警察と探偵

最近の傾向で言うと、あまり「ポンコツ警部」を出してはいけないんでしょうか?

ホンモノのK察から苦情が出版社に来て圧力かかってるとか?――まさか!


私としては、やっぱりどっちかというと「探偵もの」のほうが好きかもしれませんね。

理由は多分単純で、はっきり言って警察というのは元々強い立場にいるからだと思います。その強い立場にいる人間が、「犯罪者」役になるある意味弱さや弱みを抱える人間に対して、捕まえるところまではいいけど、

説教を始めたり自分の正義感をベラベラ語り出したり「警察って正義だよなあ」と自慰的な余韻に浸っていたりするのを見ると気持ち悪いな、って思います。

まあ、極端な話、K察が逮捕した時点で有罪確定ではないですからね。

だから、容疑が固まって逮捕するまでは刑事さんの仕事だけれど、余計な正義感を語ったり説教で「断罪」する行為はアナタの仕事じゃない、って私が感じるのはそんなに特異な感情ではないと思います。

論理を使うにしろ足を使うにしろ、容疑が固まったので逮捕する、刑事さんのお仕事はそれだけでいいんです。そういった自分の職権の範囲を知っている刑事さんこそ、本当の意味で「かっこいい刑事」だと私は思っています。


だから私は同じ商業小説の主役になる刑事でも、もっと弱みを持ってるキャラのほうがずっと好感が持てて好きです。


それと、最近はK察の科学的な技術力が上がって、知りたい情報が何でも手に入ってしまうところも、ちょっと「ずるい」気もします。

組織の力を使って何でもできてしまうところも、ある意味設定としてはチート的なものがあるようにも思います。

つまり、「これで解決できないほうがおかしい!」・・・という事にも下手するとなりかねないと思うのです。

(※実際、明らかに防犯ビデオなどの証拠が残ってるのに「未解決事件」になってるものを見ると、「なんで警察は技術力も組織力もあってこんな程度の事件も解決できへんの!?」なんて思ったりもするわけです。

まあ、実際の捜査では、きっと小説やドラマみたいには上手く行かないところがあるんだと思います。残念ながら、その「リアル」を書いた小説というのはほとんど無いはずだと思います。恐らくは、あまりリアルとは言えない「理想」の警察を書いてる作品が多いのだと思います。もちろん、現実の警部が誤認逮捕やりまくりのポンコツだとも私は思いませんが。)


そういう意味では、最近の推理小説って、ちょっと「ラノベ」化してるのかもしれませんね。チートありで「オレ超つええええーーーーーーーー」的な刑事がレベル99の力使ってザコを狩って水戸黄門的に終了やで、と。

私的には、例えばもっと若い駆け出しの刑事が活躍する話を読みたいなーーーーーーーー。

どうなんですかね。読者層が昭和のおっちゃんやじっちゃんだと、最後は「説教」で終わる作風って結構好きそうですけどね。

私は、そういう水戸光圀的なパターンだと、若い層や女性に読者層を広げていくのって難しいんじゃないかと思いますが。

中年層や高年齢層でも、水戸黄門が好きな人ばかりではありませんし。


同じ探偵ものでも、K察はK察で独自の捜査を続けてかなりいい所まで行くというパターンもあります。他方で探偵側はK察の先を超えたい事情があって、真相に近づいて行く。これは面白いパターンですね。K察をポンコツ描写する必要はないし、探偵が紙一重で勝利する構図なので逆にK察を必要以上に「正義」に仕立てる必要もない。

私だったら、そういうほうが好きかな~。


以前の考察で、単純に笑ってしまう意味での「面白さ」「オチ」について考えてみました。そういった、単純でシンプルな「面白さ」が欲しいと言っている出版社もあるのではないかと。

で、そこで、K事にしろ探偵にしろ、ラストであまり正義感ぶっちゃうと、「面白さ」としてのオチがなくなってしまうようにも思うのです。

嗚呼、確かに正義である事に越した事はありません。でも世の中そういう事ばかりでもないから犯罪もあるわけではないですが。

その中で、K察にしろ探偵にしろ、同じ人間でありながら一歩上の安全な世界に住んでいる気分になるのは良くない事だと思うのです。

そういった「エリート気分」(エリートではなくても)の力で解決できる事件は確かに多くあるでしょうが、それでは解決できない「難事件」を渡しは見てみたい!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

などとも思うのです。

そういう時には天才的な探偵の出番ですよね。


でも、何か最近そういうの減ってるのかなーって。

つまり、「事件としては簡単なもの」(推理小説としての難度は別にして)が増えてるんじゃないかなーって思います。

有力な情報があればあるほど、当然ですが犯人捜しには有利です。

(極端な話、防犯カメラが仕掛けてあって顔写ってたらそれで終わりなんで;;)

