第三章 未知なるもの3
「さっきから聞いてりゃ、なにが素敵だ」
そうぼやきながら店にやってきたのは、カメリア達と同じ騎士の制服を着た青年だった。堅苦しい格好が嫌いなのか。胸元のボタンを外して制服を着崩しているが不思議とそれが似合っており、外にはねる茶色い髪に黄色い瞳が見る者に気さくな印象を与える。
「ったく、くだらねぇ……」
後ろ手に扉を閉めた青年は、セロイスの姿に気付くと目を丸くした。
「おう、セロイスじゃねぇか!」
「バルドか」
「朝から全然顔を見ねぇから、心配してたんだぞ」
バルドと呼ばれた青年は気さくな様子でセロイスの肩に腕を回した。
セロイスもとくにそれを嫌がることはなく、バルドにされるがままだった。
「他の奴らにお前のことを聞いても、なぜか誰もなにも言わねぇし。まさかこんなとこにいたとはな」
(それは言いたくても言えなかったのだろうな……)
バルドにセロイスのことをたずねられた者を気の毒に思いながら、カメリアはセロイスに親しげに話し続けるバルドに目を向けた。
――バルド・フラウス。
剣を抜いたところを見た者がいないため「剣を抜かない変わり者の騎士」と言われている。そんな異色の騎士であるにも関わらず、かつて「黄色の騎士」にという話が持ち上がった際に「めんどくせぇ」の一言でそれを断ったのは有名な話である。
持ち前の快活さに隊長を務めていることもあり、兵達からも慕われているバルドだが、カメリアの姿を見た途端にこれまでの明るい表情が一転した。
「なんだ、お前もいたのか」
「あぁ……」
バルドはカメリアのことをひどく嫌っているのだ。
カメリアを嫌っている者は多いが、カメリアの立場もあってか。表立ってそれを口にする者は少なく、カメリアのことを避ける者が多い。
そんな中、カメリアを嫌っているにも関わらず、こうして声をかけてくる変わり者はバルドくらいのものだ。
(私のことが嫌いだと言うなら、ほうっておけばいいものを)
ロベルトを探している最中だというのに、バルドという面倒ごとが増えた。
「今日も街にお出かけとはいい気なもんだな。それもセロイスまで連れて」
カメリアがたびたび街に出向いていることを、バルドは言いたいのだろうが、カメリアが街に来ているのは遊びにきているわけではなく、ロベルトを探すためという歴とした理由がある。
しかし、ロベルトが城を抜け出していることを知らないバルドに理由を話すわけにもいかず、カメリアは当たりさわりのない答えを口にした。
「そのような言い方は心外だ。これはあくまで仕事の一環にすぎない」
そんなカメリアをバルドは鼻で笑った。
「心外もへったくれも本当のことだろうが。それに仕事だって言うなら、お前がまともに兵の指導したことなんざ、これまで一度もねぇじゃねぇか」
「それは……」
実力を認められた騎士には、城につとめる兵達を指導・指揮する役割が与えられることになっており、カメリアにもその役割は与えられていた。
しかし兵達から嫌われているカメリアは指導どころではなかった。
時間になっても誰一人として集まらない訓練所に、ようやく集まったかと思えばカメリアの指示をひとつも聞こうとしない兵達。
カメリアが嫌われる理由はただひとつ。
――女だから。
それだけで、騎士として認められない。
表向きは騎士と認められているものの、実際のところはどうして女性がとそう思われて、指示のひとつさえも聞いてはもらえない。
セロイスやバルド、他の騎士や兵が努力をしていないとは決して思わない。
それでも男性である彼らがひどく羨ましく思うことがある。
どんなに努力をしても、どうにか歩み寄ろうとしても、そのひとつだけですべてが帳消しになってしまう。
(そんな私にどうしろと言うんだ……)
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