?どういうこと?」

ヒロ「えーっと、なんというか……」

日和「言い難いことなの?誰にも言わないから、お姉さんに言ってごらん?」

ヒロ「僕、いや、俺……1回死んでるんだ。」

日和「……は?」

ヒロ「俺、黄泉の国からこの世に蘇ってきたんだ。」

日和「…………えぇっ!?」

ヒロ「ちょっ、そんなおっきい声出さなくても。」

日和「いや、普通驚くでしょ?君、本気で言ってる?」

ヒロ「本気だよ!嘘だとしたらそんなすぐバレる嘘つかないよ!ほら、生者の国に入るためのパスポートだって持ってるし!」

日和「そんなものまであるの!?」

ヒロ「そうだよ、生前の写真だってちゃんと貼ってあるんだから。」

日和「うーん……怪し過ぎるけど、まあ、一旦信じるとして。あなたは何でこの世に戻ってきたの?」

ヒロ「やっぱそこ話さなきゃダメ?」

日和「言ってくれなかったらおかず全部取り上げるけどいーい?」

ヒロ「分かったよぉ……話します。俺はね、死ぬ前はしがない会社員だったの。仕事は辛かったけど、将来一緒になりたい子が居たから頑張ってて……」

日和「おお……!彼女さん居たのね。」

ヒロ「うん、年下だけど俺には勿体ないくらいかわいくてしっかりしてて、めちゃくちゃいい子でね。この子となら、未来のこと考えられると思って付き合ってたんだ。」

日和「うんうん。それで……?」

ヒロ「幸せだったのに何でって思うよね?俺だってそう思うよ……俺、プロポーズもしようとしてたんだけどさ、しに行こうとしたら信号無視の車に轢かれて……」

日和「酷い……」

ヒロ「だよね。俺の命日、彼女の誕生日だったんだよ?彼女も塞ぎ込んじゃったみたいで、本当に悪いことしたなぁって……」

日和「悪いのは轢いた方でしょ。あなたはちょっとも悪くないよ……」

ヒロ「……ありがとう。俺はね、彼女にもう一度会って励ましたいんだよ。だから黄泉がえりシステムでこの姿になったんだ。でもまさか、こんなちんちくりんになるとはなぁ……」

日和「よみがえる時って見た目選べないの?」

ヒロ「そうなんだよ……それは聞かされてたけど、年齢まで変わっちゃうなんて盲点だった……。こんなんじゃ彼女に会ってもさっきみたいに驚かれるだけだよね。」

日和「うーん、驚かれるとは思うけど、気持ちを伝えることはできると思うよ?」

ヒロ「そう、かな?」

日和「絶対とは言えないけど、あなたみたいに彼女さんを大事にしてた人だったら、きっと大丈夫だよ。私にできることがあれば協力するし。」

ヒロ「ありがとう。おねーさんのおかげでちょっと頑張れそうだよ。」

日和「おねーさんじゃなくて、日和って呼んで。」

ヒロ「日和、いい名前だね。俺のこともヒロでいいよ。多分俺の方が年上だけどこんなんだし。助けてもらったし。」

日和「えへへ、よろしくね。」


(SE:鳥のさえずり)


