日本人の胃を小さくしよう大作戦!

蛇いちご

日本人の胃を小さくしよう大作戦!

 私、竹本伸は27歳、至って普通の会社員だ。しかし、最近、恐ろしい事実に気がついてしまった。


 我々の目下で既にその恐るべき「作戦」は遂行されつつある。その作戦は、もし私が名付けるとしたなら、日本人の胃を小さくしよう大作戦だ。


 きっかけは、ある昼休憩だった。昼休憩になるとオフィスから出て会社から10分程歩いたところにあるカフェに行くのだが、そこで恐ろしい会話を耳にしたのだ。


 「どんどん食品を小さくしていけ、どうせカモは分かっても何も言わないし、何かいったところでダメージはない」


 後ろに座っていた、人相の悪そうな中年の男は、確かに携帯電話に向かってそう言っていたのだ。その会話を聞いた後、私の周りにある、ありとあらゆる食品が小さくなり始めていた。レストランなどで出される料理はもちろん、スーパーで売られる野菜や肉までもが小さくなった。


 挙げ句の果てには、行きつけであったカフェですらも食べ物が小さくなった。私が恐るべき作戦を聞いた場所であるカフェは、その作戦に飲まれてしまったのだ。どこもかしこも、食品を小さくしたが値段は変わらなかった。


 そして、更に恐ろしいことにこの現象は私の住んでいる地域だけではなかった。

 

 趣味はツーリングなのだが、祝日にはついつい2県ほどまたいでしまうこともある。そして、何気なく現地のコンビニに寄るのだ。もしくは、夜まで走り、適当なビジネスホテルに泊まる。一人暮らしだからこそ為せる妙義だ。


 最近はやはりその赴いた先の食べ物が軒並み少なくなっている。その為、1日中ツーリングをした腹は到底満足できずに、切ない思いをしながら翌日の帰宅に備えるのだ。


 どうやら、調べるとこの現象はどうも日本全国で起きているようで、疑問に思う声や悲観する声が主にSNS上ではあふれていた。しかし、大手メディアでは一切報道されることはない。


 こんな悪事が許されて良いはずがない!だから、私は人を募った。元フランス外人部隊のマルクス!元スペイン外人部隊の中村!ロシアのスパイ、ピョートル!ただの前科持ち教師、野々宮!


 どうやって、集めたかは絶対に秘密だ!どうして、奴らが値段はそのまま食べ物の量を減らして売り捌くのかは分からないが、なんにせよ不公平だ!だから、この現象を私は止める。すべての日本人の為にも。


 さて、そうと決めれば早速、こちらも妨害作戦開始だ。さて、どうやって妨害するか仲間達と話あおう。


 しかし、話し合っても具体的な作戦が出されることはなかった。その代わり、我々は一つの結論を導き出すことに成功した。それは、我々4人の力だけでは、相手が相当な権力を持っている事が予想されるだろうから、どうすることもできないだろうと言う予測からである。


 なので、作戦の方針を変更し、我々の力だけでは無く民意に頼ることにした。そのように決めると、我々はすぐに具体的な作戦を満場一致で導き出した。


 まずは、あのカフェにいた男の情報を洗う。幸い、ピョートルが人権派政治家に協力してもらって、手に入れたデータベースから洗い出す事ができた。


 そいつの名は百々目鬼星≪キラキラスター≫。世界中の資本家の中でも指折りの実力者であり、別荘を300個持っている。表面上では、SDGsの推進に協力し、途上国への支援や投資に熱心だが、裏では日本の殆どの産業を牛耳り、途上国の富を搾取するパイプラインを設立している真っ黒な人物だった。


 まず、我々はキラキラスターの行動を逐一観察し、行動を分析した。よく観察してみると、キラキラスターの周りには常にそれとは全く分からない護衛が何人も張り付いていた事がわかる。しかし、ある一定の時間だけ絶対に護衛がつかない時があった。それはトイレ中だ。


 作戦決行日時になると、全員が上下真っ黒い格好に着替え、黒い目だし帽をすっぽりと被る。ピョートルと野々宮はスモークを張った白バンで待機、私と中村で通気口から上手くトイレの天井に入り込み、ただじっとトイレに来るのを待つ。時間は深夜だ。何日にも及ぶ観察によってキラキラスターのトイレ周期が決まっていることに気がついたのが功を奏した。田舎のバスの時刻表よりも正確だ。


