第4話

 星花せいか女子学園、中等部に転校した紗幸さゆき

 クラスは、2年2組だ。

 「クイズ姫」にとって、中学の授業なんて生ぬるいし。

 1日の授業が終わって、さっさとノートを片付けていると、クラスメートが話し掛けてきた。


「多賀島さん、星花には、もう慣れた? 分からないことが有ったら、何でも聞いてね」


 月岡ひなた。

 腰まで有る黒髪の、大人しそうな少女だ。


「多賀島さん、あの『クイズ姫』だし。勉強で困ることは、無いかもだけど」


「ふぇひひ、分かってんじゃん」


 おだてに弱い紗幸。ひなたへの友情ポイントが10上がった。

 上機嫌で微笑み返す。


「声掛けてくれて、ありがと。ま、新しい学校で困ってるとかも、とくには無いよ」


 なぜなら、教師と同棲しているから。学校のことも、色々教えてもらっている。

 と、それを聞いたひなた、


「せ、先生と同棲って、誰と!?」


 急にあたふたし出す。


「い、いや、同棲っても1週間ぐらいだし。わたしからお願いしたんじゃないんだけど」


「ま、まさか……さくら先生と!?」


 大人しそうなひなたが、急にぐぐっと詰め寄るので、紗幸は頬を掻く。


「さくら先生って、家庭科のだっけ。違うよ、歴史の、めぐみん先生」


「なんだ。良かったぁ……」


 ひなたがほっと息をつくと、廊下から、話題の先生たちの声が。


「先輩、この前のカレー、美味しかったです。次はハッシュドビーフをリクエストします♡」


「もう、めぐみったら。私に甘えてばかりじゃなくて、自分でもお料理がんばりなさい?」


 めぐみん先生が、肩の触れる距離で甘えているのは、2歳年上の家庭科の先生。

 菅原さくら。栗色のふわふわロングで、名前の通り、桜の花のような暖かな笑顔の、お姉さん。

 星花の2大美人教師と噂される彼女と、めぐみん先生とは、学生時代からの仲良しだ。


「えへへ。だって、私が作るより、先輩のお料理の方が美味しいもん」


 さくら先生の腕に抱き付く、めぐみん先生。

 はた目から見て、すごく、イチャイチャしてるよう。

 生徒たちの視線を感じて、さくら先生が頬を染める。


「も、もうっ。生徒たちが、見てるじゃない」


 ほんとうに、綺麗な女性ひと。廊下に、桜の残り香が漂っているような。

 思わず紗幸も見惚れていると、


「むむむ……!」


 ひなたが、すごい顔してた。紗幸は賢いので気付きます。


「もしかして、月岡さんって。さくら先生のコト、好きなの?」


 図星みたい。ひなたの顔が、見る見るうちに真っ赤になっていく。

 放課後の教室。隅っこの、自分たちの席に戻って。

 紗幸はニマニマ。


「ふぇひひ。分かる。分かるよ。さくら先生、すっごく美人だもんね?」


 ひなた、真っ赤になりながら、小さな声で、でも熱く語る。


「……綺麗なだけじゃないの。すごく優しくて、テストの時だけ、ちょっと厳しいけど。料理部の顧問もしてて、家庭科の実習で食べたことあるけど、シュークリームとか、お菓子の腕はもう、プロのパティシエさんみたいで……!」


 ドーナツとかも美味しいよ、という言葉に、紗幸も思わずよだれが。


「わたし、ドーナツ大好物なんだよね。そっか……めぐみん先生からお願いすれば、焼いてもらえるかな。それで、直接仲良くなって……」


 さくら先生へ、俄然がぜん興味の湧いてきた紗幸。

 だけど、ドーナツが焼けるより先に、ひなたが妬いちゃった模様。


「むむぅ……!」


「冗談。冗談だってば。わたし様は国民的美少女だし、めぐみん先生も、会ったらさくら先生も、わたし様に惚れちゃうだろうけど? 年上のお姉さん2人に好きになられたら、大変だしね。月岡さんの邪魔はしないって」


「紗幸ちゃん……」


 私に、気を遣ってくれてるのかな、と。

 ひなたから、紗幸への友情ポイントが10上がりかける、が。


「ふぇはははは! モテすぎちゃうと、わたし様が大変だし! 痴情のもつれで曽根崎心中とか、ごめんだからな!」


 紗幸のキラキラした瞳に、思い知る。


(ち、違うッ! これは、私を気遣ってるとかじゃない……。本気の眼だ! さくら先生と愛瀬まなせ先生、両方から自分は愛されると、心から信じて疑っていない、そんな眼だッ!!)