日和「ふぁあ……あれ?おはよう。」

ヒロ「おはよう。」

日和「って、え?これは?」

ヒロ「キッチン勝手に使ってごめん。朝ごはんのつもりなんだけど……」

日和「えー!ありがとう!早番だったから助かる。」

ヒロ「いや、居候するならこれくらいはしなきゃと思って。パンと卵焼いただけだけどね。」

日和「いい匂いしてるよ。じゃあ早速、いただきます!」

ヒロ「俺も、いただきます。」

日和「このオムレツ、おいしいよ!」

ヒロ「よかった。一人暮らしだったから、簡単な料理はよくしてたんだ。」

日和「そっかぁ……料理できる大人の男性、いいなぁ。」

ヒロ「今日はバイト何時までなの?」

日和「6時まで。」

ヒロ「了解、家の事色々やっとくよ。」

日和「そんなに気遣わなくていいのに。」

ヒロ「だって、日和も俺に協力してくれるんだろ?」

日和「まあね、やれることはするよ?」

ヒロ「だったら俺もやれることやりたいからさ。任せてよ。」

日和「……ふふ、本当にいい旦那さんになってたんだろうな。」

ヒロ「なんだよ……それ。照れるなぁ。あんま歳上からかうと危ないぞ?」

日和「今はちんちくりんでしょ?」

ヒロ「うるさい。早く行かなきゃ遅刻するぞ?」

日和「やばっ、もうこんな時間。いってきます!留守番よろしく!」

ヒロ「いってらっしゃい。」


(バイト先)


ハル「おはようございます。」

日和「あっ、おはよう。」

ハル「あれ?空いてるね。」

日和「うん、まだそんな混んでないね。」

ハル「そっかぁ。日和さ、次の休みいつ?」

日和「えっと、来週の水曜かな。」

ハル「私もそこ休み。よかったら、うち来ない?」

日和「え?ハルの家ってこと?」

ハル「うん。最近家でケーキ焼くのにハマってて、でも周りに食べてくれる人いないからさ、日和なら誘ってもいいかなぁって。どう、かな?」

日和「私でいいなら喜んで!って言いたいところなんだけど……今ちょっと……」

ハル「ちょっと?」

日和「家空けにくくって……」

ハル「ペットでも飼ってたっけ?」

日和「いやぁ、そうでもなくって……」

ハル「んー?」

日和「親戚の子!預かってて……だから、一人にしとくのも無責任だし……だから、」

ハル「なぁんだ。その子も一緒においでよ。」

日和「え?でも、なんか悪いし……」

ハル「皆で食べた方が美味しいでしょ?」

日和「うーん……じゃあ、お言葉に甘えて……。」

ハル「うんうん、楽しみにしてる。」


(日和帰宅)


日和「ってことになったんだけど、私の親戚ってことで一緒に来てくれる?」

ヒロ「日和の友達の家に?」

日和「うん……せっかく休日で、まとまった時間取れるし、ヒロの計画もあるだろうから、断ろうかと思ったんだけどね。」

ヒロ「うーん、まあ俺のことは次の休みの時でもいいから良いんだけど。」

日和「なんかごめんね。」

ヒロ「別にいいよ。彼女のことは正直心配でならないけどね。」

日和「今、彼女さんの様子って何かで知るとかできないの?」

ヒロ「そりゃさすがに無理だなぁ……黄泉の国にいた時はちょっと覗くとかできたけど、黄泉がえりしてからはできなくなっちゃったから。」

日和「そっかぁ……」

ヒロ「日和はさ、何でよくも知らない俺に協力したいって思ってくれたの?」

日和「何でって?」

ヒロ「だってさ、あんな話他の人ならこんなすんなり信じてくれないと思うし。確かに日和がいい子なんだってこともあるとは思うけど、何か訳があるのかなって考えてたんだよ。」

日和「うーん、特に何も考えてないつもりだったけど、信じたかったのかもなぁ。」

ヒロ「何を?」

日和「死後の世界があって、こんな風にこの世に戻ってこれるってことをね。」

ヒロ「ふーん。」

日和「私、お姉ちゃんが居たんだけどね、私がまだ小学生だった頃に死んじゃって。」

ヒロ「…………」

日和「生まれつき体が弱かったから、入退院を繰り返してて、あんまり一緒に居られなかったんだけどね。でも一回だけ私の誕生日にお母さんと一緒にケーキ作ってくれたことがあって……優しいお姉ちゃんだったよ。」

ヒロ「……そうだったのか。」

日和「多分ね、私、お姉ちゃんにまた会えたらいいのになって……思ってて。だから、ヒロの言ってること信じたのかもね。」

ヒロ「何か、ごめんね……辛いこと話させちゃったね。」

日和「いいの、久しぶりにお姉ちゃんのこと思い出せたから。」

ヒロ「そうか……あの子も俺との思い出とか思い出したりするのかな……」

日和「そうだろうね。」

ヒロ「それで余計辛い思いしてたら嫌だなぁ……」

日和「まだお別れしてから時間が経ってないから辛いかもしれないね。」

ヒロ「うん……」

日和「でも、」


(場面転換)