 天井の通気口からキラキラスターを音ひとつ立てず、猿轡を噛ませて顔に黒い布をかけてから、中村と協力して外までさらい、近くに止めてあった白バンに運び込む。両手の親指を結束バンドで結び合わせ、連れ去る時バンの扉を閉めると同時に野々宮がアクセルを踏み、確保していた逃走経路に向かう。追手が即座に来ないことを確認してキラキラスターの顔から布を取り去り猿轡をとる。


「貴様の行っていることは日本人に対する裏切りだ、なぜそんなことをする?」


「なんだお前達、なんの話をしているんだ」


「とぼけるな!貴様は日本全国の食べ物の量を減らしただろう!なんの為にそんなことをする!ほら見ろ!これを見てまだ否定するか!」


 キラキラスターの目の前に、本人の全ての銀行口座の動きや、本人の行動や居場所をまとめたものを表示したタブレットを出した。


「あぁ、どうやら言い逃れは苦しいみたいだな、わかった、そう、俺がキラキラスター、日本の食品の量を減らしている張本人だ」


「何故、そんなことをする!?」


「日本人の胃を小さくする為だ、少ない量で満足するように調整すれば少ない費用でより多くの利益を出せる様になる」


「やはり、自分たちの利益の為か!」


「いやいや、待て!フードロスは確実に減る!食料の無駄は確実に減るぞ!今までが異常だったんじゃないか!飲食店は捨てると分かってて恐ろしい量の食料を用意し、補助金をもらう為だけに作物を作っては燃やす!だが、見てみろ!今この国はそんな状況をどんどんと脱している!行き過ぎた物質主義を脱しようとしているんだ!」


「それが、なんだと言うのだ!それはあくまで2次的な物だろう!それを叶えたいならば、目的をそれに絞るはずだ、お前が儲かるための行為の主語を他人になすりつけるな!」


 キラキラスターめ!今まで、散々私腹をこやしていた貴様が今更、そのような外面のいいことを言うのか。結局こうだ!真に力のある悪人は捕まらない!今までのやったこと全てに贖罪をさせたい!


 「諦めろ!お前のメッキは剥がれた!この様子は今、インターネットで中継されている!勿論、公の電波を乗っ取っとてTVでも流している!今までのように、インターネットは嘘の宝庫であることを主張し、自分達が検閲した情報だけを信じ込ませることなどさせんぞ!」


 「なんなんだ?何が目的なんだ?そこまで、大事にしてお前達が無事で済むはずがないだろう」


 「俺たちは、未来の為の犠牲だ!もとより、自分のことなんて考えていない」


 4人組。いずれかは日本の未来を守った英雄として伝説になるのかもしれない。しかし、この計画が失敗すれば、4人の誇大妄想家の犯罪者になる。成功させねばならない。


 バックミラーには、こちらを猛スピードで追ってくる黒塗りのベンツ群が映っている。


 まだ、役目は残っている。絶対にここでつかまるわけにはいかない。幸いな事に目的地が見えてきた。港だ。フェリーが船着き場に止まっている。


 きりきりとブレーキの音が響き、車が激しく揺れる。ダバィ!皆を奮起し、一斉にキラキラスターを連れて車から飛び出てフェリーに飛び乗る。銃声が後ろから聞こえたが、ひたすらに当たらない事のみを願った。フェリーに待機していた、アレクサンドルが猛スピードで発進させる。


 逃げ切った。我々は何とか海上保安庁の捜索を回避しながら、サハリンについた。調べたところによると、どうやら我々の動きもあって事実自体は国民の耳に届いたようだ。しかし、それで何かが変わるわけではない。知った所で、国民には何もできないのだ。


 あれほどの規模の出来事が発生したにも関わらず、日本国内においてその事件に対しての報道はあくまで愉快犯による犯行として取り上げられた。


 しかし、我々は知っている。人民はきっかけさえあれば、追い込まれた時に立ち上がれるのだ。


 だから、ロシアに帰りついたのち、日本の主な食料貯蔵庫を遠隔で爆破した。ロシアのスパイにここまで多くの生命線を握られていたこと、またもっと握られている可能性がある事を公表した場合のパニックとロシアの対応を恐れたのか、読み通り情報は検閲され、日本国民たちはパッとした理由もないまま飢えに苦しむ。


 ついでに、陸路もいくつか爆破し、巧妙に首都圏以外に食べ物が非常に輸送しにくくしておいた。


 いま、日本では都民に対する集団的暴力が行われ首相官邸は横流しした銃を持った同士達が包囲した。


 我々4人は、後世において、腐敗した新自由主義的資本主義から日本市民を呼び起こし、偉大なるルーシの一部となるきっかけを作った英雄として未来永劫、見ず知らずの日本市民たちに崇められるだろう。


 


 

 

 

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