7. 隠れ家、不要二振


 表通りを折れて回って潜って登って、そのまた裏の裏へ。

 いくつもの見えない視線を感じる路地を延々抜けて、たどりついたのは二階建てのそこそこ大きな宿屋。その半分は落雷か失火か、無残に焼け崩れている。ずいぶん前にそうなったままずっと放置されていたらしい。


「アタシの家よ、昔のね」


 一階の、まだ天井が無事な酒場部分の隅っこへボロボロの敷き布をひっぱりながらエレベアは応じた。入り口をくぐってからずっと送られ続けている物問いたげな視線に向けて。


「えと、御両親は」

「親なんて言い方はやめて」


 つい飛び出した冷えた声にびくりとするシャラ。

 むすっとしたままエレベアはそれに背を向け壁の高い戸棚を背伸びしてのぞきこむ。


「夫婦で泥棒宿をやってたわ。身寄りのない子供をあつめて、宿賃がわりに市場の品を盗んでこさせてた。おんなが病気で死んで、おとこは酒浸りになって下手な仕事をして捕まった。今はどうなったか、知りたくもないけど」

「じゃあ、その、エレベアさんも……?」

「その辺のネズミと変わらない扱いだったわ。邪魔にされて、機嫌の悪いときは踏みつけられて。仕事で親子のフリをするときだけ、ばかに優しかった」


 クモの巣とほこりにまみれた紙包みを摘まみだしては解いていく。中身は汚れて穴の空いたゴブレットがひとつ。


「おばあ様に拾われて養子になってやっと理解した。あぁ、アタシたち父子ふたりはこの間柄を偽装してたんだって。いつもこうなら良いと思ってたニセモノの関係が、本当の本当にあるんだって」


 じくりと胸元に負った火傷がうずいた。喉がひりつくほど乾いている。


「おばあ様と樹生新杖流ユーピトン・バウはアタシの全てよ。それを奪ったお義兄さまも、裏切ったテオドシアも許せない」

「エレベアさん」


 急に背後すぐ間近から声がして振りかえる。


「っは? だからアンタ足音――もふっ」

「はい?」


 エレベアの頭を抱きかかえて小首をかしげるシャラ。その巻き布からは新しい砂ぼこりと古く奥深い香水の匂いがした。


「……アンタ、本当は暗殺者かなんかじゃないでしょうね?」

「えぇっ、まさかぁ」

「ふん、で、何のつもり?」


 きょとんとしたその顔を睨む。下から見ると鼻梁はなが高すぎずますます好みだった。


ねえさま方がよくこうしてくれたんです」


 ぷるぷる震えるその足元を見ればわずかにかかとを浮かせている。


「寝る前に母がよく昔話をしてくれました。神様や、遠い異国の話。とっても長いお話で、一晩では語り切れなくて。わたしが寝る時間になっても続きをせがんでいると、仕事を終えて戻ってきた姐さま方がこうやって抱いてくれて。そしたらすぐ眠たくなっちゃうんです」


 さすさすと遠慮がちに後頭部がなぜられる。妙に大人ぶった声色が癪にさわって弾くように首を振った。


「アタシが浮き足立ってるっていいたいわけ?」

「いいえ。でも、今夜はこれ以上戦いますか?」


 その穏やかな眼差まなざしと声にさとされてやるつもりは毛頭ないが。

 全身を魔法化する負荷はかなり大きい。多人数合体となればもはや精神的な身投げに近く、意思の統一がはかれなければ混濁して自壊する。あとに残るのは主が行方不明になった肉体だけだ。テオドシアたちの魔法はおそろしく統制が取れていたのでそんな惨事にはなっていないだろうが、それでも今日はもう追っては来ないだろう。