ハテナ「時が経てばきっと、悲しみも薄れ、幸せな思い出を胸に抱き、前を向けるようになるのでしょう。」


ハル「っ……。キレイなだけの思い出になんてさせない。私が辛くて苦しくて一人ぼっちだったこと……忘れさせてあげないんだから……。」


(ハルの家)


日和「お邪魔します。」

ヒロ「お邪魔します……」

ハル「いらっしゃい!ヒロくんだっけ?ゆっくりしていってね。ケーキもう焼けてるから、そこに座って待ってて。」

日和「はーい。」

ヒロ「なんか……変な感じする。」

日和「え、大丈夫?」

ヒロ「よく分からないんだけど、この家って……」

ハル「はい、どうぞ。」

日和「わぁ、すごい!」

ハル「ケーキに合うお茶もあるの。まずは一口飲んでみて。」

日和「ありがとう、いただきます。」

ハル「ほら、ヒロくんも遠慮しないで。」

ヒロ「あっ、はい……いただきます。」

日和「いい香りだね。」

ヒロ「うん……」

ハル「ケーキの味の方はどう……?」

日和「うん!すごく美味しい!」

ハル「よかったぁ。」

ヒロ「(何だ、これ……急に眠くなってきた……)」

日和「あれ?ヒロ?どうしたの?」

ハル「あらら、眠くなっちゃったのかな?」

日和「ちょっとヒロ?どうしたの?まだケーキ残ってるでしょ?こんな美味しいの残しといたら……わた、しが……もらっちゃ……う……よ。」

ハル「うふふ……これで全て私の思うまま。」


(間)


ヒロ「…………あれ?身体がっ、動かないっ。」

ハル「おはよう。気分はどうかな?」

ヒロ「はっ……ハル、さん?」

ハル「動くと危ないから大人しくしててね。」

ヒロ「カッター!?」

ハル「しーっ。日和が起きちゃうから。」

日和「うう…………」

ヒロ「(このままじゃ危ない)日和、起きて!ここから逃げるんだ!」

日和「ヒ、ロ……?」

ヒロ「日和、起きろ!」

ハル「うるさいなぁ……あんまり騒ぐと危ないって言ってるでしょ?」

日和「ハル?何やってるの?どうしちゃったの?」

ハル「見ての通りだよ。」

日和「ふざけないで……!ヒロを離して。」

ハル「いやよ、私は絶対転生するんだから!」

ヒロ「転生?」

ハル「ええ、魂ごと生まれ変わって、今までとは全く別の新しい人生を歩むの。それと引き換えに一人犠牲になってもらわなきゃいけないのよ。」

ヒロ「だから俺を殺そうとしてるのか。」

ハル「そういうこと。」

日和「何言ってるかよく分からないけど……ハル、目を覚ましてよ。そんなこと絶対おかしいよ。」

ハル「ええ、おかしいと思うわ。ずっと前から、死んじゃう前からそう思ってた。」

日和「え……?」

ハル「辛くて苦しくて一人ぼっちで死ぬなんて、こんなに不幸なのに一度しかチャンスを与えてもらえないなんておかしいってね。」

ヒロ「ハルさんも、黄泉がえりなのか……?」

ハル「そうよ。病気のせいで15歳で死んだの……」

日和「15歳の時、病気で死んだって……」

ハテナ「そこまでですよ、深水小春さん。」

ヒロ「あっ、あなたは!」

ハテナ「黄泉の国、未練救済庁黄泉がえり課パスポート交付係のハテナです。何やら黄泉がえりシステムユーザー同士のトラブルが起こっているとの事で、見回りに参りました。」