逆に、有力な情報が足りないほど、難事件になっていくわけです。

通常の捜査や教科書通りの方法では到底解決できない事件が、事情はどうあれ実際に「未解決事件」としても存在するわけですし。


昔の推理もので、探偵と警部が協力し合うパターンのもので、「いかにも外部の人間による犯行」的な痕跡があって、ある人間がそれを警察よりも先に見つけて自慢気に語るのですが、探偵はいかにも工作だと断定し、警部も「あれならいずれK察の捜査で分かるものだな」と語ります。

この場合、警部の言う事は正しいのです。

言い換えると、推理物としては「その程度の事件であってはいけない」とも言えると思うのです。

K察はポンコツじゃありません。多くの事件を解決する力を持っています。

しかし「通常の捜査では行き詰ってしまう事件」だからこそ、名探偵や、K察でも変わり種の刑事の出番になるわけですよ。

心理捜査官系なんかもそうですよね。通常の捜査では行き詰ってしまうものを別の切り口から攻めて犯人を割り出すところに「面白さ」があるわけで。

そういう「難事件」が減ってません?っていうのはちょっと思いますね。

私は、「K察だけで解決できるなら任せときゃいいんだ」くらいの余裕の探偵が結構好きです。K察だけではちょっとキツいな、と分かった時にこそ事件に挑む。なぜかというと、それが難事件だからです。K察だけで解決できる事件は、ある意味で「事件としては難しくない」部類に入るわけです。それでは解決のしがいがない、などと言うとゲームやないぞという話にもなりますが、エンターテインメント前提の推理小説ではぶっちゃけそれでもよいのではないでしょうか。

出版社としても、厳粛でシリアスを極めたものよりも「面白いもの」をよこせと言っている。


シンプルな発想のパターンの推理小説だと、K察の介入を可能な限り排除して探偵に推理させるパターンがあります。

①孤島とかで単純にK察が来れない・来ない

②K察の捜査は既に終了して「自殺」「事故」判定で片付けられている

③K察が容疑者を逮捕済だが冤罪(現実にあると最悪のパターン)

④K察も捜査を進めたが迷宮入りになったので操作を打ち切った

⑤K察も捜査を進めているが主人公は一般人なので単純に情報を教えてもらえない(まあ、普通はそうですよね;;)

これらの設定をあまりこじつけると「不自然」にもなりかねませんが、

探偵も含めて一般人が捜査に介入する理由としては「自然」なわけですよ。

例えば3番目のパターンで、主人公が容疑者の友人か家族か何かで、「あいつが人殺しのはずがない!」って思い立つ事としては捜査をする立派な理由になるわけです。

4番目のパターンなどは実際の事件でもある話で、例えば被害者の父親が一向に事件が解決しない事に業を煮やして独自に情報を集めたりする事などがあるわけです。(※「正義」や「説教」を振りかざす刑事キャラは、そういった未解決事件も全て解決してみせてから余韻に浸ってほしいと私は思う。それができないなら、御自分の職権の範囲というものをよく考えて欲しい。)


これらのパターンで、仮に「自然」な流れで設定を作ったとしても尚問題があるとすれば何らかの形でK察の悪口を書く事になるという事でしょうか。

仮に、K察の圧力があってそういうものを市場に流せないとすれば、探偵ものよりも刑事ものが優勢で、さらにその刑事は絶対正義で最後は水戸黄門パターンでなければならない事の説明は簡単につきます。

確かに、徒にK察の悪口を書く事が良い事だとは思いません。

また、捜査の技術力が格段に上がってますから、昔だったらヘマこいてたかもしれないところをきっちり逃さない事も増えているでしょう。それで名探偵の活躍の場も縮小気味になるのは致し方ない面もあると思います。

しかし、K察を何が何でも「正義」として描写しないといけないとなると、それはもう窮屈で面白くない世界である事は間違いないでしょう。

仮にそういう制約が実在するなら、私だったらミステリよりもホラーのほうが1000倍面白いと思います。

極端な話、悪に染まった警官を描写してもよいくらいの自由度があってこそ、水戸黄門的にならずにミステリがジャンルとしてホラーを超える面白さを持つように思います。

(日本の警察はどうか知りませんが、海外では警官が買収されてるとかそういう話はたまに聞きますよね。日本のK察の悪口はNGだが海外K察なら批判してもOKでしょうか・・・;じゃあ、例えば海外を舞台にすればOKだな!!!!!)


面白いパターンとして、敢えて江戸時代とかを舞台にしてしまうパターンがあります。あるいは江戸でなくても、鎌倉、室町、明治、大正でもいいですが。

つまり、K察の技術力がまだ発達していない時代を敢えて舞台にしてしまうものですね。(ついでに言うと、町奉行とかを批判しても現代日本のK察組織を批判する事にはなりません!。)そういうもので本格的なものって最近は多くは見ないですが、発想とかは私は好きです。


まあいずれにしても、事件が起きたら基本はK察ですよ。

解決してくれる場合もあるし、無視される場合もあります。

で、小説だと、フィクションですよね。エンターテインメントですよね。

そこら辺は、色々な意味で思考停止するのではなくて考えてみてもよいのかなと。

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