拝啓 私の正体様
第14話 魔導士のでっち
" ミゾラ治療院 " には待つ患者が居なかった。外観は古びた木造で、待合室は簡素で無駄の無い造り。棚や長椅子に植木鉢に入った香草の他には何も無い。診察室に繋がるドアが見えて、その側にはカウンター。中にはあどけない少年に見える、年より若く見られがちな若者が座って待ち構えていた。
若者が目を丸くして入って来たサロンを見る。
「どうされましたか。今は診察をしてなくて、ご予約の方のお薬の処方しかして無いんです」若者は金髪で刈り上げていて、他の丁稚と違わず前髪から真っ直ぐ切り揃えていた。顔はきめ細かく白い肌をしてはいたが鼻の近くにそばかすがある。
「いや、診察では無いのだが。その、
「魔導士。あいにく先生は今出掛けておられて私だけなのでございます」その若者は丁寧に答えた。
「そうか。いつ戻られるだろうか」
「そうですね。いやここ数日泊まり掛けで出られているものですから。いつ帰るかが分かりません」青年は頭をかいた。
「そうか……」サロンは俯いてその場を立ち去ろうかと踵を返した。
「困ってらっしゃるので?お急ぎなのですか?」
「急いでいると言えば急いではいるのだが」サロンはドアに手を当てた。
「よければ私が見ましょうか?魔導については勉強中です。
サロンは真剣な面持ちで青年に振り向き、カウンターに詰め寄った。その圧力に圧倒されて青年はたじろぐ。
「本当か?お礼はする。これを」サロンはポケットから金貨を3枚取り出してカウンターに置いた。
「そんなもの受け取れませんよ。いえ、私も興味というか勉強の為で。先生が居ないので暇で」青年は金貨をこちらに押し返した。
「是非頼むよ」
「は、はい。では詳しいお話を。こちらへ」
サロンが通された診療室はまた対面の椅子に簡易ベッドがあるだけの簡素な部屋だった。入るや否やサロンは上半身の服を脱ぎ出したので、青年は後退りして慌て出した。
「あ、あの……」
「サロンだ。ここだ。ここに刻まれているのだ」サロンはゴザイの布をも剥いで背中を向けて椅子に座る。
「これは……。体に」
「何だ。何か分かるか」
青年は人に刻まれた
青年はしばらく見つめた。断片的に分かるのは、それはかなり高度な魔導が込められている事だ。そして次に気付く事は、そこには2種類の魔導が刻まれている事だ。
すると見えてきた。何か強大な魔導を封じ込める為に、それを囲んで違うクーンが描かれている。それは直ぐに解読出来るかも知れない。
「ちょっと待っていて下さい」青年が部屋から出て行く音がした。サロンは上半身裸のまま待つ。結構な時間がしてまた戻る音がした。
「えっと、ここまでは同じだから……」
パラパラ書物をめくる音がした。
「何か?」
「2種類の
「2種類……封じる……」
「封じるためのものは、その魔導を使えば記憶を抹消してしまうという厄介で残忍なものですね」
「やはりか。しかし2種類とは」
「はい」
「それは呪いに近いのでは」
「これもスペルです」
「そのせいで……」
「発動しましたか?」
「したと思う。いやした。10日くらいから前の記憶が無いから」
「それはそれは」青年は額の汗を拭った。
「記憶を戻す方法はあるのか」
「いえ。聞いた事がありません。自分の脳に残っていて戻る事が無ければ。外からは……」
「そうか……」
「なんかすみません」
「いやいや謝る事はないよ」
「もう一つの方も書き写させてもらえませんか。徹夜で調べてみたい」
「構わないが、大丈夫か?」
「最近寝過ぎで」青年はカラカラ笑った。「また明日の朝でも昼でも来て下さい」
サロンは服を着て、診療所を出た。
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