第43話「エンドロール」



「私と友達になってください」



 黒川がそう言って子供達に向かって手を伸ばすと、数秒してそのセリフが自分達に向けられたのだと理解した子供達が一人、また一人と立ち上がって黒川の手を取り「いいよ」「ともだちになる!」「わたしも!」と声を出して集まり始めた。


 それを確認した俺は最後にとってあった録音済みのナレーションを再生した。



『そして、王女様の日常は独りではなくなりました。

 めでたし、めでたし……』



 そのナレーションが流れると、演劇を見守っていた幼稚園の先生達が拍手をして、子供達は演劇は終わっているにもかかわらず黒川の周りに集まっては楽しそうにはしゃいでいる。


 顔合わせの時で子供達に警戒されていた黒川とはえらい違いだな……


「なんとか、成功したな……」


 これが俺の考えたハッピーエンドだ。

 友達を演じる役者がいないなら観客を使えばいい。


 そんなの無茶苦茶な理論で演劇と言ってもいいレベルなのか疑問だが、俺は黒川の演劇力ならこの結末を作るのは可能だと思ってこのハッピーエンドを書き上げた。


 元々、この演劇が黒川の一人芝居に落ち着いたのもアイツの演技力がずば抜けて高かっただし、黒川の演技には観客を舞台に引きずり込む力がある。

 それに、この演劇の観客は感受性が高い子供達だ。

 これが大人相手なら役者が観客自分に語りかけていると気づいても反応しないかもしれないが、幼稚園児なら黒川の演技に引きずり込まれてそのまま応えてくれると思ったのだ。


 まぁ、結局は全てただの結果論なんだけど……てか、これで子供達が反応してくれなかったらマジでヤバかったし、俺はどうするつもりだったんだろうな。



「お姉ちゃんあそぼう!」「おかしあるよー」「パンツなにいろ?」「ともだちになってあげる!」「おれも!」「いっしょにあそぶ!」

「え、え!? ちょっと、待って……私まだ衣装のままなのだけど……もう、仕方ないわね。いいわ! なら、この私が、皆まとめて遊んであげようじゃない!」


「「「「キャァ~っ!」」」」



 舞台の方を見れば王女様の衣装をまとったままの黒川が楽しそうに子供達を追いかけまわしていた。

 ……おいおい、その衣装レンタルなんだから汚すなよ?


「まぁ、でも……いいクリスマスプレゼントにはなったよな?」


 転校でいなくなってしまう俺は黒川の友達にはなれない。

 だからこそ、いなくなる俺が残せる友達プレゼントはこれしか思いつかなったのだ。


「それだけ、笑えたら俺がいなくても大丈夫だろ」


 そして、俺は何も言わずその場から離れた。


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