居残り練習

身長170センチくらいの高身長に、ショートカットからかボーイッシュな可愛さがあり、胸も小さくもなく大きくもなく、おまけに性格がいいときた。さらにおまけに頭もいい。

一言で言えば完璧な女の子だった。

そんな子に微笑まれた気がするが気のせいだろう。

彼女との関わりは無かったわけではないが、視線があっただけで微笑まれる間柄ではない。

最初は、それほど興味もなく、身長でかいな。としか思っていなかった。

しかし、ある日を気かっけに、スポーツ選手として、林坂舞はどんな選手なのかと、興味を持つようになった。


「昨日の先輩で18人目だったらしいな」

「お前それよく数えてるな。俺も数えてたけど2桁いったから諦めてんのに」

「18人全員に、部活があるから、って断ってるらしいね」

「まだ2ヶ月だぜ?それでその人数って、林坂モテすぎだろ」

「まあ、あの容姿で性格も良いから当たり前な気もするけどね」

「それにしても、この学校に来て部活命とか凄いな」

俺はその告白した人数にではなく、部活があるからという理由で断っていることに驚いた。

「所詮、生半可な気持ちでやってるだろ」

無意識のうちに言葉が出てしまった。

幸い、周囲には人がいなかったので誰にも聞かれずに済んだ。

しかし、その言葉がずっと、自分の中で響いていた。

中学生の頃と比べると、今の部活で流す汗の量なんて半分にも満たなかった。

そのため、体力が有り余っていたので、顧問に練習後もコートを使っていいかと、お願いをした。

顧問の佐々木先生は断る気満々だったようだが、

「君の中学生の頃の成績は知っているよ。我が校のために頑張ってくれるなら使いなさい」

通りかかった校長が言ってくれた。

「ですが、責任者が私である以上、私も残らないといけないのですよ」

佐々木先生が渋い顔をしていた理由が分かった。

「だったら、僕が残っていますよ。そのかわり、小野寺君は終わったら必ず、校長室に来て報告していきなさい」

名前を言っていないはずなのに、自分の名前を知っていたことに驚いたが、中学のテニスの成績を知ってるのだから名前も知っているのは不思議ではないか。

佐々木先生と数分のやり取りが、最高司令官の声で一瞬で終わった。

結果、日没までという条件付きで居残り練習の許可が降りた。

お願いしてから初めての部活の日、みんなが帰った後で、サーブ練習で汗を流していた。

テニスで、1人でやれる練習なんて限られている。

俺は1人で練習をやっている時間が好きだった。

静かなコートで、俺が打つ打球音、ボールのバウンドの音、コートに踏み込んだ時の砂の音。俺が奏でる音が全部聞こえるのだ。

200球ぐらい打っただろうか。

辺りも暗くなり始め、軽くストレッチをしてから制汗剤で汗を拭い、帰り支度を済ませ、大きなラケットバックを背負い校長室に向かった。

学校の中で1番豪華な扉の前に立ち、2回ノックしてから、

「失礼します、小野寺です」

「はい、入っていいですよ」

すぐに返事が返ってきたので、ちょっと重いドアを開けて中に入った。

「練習終わりました。待っていただきありがとうございました」

「私も仕事をしていたからね、別に構わないよ。それと、居残り練習をしているのは君だけではないからね」

「え、僕以外にもいるんですか?」

思いも寄らぬ返答に俺はマヌケな声を出してしまった。

校長はにこにこしながら、

「バスケットボール部の1年生の女の子で1人ね。火曜と木曜は残っていて、それが今日だね。ゴールデンウィーク明けぐらいからかな。居残り練習の期間で言えば君の先輩にあたるね」

入部してから、ずっと·····

5月も終わり、6月に入っていたので、1ヶ月近くは経っていた。

俺は、スポーツをやっているからか、根性があって泥臭く、努力を怠らない人を好んでいる。

この学校は、テストは難しい、授業の進みは早いと、家で予習なり復習なりをしていないと確実に置いてかれるので、ある程度努力をしなければならない。

そんな環境にも関わらず、俺のクラスには赤点を取った人が1人もいない。

だから俺は、このクラスが嫌いじゃない。

赤点を取った人がいないということは、皆が予習復習を怠らず、授業以外の見えないところで頑張っているからだ。

他の人たちは、みんな勉強をするためにここに来ていた。

自分の部活を第1に考える人なんていない。

そう思い始めた時に聞いた、校長の台詞。

この学校にも、部活を熱心に取り組んでる人がいる。

俺はなぜか嬉しくなった。

「そろそろ遅いし、帰りなさい。気をつけて帰るんだよ」

「あ、はい、ありがとうございました」

俺は軽く会釈して、校長室から出た。

下駄箱に向かっている途中、俺は日中のある言葉を思い出した。

「部活があるからか·····」

校長室がある2階から階段で降りようとした時、下から階段を登っている足音と鼻歌が聞こえた。

その鼻歌と足音の持ち主と階段の踊り場のところですれ違った。

身長は俺と変わらない。ショートカットで制汗剤のいい匂いがした。

相手は、俺の事を気にも止めずに階段を登っていった。

「やっぱり、林坂だったか」

靴を履き替えながら、俺はそう呟いた。

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