第16話「選択肢」



「「幼稚園のクリスマス会?」」



「ああ、毎年演劇部は隣の幼稚園のクリスマス会で軽い演劇を披露していてな。それで、今年のクリスマス会にもウチの演劇部が招待されたというわけだ」


 ウチの高校は中高生一貫教育で、隣の幼稚園はその付属で、幼小一貫教育となっているので、こういう学校を超えた幼稚園との交流はよくあることらしい。


 なるほど、クリスマスの予定を聞かれたから何かと思ったら、要は幼稚園のクリスマス会で演劇をやれということか。

 ふぅ……ついに、生徒を使ってまでクリスマスの寂しい予定を埋めようとしているのかと思ったぜ。


「ん? 安藤、どうかしたか? 何か言いたそうな顔をしているが、意見があるなら言ってくれてもかまわんぞ?」

「いいえ、何でも無いです……」


 いや、だから怖えよ……。

 川口先生、普通に心読まないでくれますか?


 すると、話を聞いていた黒川が口を開いた。


「でも、演劇部は今活動休止扱いですよね……?」

「だから、こうして相談しているのさ。幸いなことに、今演劇部は部員が二名もいるからな」

「つまり、俺達に幼稚園で劇を披露しろってことじゃないですか……」

「先生……。私達、演劇は素人ですよ」

「別に、君達にミュージカル顔負けの演技を期待しているわけじゃないさ。所詮は幼稚園のクリス会の余興にすぎない。子供たちが喜ぶレベルで構わないさ」

「いやいや、そんなこと言われても……」


 俺は幽霊部員で良いと言われて入部したはずなんですけどね?

 それなのに、いきなり幼稚園で演劇しろなんて……こんなの詐欺だろ。


「まぁ、君達の言いたいことも十分に分かる。でも、クリスマス会での演劇は毎年の恒例だったからな。幼稚園の子供達も期待しているんだ」

「そ、そうですか……」

「うっ、そこで子供達を出してくるのは卑怯ですよ……」


 そう言われると、断るのに罪悪感湧くなぁ……

 確かに、俺と黒川二人の事情で幼稚園にいる何十人の子供達が悲しむとか想像したくねぇよ。


「それに、実は教頭先生からも小言を言われていてな。教頭は何て言ってたかな~?」

「小言ですか……」


 まぁ、確かにこんな部活が活動休止中とはいえ、いつまでも存在しているのは学校側にとっては問題だもんな。


「……因みに、断ったらどうなるんですかね?」


 それでも、クリスマスの予定を聞いて来るってことは『断る』選択肢もあるってことだよな?


「ん? 安藤、クリスマスに予定があるのか?」

「貴方にクリスマスの予定なんて無いわよね?」

「えぇぇ、何で二人とも決めつけてるのぉ……」


 まぁ、予定なんて無いんですけどね……。

 だけど、それを言ったら、ここにいる全員クリスマスの予定なんか無さそうなメンツだろ。


「まぁ、断もなら私はそれでもいいぞ。その場合は演劇を楽しみにしている幼稚園の子達が少し悲しんで、ついでに私が一人でクリスマスを過ごす羽目になるだけだからな」

「明らかに、断りづらいんだよなぁ……」


 しかも、幼稚園児の悲しむ姿より、一人でクリスマスを過ごす先生を想像した方が、涙が出そうになるのは何でだろう……



「あ、ぁ、思い出した! そう言えば、今年中に何かしらの活動実績を作らないと、演劇部の部室を没収すると、教頭に言われていたな!」

「「はぁ!? 部室を没収!?」」


 おい、それ早く言えよ!

 つまり、幼稚園で演劇するか、断って部室を没収されるかの二択じゃないですか……


「まったく……大人ってずるいわよね。選択肢を出された時には、既に選択する余地なんて残されてないんだもの」

「まぁ、選択できるだけまだマシだろ? 世の中には選択肢すら残されてない人間もいるからな……」


 ほら、見ろよ。

 選ばれなかった人間独身の末路があれだよ。



「さぁ、喜べ! 今年のクリスマスは先生と一緒だぞ♪」



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