第13話「言葉」



 黒川の家からの帰り道、何故か俺は黒川と一緒に帰り道を歩いていた。



「…………」

「むっすぅ~!」


 うん、分かっているけどさっきから黒川の機嫌が悪い。

 直接『むっすぅ~!』とか口に出して言っちゃうくらいには超悪いご様子だ。


 そもそも、黒川の家の帰りなのに何で横に黒川がいるのかというと――、




『じゃあ、妹さんも帰ってきたみたいだし、俺はこれで帰るよ』

『え、もう帰っちゃうんですか! お姉ちゃん、途中まででもいいから送っていかないと!』

『え!? そ、そう……よね?』

『いや、別に送ってもらわなくても道は覚えてるんだけど……』

『そんなのダメです! それじゃあ、お姉ちゃんと仲直り――ゲフンゲフン! じゃなくて、もう日も暮れてますし、こんな時間に男の子を一人で帰すなんて危険ですよ!』

『いや、それを言うなら女子の黒川の方が危険では……』

『いいから! とにかく、お姉ちゃんも送る準備して!』




 ――というわけで途中まで黒川に送ってもらっている次第である。

 てか、女子に夜道を送ってもらう男子高校生って……


「もう、ここら辺でいいから……」

「そ、そう……」


 結局、何も喋れないままここまで来てしまったな。

 いや、別に黒川の機嫌を取ろうと会話しようとしたわけじゃないけど……。



『た、ただのクラスメイトだよ……』



 そもそも、あんなことを言った俺が今さら何を言えばいいのかと……


「じゃあ、俺はここで――」


 そう思い。そのまま帰ろうとすると、黒川が俺に声をかけてきた。


「ねぇ、貴方にとって私は何なのかしら?」


 それは、ついさっき……黒川の家でされた質問と同じものだった。

 何で同じ質問を……

もしかして、妹の前であんな風に答えた俺への嫌がらせだろうか?


 それとも、ここで違う『言葉答え』を言えば彼女黒川は機嫌を直してくれるのだろうか?


「……ただのクラスメイトだよ」

「そう……」


 だとしても、俺の言葉返事は変わらない。

 こんなので『友達』になっても、それは『同情』と変わらないし……


 なにより『友達』という関係に依存しているだけだ。


「貴方は友達が欲しいとは思わないの?」

「……思わないね」

「なら、何で……」


 そういう黒川の表情は『何で家に来たの?』とでも言いたそうに俺は見えた。

 確かに、俺は彼女が『友達』を欲しがっていることを知っている。

 そして、その『友達』という関係を俺に期待していることも――


「わ、私は……友達が欲しいのよ!」


 それが、どこかの婚活教師が仕組んだこととはいえ、突然現れた転校生が同じクラスメイトで、同じ部活に入部してきたわけだ。


「だから、貴方が良かったら……」


 それは、今まで友達を作る『きっかけ』が無かった黒川にとっては期待しても仕方のないことなのだろう。



「私と……と、友達に……っ!」



 そういって、黒川は震える言葉を胸に抑えながら、俺に向かって手を差し出してきた。

 まるで、この手を取って欲しいと言うように――


「…………」


 川口先生は言っていた。


黒川の状況は『自分から友達を作ろうと』しないから、周りが手を差し伸べない『だけ』だと……


 だけど、その黒川が自分から動いて俺に手を伸ばしている。


 多分、この手を取れば……意外と楽しい高校生活を今年は過ごせるのかもしれない。


「黒川」

「…………」


 ――って、まるで青春ラブコメのワンシーンみたいだな……

 だとしても――



「俺達はただのクラスメイトだ」



 俺の青春に友達はいらない。




「そう……」


 結局……最後まで俺は黒川の期待に応えることはできなかったわけだ。

 そんな俺が黒川の友達になる資格なんてない。


 そして、俺はそのまま黒川に背を向けて――


「あ、安藤くん!」


 ――と思ったら、背中を向けた瞬間に呼び止められた。


 てか、黒川に苗字を呼ばれるのってあまり無いからか、急に呼ばれるとビックリするな。

 そして、黒川は恥ずかしそうに大きな声でその言葉を言った。


「ま、また明日……っ!」 


 そういう黒川の表情は、まるで『まだ、私は諦めてないから!』とでも言いたげな風に見えて、何故か俺はそれに少し笑みを浮かべながら返事をしてしまった。


「あ、あぁ……」


 確かに、俺と黒川は友達じゃない。

 だけど――


「……また明日」


 まぁ、挨拶くらいなら……クラスメイトでもするよな?




【一章】クラスメイト 終




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【今回の作業アーカイブ】

https://www.youtube.com/watch?v=XHpDkZKrwak


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