フットサル――同示ヶ丘ハーフタイム
「惜しかったよねッ、最後のシュート。うーん、あの子達も凄いなぁ」
ハーフタイム休息となるといなや両拳を前に振って興奮気味な夏河だ。
「落ち着けよ、今は休んどけって、短い時間だけどあんた全力で走りまくってるからあーしより絶対疲れてんだろ?」
その様子に、呆れながら隣の寺島がベンチへと座らせる。夏河は少し息を整えながら、手うちわで自分に風を送る鮫倉の息を切らしてない様子に大きな眼をパチクリとさせて見上げる。
「でも、うるかっちょの方がもっと全力で走ってたのに息全然あがって無いんだもんなぁ、なんかコツとかあるの?」
言われた鮫倉はギロとした鋭い眼で笑顔な夏河を見下ろすと、間を置いて、小さくゆっくりと口を開いた。
「走り込み、いっぱいやってるだけ」
「えー、わたしも部活で同じくらい走ってるし、自主練でも走ってるけどなぁ。うるかっちょは自主練でどのくらい走ってるの?」
「別に、普通に走ってるの。たいしたことしてない、ん、普通」
「えー、普通の基準がわからな――」
「――ほらイチジョウさん。質問ばかりだとあなたも鮫倉さんも喋り疲れちゃうでしょ?」
そういって同じく息を切らして無い雨宮が話を中断させる。それを見て夏河は口を尖らせつつ雨宮にも懲りずに質問した。
「はーいリア先生。先生も息が上がって無いですけど、やっぱりコツはあるんですか」
「はぁ、先生になったつもりは無いけど、イチジョウさんも普段はちゃんと宮崎コ――監督や先輩方に教わったとおりにやってるじゃない。コツもなにも無いわね」
「えぇ、じゃあこの息が上がった状態はいったい……」
「それは単純に試合が楽しすぎてターボエンジン全開状態でペース配分考えずに走り回ってるからじゃないかしら?」
「な、なんだってッ」
雨宮に至極真面目な顔で返答を返されてオーバーリアクションで頭を抱えた。
「こらこらおまえら、時間短いんだからちゃんと休んどけよ?」
後輩達の様子に口端を緩く上げながら多来沢が商店街が用意してくれたドリンクを一本ずつ渡してくれた。
「あ、ありがとうございます多来沢先輩ッ」
渡されたドリンクに寺島が感激な声を漏らす。多来沢は片手を軽く上げてからドリンクで喉を少し潤す。その姿に、寺島は頬を上気させたあまり同級生内では見たことのない顔をみせる。夏河はその様子を眺めながら、雨宮にコショコショと耳打ちをする。
「ねぇリア、てらっちのご様子は、薄々と感づいてはいたんだけど、もしかして」
「もしかしなくても普通に多来沢先輩に憧れてるんでしょ?」
「ほうほうやはりやはり、リアでいう赤木キャップさんだね」
「ちょっとアタシはキャプテンにたいしてあんな顔しないわよッ。武田先輩にたいするあなたじゃあるまいし」
「えー、わたし武田センパイししょーにああいう顔してるの? いやぁまいっちゃったなこれは」
「いや、そんな嬉しそうな顔しても反応に困るわよ」
どうもまた夏河を中心にして周りを巻きこんでおしゃべりに興じそうな一年生達を眺めながら、多来沢は前半の試合をキーパーの視点から振り返ってみる。
夏河は常に全力で失敗を恐れないストイックな精神で果敢に攻めていってくれる。アラが目立つが、今回はこのアラが相手に夏河のプレイスタイルを勘違いさせる事にもなり結果オーライだ。寺島も目立つプレイではないが堅実なアシストとシュートチャンスをものにしようとする豪胆さはチームにプラスと働くはずだ。雨宮は言わずもがなな働きだ、ミッドフィルダーとしての実力は疑うべくもないが、ディフェンダーとしても高レベルなプレイングだ。恐らく磨けば攻守バランスの取れたボランチとしての才能も開花するだろうが、雨宮は中盤に生きる選手だというのは、肌で感じられる。あの相手の読みを崩し、後ろから飛び込んできた鮫倉に瞬時にアシストを送るテクニックは見ていて惚れ惚れとしてしまう。もしもキーパーで無かったならあそこに自分も飛び込んでいきたかったと多来沢は思えてしまった。流石は宮崎監督の秘蔵っ子であり、西実館の
そして、鮫倉だ。一年生ながら
試合中の鮫倉は口数は無いがボールへの執着心が強く気性は人一倍に荒くなってるように感じる。今まで部活で観察をしたところ試合外、フィールドから離れれば借りてきた猫のように大人しく自信の無さげな女子の一面が見える。どちらが鮫倉の本意な姿かはわからないのだが、夏河に対してはどこか柔らかさを見せているようにも見える。
多来沢は思わず、ふと鮫倉に話し掛ける。
「ウルカ、おまえイチジョウと話す時はスゴいリラックスだな」
その言葉に鮫倉は下唇を揉むように少し動かすと首を横に振った。
「ナッツかわは、しつこいから、慣れただけ、です」
「ええッ、そんなうるかっちょ、仲良しになれたはずではッ、て、テレなくてもいいと、思いますッ」
「ぇっ、と、ごめん」
「うわーッ、フラレてしまった。通算二十五回目の玉砕ッ」
「いや、そういう意味で言ってるんじゃないんじゃねえか?」
「大丈夫よ、イチジョウさんのメンタルとポジティブさは知ってるでしょ?」
そんな一年生達のコントめいたやり取りを見て多来沢はドリンクを噴き出しそうになりながら、口端を柔らかく上げて笑った。
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