フットサル――VSチーム夢向川戦 1


 先攻――夢向川、右Ala神田のトスしたボールをPivo舘が受け取り、同示ヶ丘サイドへと進攻開始。

 同時に、同示ヶ丘サイドPivo鮫倉がボール目掛けていきなり駆けだし向かってきた。長めな前髪をスポーツヘアバンドでたくし上げ露わになった鋭い猛禽類の如き眼光は圧力濃く舘へと襲いかからんばかりな勢いだ、雨宮が鮫倉を前面ポジションPivoへとつかせた理由は鮫倉の慣れているフォワードポジションの役割である事と、初見の相手があの圧と勢いに怯む可能性を視野に入れての事だ。作戦といえるものではないが、迅速ファスト攻撃アタックとしては充分に効果的だろう。


「はいそっちっ」


 だが、舘は鮫倉の圧力に怯む事なぞなく冷静な掛け声と共に竜田の足元へとボールを蹴り送る。


「っっ」


 鮫倉は鋭い眼でボールをとらえたまま、パスを受け取り前方に駆け始めた竜田へと攻め向かってゆく。長い襟足が尾を引くようなその走るその背は、名前通り獲物を狙う鮫のよだと舘には見えた。竜田の前方には同示ヶ丘サイド右Ala寺島が待ち構えている。両サイドからのプレースメントアタックに、竜田は、脚を大きく振り上げて

「ほっ!」

 と、気の抜けた掛け声を発し、やや遠めからいきなりのインステップでシュートを狙い撃つ。フットサルコートはサッカーコートよりも面積が狭いぶんゴールラインまでの空きが直線が見えれば、相手への動揺の効果も狙える。この先制の一撃、理にかなった冷静な行動だ。勢いよく回転速度スピードを上げる竜田のシュートは寺島の横をかすめ、ゴールへとキレイに一直線と向かう。


 だが、そのゴールを許してしまう程、甘くは無い。ペナルティマークサイドに陣取っていた、Fixo雨宮の脚が伸び、インサイドに当てこれを見事にブロック。空中に浮いたボールを胸でトラップ、ボールを支配コントロールすると

「行ってッ!」

 声を張ると同時に蹴り上げた。ボールはセンターサークルを越え、夢向川サイド右へと落下バウンド、そこに全力疾走で走り込んできた夏河が誰よりも早くボールに追いついた。ボールを前方にクリアしたら掛け声を合図に前へとスクランブルダッシュ。夏河がすぐに覚えられる単純明快なカウンター。

 だが、高く上げたクリアしたボールは相手にも読まれやすいものだ。即座に右AIaの神田が反応を示し、サッカーよりも身体への接触ルールが厳しいフットサルであることを念頭に入れ、夏河との距離を保ちながらもボールを奪うタイミングを見計らっている。

 夏河にはまだ雨宮達のようなキレイにボールを支配し進撃する事は難しい。

(よしイチバチッ)

 ボールに追いつき、自分なりに頭を働かせた夏河はすぐさま脚を曲げ、振り子のように振り上げ、シュート体制に入る。狙うは部活の8人制サッカーで見せた「チップキックシュート」だ。遠めから弧を描き、ゴールバーの上を掠めるイメージを思い、浮かべ飛ばす。それが夏河流のぶっつけ本番、必殺技チップキックだ。しかし、遠めから撃つこれは「ループシュート」というが、夏河はそんな事は知らない。

 ボールをとらえ、空に弧を描いて飛んでいけと願い撃つ夏河の必殺シュートは


「――んッ?」


 真横へと転がっていった。


「えっ?」

 だが、真っ直ぐとゴールを見据える夏河の視線を読み、シュートブロックへと向かっていた神田にはこれは、効果的なフェイントとなった。

 転がったボールは走り込んできていた鮫倉に偶然にも渡り、まだ同示ヶ丘の攻撃チャンスは続く。

(この娘すごいテクニシャンッ)

 敵側から見れば見せつけられたのは見事なフェイントトラップだ。視線で騙すのはサッカーの基本テクのひとつだが、真っ直ぐと闘志溢れる攻撃的な視線をゴールへと向けられればわかりやすすぎる選手だと思ってしまっても仕方がない。直情的だと思わせる印象操作、まるで一度も練習もせずにたまたまうまくいったかのような驚きアピールな顔。間違いなく彼女は上等なテクニシャンだと神田へと植え付ける事に成功する。全ては本当に偶然の産物だという事を神田は知る由もない。


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