ハル「くっ……」

ハテナ「椅子に縛り付けるなんて、まさか冗談かと思いましたよ……もう大丈夫ですよ。」

日和「ありがとうございます……」

ハテナ「小春様、黄泉がえりの方を殺しても転生することは不可能でございます。それどころか死者殺人の罪で黄泉の国の牢獄行きになってしまいますよ。瀬名様をお返しください。」

ハル「そんな……」

ハテナ「禁じ手を使用する場合は、生者の命を絶つしか方法はありませんからね。まあ、禁じ手ですので、どちらにせよアウトなのですが……っしょっと、瀬名様も解けましたよ。」

ヒロ「怖かったぁ……」


日和「あの、」

ハテナ「はい?」

日和「さっきハルのこと、深水小春さんって呼びましたよね。」

ハテナ「はい。」

日和「もしかして……お姉ちゃん?」

ハル「…………」

ハテナ「左様でございます。こちらの方の生前は、深水日和様のお姉様、深水小春様です。」

ハル「日和……ごめんね……」

日和「……信じられない。」

ハル「そうだよね……こんなことするお姉ちゃんなんて、」

日和「こんな風にまた会えるなんて、信じられないよ。」

ハル「日和……」

日和「お姉ちゃんは何で戻ってきてくれたの?」

ハル「別に……日和のためじゃないよ。私は私のために黄泉がえりしたの。病気を治すためにずっと頑張ってたのに、学校に行けないから勉強もろくに出来なくて、友達もいない。治らないって分かったらお父さんもお母さんも私を避けて腫れ物扱い。気付いたら日和が持ってるもの何一つ、私は持ってなかった……」

日和「…………」

ハル「悲しくて悔しくて……何より寂しかったの。」

日和「ごめんね……お姉ちゃんが何考えてるか、私全然気付けなかった。」

ハル「日和は悪くないの……!だって、私、お姉ちゃんなのに、日和と一緒にいてあげられなかったから。」

日和「お姉ちゃん……」

ハル「もっと一緒に遊びたかった…………日和が生まれた時ね、すごく嬉しくて、早く元気になって、精一杯お姉ちゃんするんだって思ってたんだ……日和のこと、私、大好きだった。」

日和「私もだよ……!」

ハル「えっ……」

日和「誕生日にケーキ作ってくれたの、本当に嬉しかったんだ。」


(回想)


小春「日和、お誕生日おめでとう。」

日和「わぁ……すごーい!これ、お姉ちゃんが作ったの?」

小春「お母さんが手伝ってくれたんだけどね。」

日和「おいしそう!早く食べよ!」

お母さん「うーん……小春はやめておこっか。」

小春「……うん。」

日和「えー、お姉ちゃんも一緒に食べようよ。皆で食べた方が美味しいでしょ?」

小春「でも、ダメって言われてるから……」

お母さん「少しだけなら、今日はいいよ。」

小春「えっ、でも。」

お母さん「頑張ってるご褒美。皆で一緒に食べましょ。」

日和「わーい!お姉ちゃん私の隣に座って!」

小春「……うん!」


(回想終了)


日和「さっきのケーキも美味しかった。ちょっとしか食べられなかったけどね。」

ハル「本当にごめんね……こんなお姉ちゃんでごめんなさい……」

日和「こんなじゃないよ。お姉ちゃんは私にとって、一人だけの大好きなお姉ちゃんだったよ。」

ハル「……ありがとう。よみがえってから日和の傍に居られた時間、楽しかったよ。ずっとモヤモヤしてたけど、でも日和と一緒にいる間は幸せだった。」

ヒロ「うう……いい話だなぁ……。ねえ、小春さん。」

ハル「あっ、ヒロ、さん……先程は本当にごめんなさい。私、間違っていました……」

ヒロ「ああ、分かってくれたなら良いんですよ。あのね、小春さん、よかったら俺と一緒に成仏しませんか?」

ハル「成仏……?」

ハテナ「この世の未練が晴れた黄泉がえりは、その時点で自然に成仏という形になり、魂が浄化されリセットされた状態で、またこの世に違った形で生まれ変わることができるのですよ。」

