第18話:コロンビア買収とCDROMがプレステの救世主

 一方のソニーは、成宮賢のアメリカ映画大手6社の調査資料を検討して、数回の会議を重ねて、1989年9月27日に米国のコロンビア映画を買収した。当時はバブル経済真っ盛り。ジャパンマネーによる名門企業の買収に、米国内で反発もあった。コロンビア映画は1920年設立。


 草創期から米国の映画文化を支えてきた。『アラビアのロレンス』『未知との遭遇』『スタンド・バイ・ミー』など映画史に残る大ヒット作は数えきれない。そんなコロンビア映画を買収したのがソニーで当時は日本経済が世界的に類を見なかったほどの好景気で、絶好調の日本が、金にモノを言わせて文化まで買ったと言われた。


 そして、米国では、強い反発があった。1989年10月に日本に戻った、成宮賢は34歳で課長に昇進して、今後は、ソニーピクチャーズで働いてほしいと言われたが、自分は、デジタル機器の将来に興味を持っているのでソニー本体で仕事を続けたいという事でソニーの営業課長となった。


 買収後はヒット作に恵まれず赤字に転落した時期もあったがソニーは地道に映画作りを支援し1990年代には復活を遂げた。コロンビア映画は現在もソニーグループの一員として米国の映画大手の地位を占めている。1990年に入りソニーに桜木健という風変わりな先輩がいた。


 彼が、デジタルとゲームとエンタテインメントを融合させたものが、近い将来、ヒットすると若手の飲み会の席で発言。その飲み会に成宮賢もソニー社内の友人に誘われて参加した。その時、桜木健も成宮賢が、ソニーがコロンビア映画の買収の調査に行った優秀な男という、ソニー社内でのうわさを聞いて話しかけた。


 まず、桜木が、現在、日本では1983年に発売された任天堂スーパーファミリーコンピューターがゲーム市場を席巻しているが、ソニー技術を使えば、もっとクリエイティブで高次元のゲームコンピューターをつくれると発言。桜木は、デジタル時代の到来を予見しゲームは将来のエンターテイメントの中心になると成宮賢に語った。


 どう思うと聞かれた成宮賢は、技術的には、確かに可能かもしれないが、自分には、ゲームそのものについての知識が少なくて、うまくイメージできないと言った。どうだ、これとプロジェクトに参加しないかと誘われた。それに対して、そのプロジェクトは、ソニー社内で通過した話なんですかと聞いた。


 すると、いや、まだ、これから交渉開始だと笑いながら言った。それから、数週間後、1991年が明けて3月、突然、桜木から成宮賢に電話がかかってきた。これはまだ内密な話だがと前置きして今後、ソニーの総力を結集して最高のゲームマシンを作るためにスーパーファミコンの周辺機器としてソニー製のCD-ROMアダプタを採用するという確約を取り付けたという情報を話した。


 ただし、これは、まだ企業秘密なので絶対に漏らすなと言明された。了解しましたと答え、電話を切った。しかし、1991年6月、任天堂はソニーとの契約を突然破棄し、「スーパーファミコンのCD-ROMアダプタはフィリップスから発売される」という発表を行った。この任天堂の突然の裏切りは、CD-ROMのライセンス料を全てソニー側が得る契約だった。


 最初からCD-ROMを採用する気は何く、ライバル・ソニーへの牽制のためのハッタリだと判明した。この任天堂の行動に、桜木氏は激高し、自分達だけでゲーム業界に参入する決意を固めた。しかし、ソニーの経営会議では、役員全員がゲーム業界参入を諦める方針を打ち出していました。


「ソニーが負けていい相手は、悔しいけど松下だけ」

「任天堂などという京都の花札屋に万が一負けたらどうするんだ!」というつまらないプライドがあったようです。桜木は、成宮賢が、以前、大賀社長からアメリカの映画会社を調査せよと命じられて事を調べ上げていた。


 大賀社長に、プレイ・ステーション開発を許可してもらうために成宮賢を同行させて2人の必死の説得により大賀社長は任天堂と縁を切った後もプレイステーションの開発は継続された。そして、プレイステーションの特徴の一つが、ソフトをCD-ROMで提供していたことであった。


 当時のゲーム市場を制覇していたスーパーファミコンのソフトは、製造費用が高いROMカセット。そのため、1本1万円を超えるソフトも珍しくない。これに対し、CD-ROMは製造費用が格段に安く抑えられプレイステーションソフトは1本5800円程度で販売できた。価格の安さは、ユーザーにとって非常に魅力的だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る