「アンタが暗殺者じゃないなら」


 言いながらもまぶたがどんどんと重くなってくる。なぜ、どうしてこんなにも心地がいいのだろう。ただ腕に抱かれているだけなのに。


「わたしはただ、一人にされたくないだけですよ」


 何かを忘れている気がする。そうだ、彼女が狙われる理由だ。それが分からないとまるで安心できない。できない、のだが。あぁそうか。


「お、どり」

「……」


 ぼぅ、と華奢きゃしゃな首へおでこをもたせる。肌からは大昔にどこかで嗅いだ匂いがした。



 ――――。

 暗闇くらやみ警鐘けいしょう

 頭のなかで鳴らされたそれに呼応してエレベアは跳ね起きる。

 がいんっと額が何かを痛打した。


「あいったあ!? なんて寝相してるんですかぁっ」

「んぁ、えぇ、んっ、ここどこっ、時間は、アンタ誰!?」

「ひどくないです!?」


 なんて不覚。こんな状況で寝転ねこけてしまうなんて。

 質問かどうかもあいまいな言葉を矢継ぎ早に発しつつ、目を走らせ現状を思い出す。破れ果てた宿の壁の外に危険な――静かすぎる――気配を感じた。


「さっき寝たばっかじゃないですかぁ、いっつぅ」


 首もとを押さえたシャラは言う。さっきがどの程度か不明だが、寝る前と体勢が変わっていないところを見るとほんのわずかな間だろう。それでここまで接近を許すとは。


「部屋の隅のよく見える位置にいなさい。隠れるとかえって危ないわ」

「え、え?」


 直後、酒場の壁が爆散した。

 大量の土砂がつぶてとなって襲い掛かる。


『――!』


 曲げた両肘へクラブを渡したエレベアは叫んでいた。

 ふたつの小さなつむじ風が防壁となって砂礫されきを散らす。土砂は虫の大群のように飛び散って集まるとやがて人の形を取り戻した。


「お邪魔やったかね?」

「テオドシア……!」


 長魔杖ポール・バウをたずさえた偉丈婦いじょうふがからかうように訊ねてくる。エレベアは奥歯を強くかんだ。


「まさか一人でノコノコ現れるとはね」

「部下ば休ませてやらんなね。おひいさまひとり、あてで充分じゃっど」


 あのときテオドシアだけは変化を両腕にとどめていた。消耗はわずかだろうがよもや単身乗り込んでくるとは。


「叩きのめすついでじゃ。技のくらいば見せてもらうど、おひいさま」

「ちょうどよかったわ。もうアナタ相手じゃ稽古にならないって証明しておきたかったの」


 消耗はある、が瞬きほどの睡眠でも自分をダマせるくらいには回復した。

 弱みを見せず即座に返す。


「ふんふん、そいは楽しみじゃっど」


 テオドシアは長魔杖ポール・バウを悠然と両手で持ち上げるように構える。先端はエレベアの眉間を指した。対してエレベアはクラブの頭を五指で包む。


「いざぁ!」


 長魔杖相手のトスは至難しなんだ。半端に投げ入れると払われる。すきをつこうにも長杖にはを用いた反転打ちがある。ゆえに間合いギリギリへ落とすコントロール、加えて。


「ぃやあーッ!」

「……」


 気声とともに踏み込んだエレベアにもテオドシアは微動だにしない。わずかに正対せいたいを維持するため切っ先を動かしただけだ。


「どした、隙ば無かか?」

「っく」


 間合いの長い相手に対してはず攻めさせ、回避即反撃をおこなうのが常道。しかしテオドシアもそれを分かっているから容易には攻めてこない。さらに間合いの内側に充溢じゅういつした厳しさといったら過去の稽古の比ではなかった。


「来んならこっちから行っど」


 長大な杖が目前の地面へと突き立つ。まるで棒跳びのごとくテオドシアはそれに乗りあがった。


 ――俗に〝長魔杖ポール・バウ二振ふたふり要らず〟という。

 ひとたび攻めへと転じれば一撃にて決するべしという気構えを説いた言葉である以上に、その爆発的な威力をおそれてうたわれる――


『――


 地面と水平に浮かんだテオドシアの身体が大きく足を開く。スリットの入ったローブの内側があらわになるより先に、両足が巨大な獣のあぎとに変じた。

 退がれば頭から喰われる。短魔杖士クラブスロワーの自在がそのトスとキャッチにあるとすれば、長魔杖士ポールジャンパーの自在は立てた杖の傾斜けいしゃにある。達人ともなればほぼ水平から垂直までボディバランスだけで操作可能だ。


