VS二年生―――作戦・超攻撃―――


 気持ち新たに試合再開キックオフ


 キッカー雨宮、まずは後方左サイド阿部へとトスを送る。阿部は直ぐ様ボールを寺島にインサイドでショートパス。寺島はボールを受け取ると真っ直ぐとドリブルで真ん中から二年生陣地に攻め入った。しかし、目の前には田中が待ち受ける。サイドから林田と美井もボールを奪いに迫り両サイドから圧力を掛ける。

(頼むっ)

寺島、ここは冷静にマークが外れている葉山の足元へ向かってショートパス。葉山がインサイドで受け取ると前に転がしながらボールコントロール、そのまま右サイドをドリブルで短く走る。だが、二年生がひとりすかさず葉山のマークに入ってきた。

(ケイちゃ先輩っ)

 相手は葉山が個人練習でもお世話になっている一番仲の良い先輩「山田やまだ けい」だ。葉山のある程度の癖は知られている。このままドリブルで攻めるのはテクニック差からも分が悪いと判断した葉山、寺島にパスを戻すか、ロングシュートを狙ってみるかの一秒間のせめぎ合い。

(イケるはずだわっ)

 真っ直ぐとDFを抜けるシュートコースを確信。FWのさがも勝ち、重心を低くし鋭くダイレクトシュートを撃ち込んだ。弾道低く真っ直ぐゴールに向かったロングシュートがDFの瀬戸、武田を抜いて右端に飛ぶ。


 低空ロングシュートはゴールを食い破るか。


「っしょッ!」

 だが、GK立壁ゴール狙いのロングを読んでいたか、右足で危なげなくブロックカバー。

 ジャストインパクト。そのまま芯をとらえたキックがボールを蹴り戻した。山田がボールを受け取りに向かうが、そこを雨宮が左足を折りたたみ太ももでパスカット。山田が態勢を戻す前にフリーの夏河に阿部がショートパス。夏河、がむしゃらにシュート。ボールは左上隅に向かうが、瀬戸がヘディングカバーで処理、しかし、そこに転がったボールを走り込んだ寺島がインサイドステップで再びシュートを撃ち込む。三度目の正直、いけるか。

(何度も抜かせるかっ)

 だがここはスライディング気味に割り込んだ武田がブロックでカバーに入った。威力の無くなったこぼれ球を立壁が強く蹴り上げてクリア。二年生チーム、ピンチ脱出だ。


 クリアに上がったボールを後ろに下がっていた美井が胸トラップ、足元へとボールコントロール。8人制サッカーは全員で攻めあぐねるのがセオリー、つまりは一年生陣のディフェンシブサイドはガラ空きというわけだ。美井、そのまま全速のドリブルで攻めあがる。

「っっ!?」

 だが、美井の目の前に圧力強く近づくプレイヤーがひとり。攻め上がらず、鋭く待ち構えていた鮫倉だ。まるで美井は捕らわれた獲物同然、動揺した美井の足元、ボールを横から牙を穿つように鋭く大胆にスライディングタックル。一歩間違えれば反則級のラフプレイだが、両審判からの笛は鳴らず。反則とはならなかった。

 

 こぼれ球は追いついた古市が拾いすぐに二年生サイドの攻撃陣に送り返す。ボールは阿部がインサイドに当てて寺島に流す。センターから田中も迫って来る。寺島、横歩きにボールを運ぶダブルタッチでフェイントを仕掛け、田中を交わした。目線を葉山に合わしながら、雨宮へとショートパス。

(舐め過ぎだってのっ)

 しかし、そこは鈴木が読んでおり雨宮にプレスを仕掛けにいく。雨宮、焦ったか前にボールを転がしている。鈴木、ここはチャンスと奪いにゆく。

「ぇっっ!?」

 だが、雨宮は前に出したボールを身体全体を振り子のように動かして、真横に蹴り流し、相手の身体を浮かせてしまうようなフェイントで鈴木を抜いた。ボールを餌のように前に去らし、素早く振り子のように身体を動かし抜き去る。これもダブルタッチのテクニックプレイのひとつだ。

(ちょっ、なんだって!?)

 まるで中一とは思えないドリブルテクニック。雨宮の実力を改めて目の前で味わった鈴木はあ然と態勢を崩していった。


 抜き去った雨宮は、走り込んでフリーとなっている夏河を確認すると、再びパスを送る。

 夏河は受け取ったパスをもう一度がむしゃらにシュート。ボールは右上隅に飛ぶが立壁がヘディングでカバーリング、こぼれ球となった。


「まだッ!」


 そのこぼれ球を拾いにきた瀬戸より先に、寺島が素早く横に蹴り上げ、葉山に託す。今度は狙いを定めぬ強引なシュート。ど真ん中、立壁がボディブロックでカバー。またもこぼれたボールを雨宮が夏河にパス、左上隅にがむしゃらシュート。立壁、なんとか手がでたパンチングでこれを防ぐ。

(この子らっ)

 無茶苦茶に身体を振られ走り続ける立壁は、息を荒くしながら一年生陣の狙いに気づきはじめる。

(単純にムチャクチャな数撃ちゃ当たるシュートアタックでこっちを潰すきだッ)



―――試合再開直前―――


「そんで、どんな作戦でいくの?」

 試合の勝利を託した雨宮に寺島が作戦を聞く。

「そうね、単純にシュート撃つのはどうかしら?」

「はっ?」

 勝つためにはシュートを撃つのは当たり前だろうと、寺島は思わず気の抜けた声を出してしまった。雨宮はすました顔で真意を伝える。

「立壁先輩は本来ゴールキーパーではないから、上目には咄嗟に手が出ない。だからガンガンシュートをわるわる休まず撃ち込めば、疲れて隙が出るはず」

「あんた、意外と脳筋?」

「まだチームが出来上がってないんだもの。単純な方がみんなにも伝えやすいじゃない。それと、イチジョウさん」

「んぇっ、なに?」

 突然振られた夏河は油断した声で返事をする。

「あなた、武田先輩にシュート練習の成果を見せるて言ってたわよね、つまり、いま一番自信があるのはシュートって事でいい?」

「う、うん、どちらかと言えば」

「じゃぁ、あなたの練習成果を信じて、ゴール前で固定砲台キャノンに徹してもらおうかしら。もちろん、あなたへのアシストはワタシがやるから、安心してゴール前に走ることを考えて」

「え、それはいいけど、リアが直接シュート狙った方が先輩達を驚かせられそうだなってあたしは思っちゃってんだけど、そっからシュートバンバンでもいいんじゃないかな?」

 確かに夏河の言うとおり、二年生側の意表を突くには効果があるかも知れないが、それにはひとつ問題がある。

「それは、ワタシはキッカーだから無理ね。11人制なら可能だけど、8人制はキッカーが直接ゴールを狙うのは反則なのよ」

「あ、そうなんだ」

「けど、意見を言うのはいい事ね、これからも遠慮なく意見を言ってきて、みんなもワタシの言う事に疑問があったらドンドン意見ちょうだい」

 チーム全体が頷く。いまのところシュート作戦に意見は無いようだ。

「それじゃ、チャンスがあったらみんなシュートよろしく。あえてこれに作戦名を着けるなら」

 雨宮は顎に指を当てて少し考えてからその指を自信有りげに前に付き出す。


作戦・超攻撃フォーメーション・スーパーシュートね」


「おいおい雨宮、それは」

「さすがにちょっとダサくない?」


 早速、チームからネーミングセンスに対して疑問視する意見が出た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る