第29話 ホームセンター

 ホームセンターが好きだ。近所のホームセンターの開店時間、朝10時に合わせて散歩に出る。入って真っ先にペットコーナーに寄り売れ残ってやさぐれた感じの動物たちに挨拶をして回るのが日課なのだ。


「おう、ピィちゃん元気か?」

すでにヒナではなくなったセキセイインコのピィちゃんは今日も目つきが悪く愛想もない。こちらを一瞥しただけで餌箱に頭を突っ込んでしまった。


「うさ公、お前も来て9ヶ月目かー」

やはり子うさぎでなくなり、おっさん顔になってしまったミニウサギ。今日も柄が悪そうに草をはんでいる。「ウサギフェア!立派に育ちました」というポップが虚しく飾られているのがまた味わい深くて良い。やってきた当初は2万円だったが、立派に育ったおかげで大特価1万円になっていた。


育つと価値が下がるもんなんだな、自嘲気味に微笑が溢れる。


働くこともできず、こうして日々を消費して生きているだけの、俺の値段はどこまで下がっているのだろう。誰も値札をつけないこの俺を誰か拾ってくれるんだろうか。

いいしれぬ不安を、ピィちゃんやミニウサギに会うことで蓋をしているのだ。救いようのない人間だなあはははは。


(明日もまた来るよ、ちゃんといてくれよな)そう心で呟いて、少し高くなった太陽に照らされながら帰路についた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

言の葉—1話完結超短編集— 霜月穂 @infrareder

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