2020/12/26 JKとL点

お題:【ラグランジュポイント】をテーマにした小説を1時間で完成させる


 単位を落とすと春休みが補修期間になってしまう、となおに助けを請われ空き教室を使って彼女の勉強に付き合うことになった。

清子せいこぉ、私はもうダメだよ……。私の死を乗り越えて達者に生きるんだよ」

 机に項垂れては時折中断する順の学習は芳しくない。


「春休み、スキー旅行行こうねって、私言ったよね」

「でもでも。宇洞うどうがアタシの前に立ちはだかるんだよ」

 天体力学概論の宇洞先生は大変厳しい先生だが、やることさえ抑えておけば何も問題はなかった。彼女が学習を疎かにしたことは明白ではないだろうか。

「ほとんど自業自得なのでは?」

「ああ! そういう物の言い方は良くないよ。なんでも自業自得、自己責任だなんて、清子ちゃん、アタシ傷ついたよ。謝ってよー」

 順が要求する謝罪は無視するとして。

「ラグランジュポイントねえ」

 天体と天体の重力の釣り合いが取れる位置をラグランジュポイント、L点とも呼ばれる。

「まあでも、確かに試験時間内にには難問だよね」

 天体力学概論の宇洞は、講義中に試験に出題すると予告していた。

「そうだよ。そもそも花の女子高生がこんな問題に頭を抱えなくてもいいじゃないの。なんなの、L点って。JKが気にすべきなのは赤点だけじゃないの?」

「でも頑張らないと、スキーはお預けだよ。私、順のために待つのは中止はゴメンだからね」

「そうだよ! 今の私にはL点より先のK点越えが待ってるんだから」

 アルファベットではKはLよりも前だがな。


「順はさぁ、物理苦手でしょ? ラグランジュポイントより先に他の簡単な問題に取りかかった方が良くない?」

「大丈夫だよ。宇洞もそんなに鬼じゃないよ。説明できる文章問題にしてくれるって。記述欄にL点って書いてもオマケつくでしょ」

 希望的観測が過ぎる。この順の態度を前に、私としては悲観的にならざるを得ない。

「鈴木くんとのスキー旅行なんて、もうチャンスないし、私は頑張るよ!」

 スキー旅行には私と順の他に、付き合いのあるグループ数名の男女、順の意中の相手である鈴木が参加することになっている。

 順がこういう事態になることも予想していたから、鈴木を誘ったのだ。

 ……なお、私も鈴木を好きであることは関係ないものとする。

「でも、鈴木くん彼女いるんだよね」

 順は溜息を一つ漏らす。

 …………え、マジ。

「…………え、マジ!?!?」

「そうだよ。知らなかったの?」

 首をフルフルと振る。

「そうだよね。清子も、鈴木くんのこと好きだもんね。鈴木くんを中央の天体に見たてれば、私たち3人がラグランジュポイントになって均衡を保てるよ」

「何を訳の分からないことを。鈴木と付き合っている既成事実カノジョを無視するな。現実直視できてねーでないの」

「紅一点の逆ヴァージョンだよね。紅白歌合戦なら白一点だよ」

 意味のない順のジョークはさておいて。

「でもいいのか? 彼女のいる男に手ぇ出すことになるよ」

「大丈夫だよ。アタシ、奪う方が好きだから。それに振られても、それは進展だと思えるし」

 正直、私は順のこと馬鹿だと思っていたが、少しだけ見直した。

「そっか。じゃあ試験頑張らないとね」


 だが試験答案の返却日、鈴木くんは答案に名前を書き忘れて0点を返されてしまった。来られない彼のために、告白してもいない、振られてもいない、私と順は半ば汚点を残す形のまま、スキー旅行に出掛ける羽目になった。

「鈴木くんが補修になるなんて盲点だったよ」

 宇洞先生、厳しかったね、順……。

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