「上等!」


 迫る怪物の牙群をエレベアは地面に張りつくほど前傾してかわした。その後ろ脚だけが高くあがっている。

 犬の頭をくぐり抜け横面へ。ちょうどそこへ図ったように、足でトスしたクラブの一本が落下した。


『――Χ!』


 かつて魔法が戦いに用いられたばかりのころ。

 長大な魔杖と、それに見合う体脈ナディに恵まれた大兵が他を圧倒した時代があった。イステラーハ以前、あらゆる杖流の根幹こんかんはその否定にあったと言っていい。すなわち小よく大を制し、短よく長を断つ。


「うむ! 樹生新杖流、右投左旋みごと!」


 熱柱に目を焼かれた犬頭がその顎を外れるほどに開く。白濁した眼がこちらを睨んだ気がした。


『――!』

「なっ……」


 上下の歯列が今度は太い馬脚ばきゃくへ変化する。かすれば頭がなくなるような横蹴りを床へ倒れて回避した。


「ほれ、そら、どうだ! うっぷ!」


 三度の踏み付けを転がって避けたあたりでテオドシアがえずいて立ち止まった。当り前だ。


「馬っっっ鹿じゃない、命が惜しくないわけ!?」

「クハハ、なに、初めからそうしようて思うちょればこんくらいは出来っもんでな」


 取り出した酒瓶をガブッとあおると、覆われていた凄みのある美貌があらわになる。エレベアは早くも喉の渇きを思い出していた。

 水は魔法に重要だ。使うとひどく渇く。自分用の水筒はイステラーハが幽閉された塔へと侵入した際に空になってしまっていた。

 

「おはんるかえ」


 脚を元へ戻しながらテオドシアが瓶をかかげて見せる。彼女の性情からして罠とも思えない。ようはナメられている。


「……そうね、いただこうかしら」

「よか。こっち来ぇ」


 うなずいてエレベアは歩み寄った。後ろ手にまとめもったクラブをΧの紋様に。詠唱は間合いのたっぷり二歩内側で。


「死ねッ!」

「クハッ、粗忽者ガンタレがあっ!」


 テオドシアは足元に立てたポールをいつの間にか交差した足首で挟むように踏み越えている。すなわち

 突きこまれる炎をのけぞってかわしざま、蹴り上げられる砂の爪先。樹生新杖流・月影。その破調くずし


「ぅぐう!」

「エレベアさん!」


 体積分の砂に変じた蹴りをみぞおちへ叩き込まれ、もんどりうって転がった。


(素直に飲んどきゃよかった……!)


 テオドシアは呪文を唱えていない。杖と体脈で形を作り、口で唱え耳で聞いて自己を変容させるのが魔法の手順だが、自己イメージさえ変えられるなら中の二つはなくてもいい。ただどうあっても威力の半減は避けられない。