ヒロ「そう。だから、お節介かもしれないんですけど、一人でいくのは寂しいかなって。俺ももう大丈夫ですし、小春さんがもしよければ、一緒に黄泉の国へ戻りましょう?」

ハル「ヒロさん、ありがとう……でも、生まれ変わるってことは、日和との思い出とか全部消えちゃうってことですか?」

ハテナ「そうなりますね……だからといって黄泉がえりの姿のままこの世にいられるのはパスポートの有効期限までですので、いつまでも日和さんと一緒に居られるという訳でもないですからね。」

ハル「そっか…………」

ハテナ「ただ、小春さんの記憶が消えてしまっても、日和さんが忘れない限り、その思い出は日和さんの中で生き続けます。だから、何もかもなくなってしまうわけではないのですよ。」

日和「私、お姉ちゃんのこと絶対忘れないよ。私が覚えてたらずっと一緒に居られるもんね。」

ハル「そうだね……ありがとう。私はもう大丈夫。だけど……ヒロさんは?ヒロさんはやり残したこととかないんですか?」

ヒロ「俺は……」

日和「彼女さんに会わなくてもいいの?」

ヒロ「俺は……いいんだ。会うべきかどうか迷ってたし。彼女には彼女の未来があるんだ。そこに俺が出てきたら前に進めなくなるかもしれないだろ。」

日和「せっかく戻ってきたのに、本当にそれでいいの?」

ヒロ「これが俺の人生だから。でも最後に日和に頼みたいことがあるんだ。頼まれてくれるかな?」

日和「もちろん……!」

ヒロ「ありがとう。彼女宛ての手紙を食卓に置いておいたから、直接彼女に渡してほしい。」

日和「それくらいお易い御用だけど、私が行ってもいいの?」

ヒロ「俺の親戚ってことで行ってくれたら大丈夫だよ。」

日和「……分かった。必ず届けるね。」

ヒロ「本当にありがとう。日和に会えてよかった。」

日和「私もだよ。ありがとう。」

ハテナ「それではお二人共よろしいですか?」

ハル・ヒロ「はい。」

ハテナ「では、参りますよ。」

日和「……っ眩しい。」

ヒロ「なんだか温かいな……」

ハル「そうですね……」

日和「お姉ちゃん!ヒロ!……またいつか、絶対会おうね!」

ヒロ「またどこかで。」

ハル「本当にありがとう。大好きよ、また……ね……」


ハテナ「行ってしまわれましたね。」

日和「はい……姉がお世話になりました。ありがとうございました。」

ハテナ「いえいえ、職務を果たしたのみですから。あなたともいつか黄泉の国でお会いするでしょう。その日が近くないことを祈っておりますよ。」

日和「はい。」

ハテナ「この度はお騒がせ致しました。では、また。」


(SE:風の音)


日和「あれ?ここって……うちの前だ。夢でも見てたのかな。」


(SE:ドアの音)


日和「ただいま……」

日和「あっ、手紙。」


日和「それから後日、私はヒロの彼女さんの家に赴いたけれど、最初はチャイムにも出てもらえず手紙を渡すこともできなかった。けれど何度も試して6回目に、やっと彼女さんに会うことが出来た。ヒロのお話通りとてもかわいらしい方だった。私は多くは話さず、彼女さんに手紙を渡して家に帰った。深入りするのも野暮だなって思ったし。ただ、ヒロの気持ちが届いているといいなと思う。そして、彼女さんが前を向いて生きていけるといいなって。」


日和「私はというと、年末、お姉ちゃんのお墓参りに実家へ帰ることにした。お母さんにあの時のケーキのレシピを教えてもらおうと思う。ケーキの味と一緒にお姉ちゃんのことをいつまでも覚えていられるように。」


(間)


ハテナ「この世を去る誰もが後悔何一つなく亡くなることは非常に難しいことでしょう。そんな時のための黄泉がえりシステム、お亡くなりの際はあなた様も是非、ご利用下さいませ。それでは、またあの世でお会いしましょう。よい人生を。」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

もう一度、伝えたくて。 梔子 @rikka_1221

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