第四章 咲かない花8
「カメリア、今の完全に乗せられたね」
「乗せられた?」
「気付かなかった? 舞踏会を楽しみにしているって、逆に言えば何があっても舞踏会は開催するということだよ」
ルベールの指摘でカメリアは初めてそのことに気付いた。
「あ……」
「本当に気付いていなかったのか」
セロイスはそのことに気付いていたらしく、カメリアを呆れたように見ていた。
「あんなことを言われて、騎士として黙っているわけにはいかないじゃないか!」
そんなカメリアに何を思ったのか。セロイスはカメリアの頭を軽く叩いたかと思うとぎこちない動きで、カメリアの頭をなで始めた。
「なんだ、いきなり」
「いや……」
女子供のような扱いをされることをカメリアは嫌っていたはずだ。
それなのにセロイスの手に不思議と嫌悪を覚えない自分がいる。
どこか矛盾する想いをカメリアが抱えているとも知らず、セロイスの大きな手はカメリアの頭をなでていく。
その意外な行動に顔を上げたカメリアはセロイスと目が合った。
「お前は、どこまでも騎士であろうとするんだな」
(あぁ、まただ)
胸の痛みを感じながらも、カメリアはセロイスから目をそらすことが出来なかった。
まるで小さな子供をあやすようなその手にカメリアは何故か泣きたくなった。
(そんなのは、私ではない。こんな私は私が認めない)
気付けばカメリアはセロイスの手を払い除けて、その場から逃げ出していた。
一瞬何があったか、セロイスにはわからなかったが、遅れて襲い掛かってきた痛みにカメリアにその手を拒絶されたことを理解した。
追いかけようとしたものの、カメリアの姿はもうどこにも見えなかった。
(俺はまた怒らせるようなことをしてしまったのか?)
呆然とするセロイスをよそに、ルベールは声を上げて笑った。
「……何がそんなにおかしい?」
ルベールに格好悪い場面を見られていた恥ずかしさから、セロイスは不機嫌さを隠そうともしない声で問いかける。
「君は気づいていないのかい?」
「何のことだ?」
「いや、気づいていないなら別にいいよ」
そう言ってセロイスに背を向けて歩きかけていたルベールだったが、ふとセロイスを振り返ると言った。
「せっかくだ、ひとつだけ教えてあげる。君が守るべきは僕じゃなくカメリアだよ」
「……それはどういうことだ?」
「さぁね……まぁ、カメリアのことを頼んだよ、蒼の騎士」
そう言い、自分の持ち場へと戻っていくルベールの後ろ姿に、何故かカメリアの姿が重なった。
「何だったんだ、今のは」
ほんの一瞬のこととは言え、ルベールよりもカメリアのことが気になっていたことをセロイスは否定することができなかった。
「どうなってるんだ、俺は……」
そうつぶやくセロイスを影から見ている人物がいることにセロイスは気付かなかった。
「……なるほど、面白い」
セロイスの様子を見ていたその人物は満足げに笑うと姿を消した。
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