「相変わらず性根しょうねばひん曲がっちょっな、そいで道統どうとうば継ぐつもりとは片腹かたはら痛か」


 だがテオドシアの無詠唱魔法はエレベアの一節魔法なみの威力があった。基礎となる杖と体脈の長さの違いだ。


「げほっ……えぇまったく、アンタら他の弟子が不甲斐ふがいないせいでね」


 喉奥に苦いものを感じながらもエレベアは立ち上がる。


「取るに足らない連中だと思ってたけどほとほと愛想が尽きたわ! 恩師の身ひとつ守れずになにが門弟よ、なにが一番弟子よ!」


 自分さえ出国せず残っていたら、と思う。けしてイステラーハにあんな恥辱を味わわせることはなかっただろうにと。

 テオドシアは痛みをこらえるようにかすかに目を細めた。


「……否定はせん。じゃっどん王命にそむっとは国の全てを捨つると同じこと。おはんとて例外じゃなかぞ」

「言い訳無用――ぅ、く」

「っ、エレベアさん、フラフラじゃないですか、もうやめてください!」


 膝をつきかけたところを後ろからシャラに支えられる。なんで出てきた、と責める余裕ももはやなかった。


「わたしが戻ります! それで許してくださいませんか?」


 前に回った彼女の提案にテオドシアは一旦杖を下ろす。


「ほう、そいは賢明けんめいな事。シャラお嬢様さえ戻られればジダール様も納得されよう」

「どういうことよ、アンタらなんでこの子を欲しがってるわけ?」

 

 かねてよりの疑問。ジダールが目の色を変えテオドシアをも認める〝踊り〟とは何なのか。


「……かつて樹生新杖流には失われたわざがあってな」


 言葉を選ぶように口布越しの声が低まる。


「先代より、御師さまが学ぶことのできんかった身ごなしの秘事。それは後宮ハレムに伝わったと言われちょる」

「はあ? なんで後宮に? それにそんな大事なこと、どうしてアタシが知らされてないのよ?」


 今の今までイステラーハからはすべてを教わったと思っていた。


「杖流ん威信いしんに係わっことじゃっで。それに伝えてん仕方んなかことじゃと思われたんじゃろう」

「シャラ、アナタは知っていたの」


 ふるふる、と首を振る気配。


「わたしはただ、踊りを習っただけです。隠された意味があったとしてもわたしには分かりません。でも決してみだりに披露しないように、と母に言われました。たとえ愛する人であっても、と」

「……何よそれ」


 知らないことなど、伝えられていないことなどもはやないと思っていた。自分はイステラーハの全てを受け継ぐのだと、そう信じてきたのに。

 飼い犬、と言ったハイサムの顔を思い出す。哀れむような、侮蔑するような表情。

 かっと頭に血がのぼった。


「アタシはあの人の後継ぎよ!?」

「おはんの才能は天与のもの。じゃっどんそれも大魔女イステラーハに及ぶもんじゃなか。そん点あてらとおはんに差は無かし、ましておごって他人ひとば見下すなどもってのほか」

「今さらそんなお説教――!」


 立ち上がりかけたエレベアをシャラが背中で押しとどめた。テオドシアが上げかけた杖を再び床へつく。


「落ち着いてくださいエレベアさん」

「イヤよ、どきなさい。邪魔」

「ぉおっお尻を掴まないでくださいぃ」


 中腰になって手のひらから逃れると、するりと後背のエレベアの首へ手を回す。ぬるりと、寄せられた頬を流れる汗の冷たさにエレベアは急に頭が醒めるのを感じた。


「……この踊りがどういうものかわたしには分かりません。でも、それほど大切なことなら――」


 ――わたしはすでに一度それを見せています

と。


「っ、ぁ」


 洩れかけた声をぎりぎり喉でせき止めた。記憶がまばたきの間によみがえり、その骨子こっしが自分の中の技と重なり合う。ふたつの間にある差異の意味が幾通いくとおりも仮定され、もっともそれを掴みだす。


「そういうこと」

「すごい、あれだけで何か分かるんですか?」

天才アタシだもの。でもいいの、それはアナタの切札とっておきでしょう? アタシに知れたと分かったら価値が下がるわよ」


 奥義だなんだというものは知る者が少ないほど価値がある。

 まさか本気でクサいからとジダールを見限みかぎったとは思っていなかった。


「……バレてました、やっぱり?」

「そりゃね。自分の価値をつりあげようとするなら一旦アタシについてくるのは悪くないと思うけれど」

「いいんです、あれはほんの触りですし、それに」


 褐色の指先が首から耳、髪の毛へとのばされる。


「エレベアさんってなんだか妹みたいで放っとけなあいたたたっ!」

生意気ふぁまいひ


 噛みついた二の腕をぺっと吐き出すと前に出る。やっぱり頭の軽い女だ。

 唇をなめると塩の味がした。いよいよもって喉が渇く。


「もういいわ、とっとと終わらせましょ」

「ようやくか、待ちわびたわ」


 くつくつと笑うテオドシアは健在そのもの。その長大なリーチと火力を攻略せずして勝ちはない。


 ――大魔法に理無りなし、とかつてイステラーハは言った。いかな火力や射程が相手でも一対のクラブと一節分の詠唱時間さえあれば対処可能であるゆえに、と――


(確かに、おばあ様には敵わないって思ってたけどそうでもないみたい)


