第一章 戦いの合図は教会の鐘で6
「だが、そこまで想っている相手がいるなら、相手に気持ちを伝えればいいじゃないか。そうすれば見合い話を持ってこられることもないだろう」
セロイスはカメリアを見るとため息をついた。
「それができていれば、苦労しない……所詮は報われない恋だからな」
「そうは言っても、このままだと私と結婚することになるんだぞ? お前はそれでいいのか?」
そこでなにも言葉を返してこないセロイスには迷いが見られた。
セロイスの返事を待ちながら、カメリアは別のことを考えていた。
(セロイスがその相手とうまくいけば、この婚約も白紙に戻るかもしれない)
いくら王命とは言え、さすがにセロイスに恋人がいることを知れば、無理にカメリアとの結婚を進めることは出来ないだろう。
「お前は想いを伝えることもしないままで、たとえ、お前の想う相手が他の誰かと一緒になったとしても、お前は本当に後悔はしないんだな」
「それは……」
カメリアはあと少しだと、言葉をにごすセロイスに言葉を続けた。
「お前も騎士ならば、その想いを貫いて見せろ!」
カメリアの言葉を聞いたセロイスはベッドの上で姿勢を正してカメリアと向き合うと深々と頭を下げた。
「すまない、先に謝っておく」
「な、なんだ……いきなり、改まって」
戸惑うカメリアをよそにセロイスは頭を下げたまま続ける。
「お前と初夜は迎えられない」
「そんなことで謝られても……それに安心しろ。私もお前と同じ意見だ」
「しかし、騎士にとって命令は絶対だ。主からの命令を断るなど騎士の名折れ、強いては剣を自ら折るに等しい……お前にもわかるだろう」
「それは……」
セロイスの言っていることはカメリアにも理解出来る。
しかし、いくら命令だとは言え、こればかりはそう簡単に聞き入れられるようなものではない。
まして、セロイスに想っている相手がいるとなれば、なおのことだ。
答えに困るカメリアにセロイスは言った。
「……一週間、待ってくれないか」
「一週間?」
不思議そうに言葉を返したカメリアにセロイスは顔を上げた。
「騎士として命令に背くことは出来ない。だが、この想いだけは、たとえ叶わない想いだとしても伝えておきたいんだ……それまで初夜を迎えるのは待ってほしい」
カメリアに訴えるセロイスの目はどこまでも真剣なものだった。
セロイスは叶わない想いと言ったが、セロイスの告白を断る女性がいるとはそう思えない。
(一週間もあれば、セロイスの片想いを成就させられるだろう)
カメリアには女性の知り合いが多く、セロイスの想っている相手の詳しいことも彼女達に聞けば、なにかわかるかもしれない。
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