バスケ少女 林坂舞

私はとても嬉しかった。

ずっと目標にしていたことが、この日、2つ叶ったのだから。


春休み明けの日。

私はわくわくしながら校門をくぐった。

クラス発表があるからか、他のみんなもどこか浮ついている気がする。

「おっはよー、舞ッ!相変わらず大きいからすぐ見つけられたよー」

リュックを叩かれた方向を向くと、野原栞が満面の笑みで笑っていた。

「おはよー、栞。あなたも相変わらず元気がいいからすぐ分かったよ」

「明るさだけが取り柄ですから!」

出席番号が前後だったこともあり、1番最初に仲良くなった友達だった。

「同じクラスになれるかな?」

「今年も同じクラスになりたいね」

「ね!違うクラスだったら私、先生に文句言いに行く」

それはそれで見てみたい。

栞と話しながら、クラス発表の紙が貼られている掲示板の前まで来た。

林坂舞はやしざかまい野原栞のはらしおりの文字が並んでいたのをすぐに見つけたけど、栞はまだ探していた。

「んーとねー、あ、あった!!しかもまた出席番号前後だ!」

「えー、文句言ってる栞見たかったんだけどなぁ」

「ひどっ!」

「嘘だよ嘘。私も嬉しいよ。またよろしくね」

「うん!よろしく!」

私はそんな冗談を交えながら栞と同じクラスだったことを喜びあった。

クラスが分かった今も、私のわくわくは止まらなかった。

そう、なぜなら今日は、憧れの先輩達と一緒に表彰されるのだ。


中学生の頃、私は県大会上位常連校のレギュラーだった。

その頃、ちょうど成長期と重なっていて身長がぐんぐんと伸びていた時期でもあった。

バスケというのは、身長で決まるスポーツだと思う。

身長が伸びるに連れて、シュートが決まりやすくなったり、ディフェンスで抜かれることが少なくなったりと、毎日が成長を感じた。

上手くなりたかったから、私はこれまで以上に努力をした。

家に帰ってからも走って、ドリブルの練習などをしていた。

私はどんどん上手くなり、確実に手応えを感じていた。

身長が止まった時には、チームの中で1番身長が高くなっていた。

自分のプレーの質が高くなると、自然と仲間にもその期待をしてしまう。

もっとうまくなりたい。みんなと勝ちたい。

そう思ったのが最後だった。

「舞みたいに才能がある人はいいよね」

その言葉と同時に、私の周りには誰もいなくなった。

過度な期待をしてしまった自分を責めた。

悲しんで、泣いて、辞めたくなって、それでも自主練だけは続けた。

仲は戻らないまま最後の大会を迎えた。

「悔いの残らない部活にしたかったんだけどな」

バスケはチームプレーだ。

1人が上手くても勝てないのは分かっていた。

それなのに私がどんどん点を決めている。

気づいたら、私は県のチャンピオンになっていた。

勝つと嬉しかったのに、点を取ると、相手を抜くと楽しかったのに。

負の気持ちが強かった。

この涙の感情もよく分からなかった。

関東大会が決まっていたにも関わらず、私は部活を辞めた。

勉強はできる方だったので、高校は比較的に選びたい放題だった。

リセットしたい気持ちもあって、家から少し遠い城東に決めた。

勉強もそこまで苦ではなかったので簡単に入れた。

そして私は、城東女子バスケットボール部に入部した。

入部してから分かったけど、先輩達と一緒に入部した同学年はお世辞にも上手いとは言えなかった。

でも、練習だけは全員で真面目に取り組んでいた。

良い雰囲気だった。みんな楽しそうに練習をしていた。だから私は、手を抜いた。

家に帰ってからは部活で使わなかった体力の分だけ自主練に励んだ。

体を動かしていても、罪悪感だけは汗で流せるものではなかった。

そんなある日、クラスメイトの1人が表彰されているのを見た。

私は、素直にその男子の事が凄いと思ったと同時に、

「いつか先輩たちとここで表彰されたい」

と、明確な目標ができたのだ。

先輩達の頑張りが形になったのは、年明けの頃だった。

練習試合で始めて勝つと、私たちチームは泣いて喜んだ。

そこからも練習試合で経験を積んでいった私たちは、春休みの間にあった地区予選で、見事、優勝できたのだ。

県大会は初戦敗退だったけど、私は、始業式で表彰されるのがたまらなく楽しみだった。


「意外と緊張するものなんだね」

依織いおり先輩がそう言うと、私たちはくすくすと笑った。

会釈して顔を上げると、みんなが祝福してくれた。

自分のクラスの方を見ると、栞が飛び跳ねながら手を振ってくれていて、思わず笑ってしまった。

私達は、ステージから降りようと、体の向きを左にかえると、壁際にいたある男子と目が合ったことに気づいて、私は微笑んだ。

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