 知らないこと、伸びる余地が自分にはある。なら期待も信頼もすべて実力でもぎとるまでのこと。


「正面から行くわ、受けられるなら受けてみなさい」

「面白かァッ!」


 クラブをトスし踏み込む。短魔杖の基本、半身はんみ

 着地点は間合いの境をゆうに越えている。トスを打ち払いに動きかけたテオドシアの目が見開かれる。

 寸前、エレベアは手にした二本目の杖を腕へ小転トワルさせていた。同時、詠唱。


『――Χ!』


 腕と杖の交わる部分が揺らぎ、燃え立つ。骨肉と樹皮が別の概念を形象かたどり変容をはじめる。


「甘か!」


 トスをおとりとして、払いと反転打ちの隙間にねじ込むまれるであろう捨て身の魔法。

 テオドシアはそれに乗らなかった。高く両手で掲げた杖を即座に突き立てる。


『――!』


 水月すいげつの位、と流儀にはある。テオドシアの構えは杖を掲げた両腕がすでにの紋様を描いている。特段に火に強い型だ。


(だけど逆にいえば、長尺の杖は間に合わない)


 瞬間、エレベアは落ちてきた一本目のクラブヘッドをいまだ変化の最中にある手で受け取っていた。頭を固定されたクラブは尾で弧を描き、燃え立つ腕上の杖に下からぶつかって止まる。


『――!』

「な、に!?」


 あらかじめ結んだ連続変化のイメージが、正しい力の紋様をえて具現化する。

 Χからへ。腕の中ほどに生まれた熱が吹き消され暴風へと生まれ変わっていく。

 イメージは撹拌かくはん。炎を包むため均一に広がったテオドシアの水の両腕ではでたらめな巻き上げと飛散に耐えられない。


「遅いのよッ!」


 自ら四方八方へ逃れようとする水を撥ね散らしながら、旋風の一撃がテオドシアの腹部へとはしった。


「くはっ!」


 両腕をうしなったままバランスを崩し彼女は転倒する。めくれあがった覆面の下の唇がかすかに笑みに歪んだ。


天樹精てんじゅしょう奥伝おくでん、逆手陰陽、みご、と……!」


 どうと大の字に昏倒する。さすがにしばらくは起き上がれないだろう。

 棚から見つけた荒縄で両足を巻き縛る。


「っぷぅ、生き返るわ」


 テオドシアの酒瓶に残った水をカラにしてエレベアはようやくひと心地着いた。それが最後の一押しで、猛烈な疲れが襲ってくる。


「死ぬ」

「え」


 フラフラと敷いた布まで歩いてあとは突っ伏しただけだった。

 これほど全力で魔法を使ったのは久しぶりな気がする。それも生きるか死ぬかの状況で。


「……服が必要ね、食料も……アンタもてきとうにねなさい……」


 ふにゃふにゃする舌を動かして言うと、一応敷き布の端を開けるように体を横にする。寝入るまでそうして不要そうならスペースを潰そうと思っていたら、思いのほかいそいそとデカくてジャマな体が入ってきた。


(遠慮のないヤツ)


 やはりどうにも末っ子気質というか、与えられて当然と思っているフシがあると夢うつつにあげつらって、寝床代ねどこだいとばかりにその腹に背中をうずめた。


(ぬくい)


 ふつりと意識が切れる。古びて腐りかけた床の感触もさして気にならなかった。


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