親友ダチ恋敵ライバルになんて、ならないって。応援するぞ、ひなっち!」


「そしてもう親友認定!?」


 ひなたの手を取り、ツインテールをぴょこぴょこさせて飛び跳ねる、紗幸。

 ひなたの恋を、応援するって。この時は、心から、そう思っていた。


 そして。

 めぐみん先生から、夜の特別授業(歴史)を受けた後。

 教員寮の、先生のお部屋で、お夕飯タイム。

 タッパーに保存してあったカレーを、レンジでチンして、ご飯に乗っけただけ。

 だけ、なのに。


「美味しい……!」


 ママのにも、負けないかも。紗幸が瞳を輝かせていると、


「ふふん。美味しいでしょ♪」


 めぐみん先生、大きなお胸を揺らしてドヤるので、


「……これさぁ。作ったの、さくら先生でしょ」


「何でバレた!? あ、放課後の、見てた?」


 紗幸から見て、正直めぐみん先生、お料理とか得意そうじゃないし。

 それを指摘すると、先生は頬を膨らませて、


「そんなことないですぅー。ただ、一人だと食材費も馬鹿にならないもん。自炊より、スーパーの半額セール狙いでお弁当買ったりとかのが、案外安く済むのよね」


 と、力説。

 別に料理出来ないわけじゃないと証明するべく、紗幸へお料理クイズを挑んで来た!


【お料理クイズ】


第1問・以下の料理を、日本に入ってきた順番に並び替えよ。


A・ラーメン

B・チーズ

C・カレー


第2問・以下の料理には、ある共通点が有ります。それは何か?


A・沢庵漬け

B・サンドイッチ

C・カルパッチョ


【正解は後書きで!】


「ふぇはははは! またも全問正解! わたし様ってば、お料理マスターだな」


「でも実際に作ったりは?」


「しないぞ! 知識だけ!!」


 おお、お前もか、と。

 めぐみん先生と紗幸は、深く分かり合った。


 それはさておき、


「紗幸ちゃんには、半額弁当とかじゃなくて、美味しいもの食べさせてあげたいから。先輩……さくら先生のカレー、美味しかったでしょう? 私も、いつも先輩に、手料理、分けてもらってるのよ」


「ヒモじゃん」


「ヒモじゃないよ! 養ってもらってるだけだよ!?」


 それをヒモと言うのでは?と、紗幸がジト目を向けると、めぐみん先生は髪を弄って誤魔化しつつ、


「でも本当、私が作るより美味しいもの。先輩のお料理はね、食べると、すっごく幸せな気持ちになっちゃうのよ」


 にこにこ微笑む、めぐみ先生の表情に。紗幸はまたも気付く。


(もしかして。めぐみん先生も、さくら先生のことが……)


「仲良しなんだ?」


 そう探りを入れてみると、


「ふふっ。さくら先生とは、星花の中等部の頃から、ずっと一緒なのよ。私が中1の時、先輩は中等部の生徒会長で……それはもう、素敵だったんだから」


「……好きなの?」


 ずばり聞いてみると、めぐみん先生は真っ赤になって、うつむいて。


「お、お姉さんをからかうの、よくないぞ?」


 小声で羞じらう姿に、紗幸は内心、


(あちゃぁ。ひなっちの恋を応援するとか、安請け合いしちゃったかな)


 でも、ま。わたしは部外者だし。深く考えるのは、やめよう。

 ……この時は、そう思っていた。


※ ※ ※

 

【後書き1】クイズの正解

第1問・B→A→C


A・ラーメン……江戸時代前期、水戸黄門こと徳川光圀が、初めて食したと言われる。(室町時代説もあり)

B・チーズ……「蘇」と、それを発酵させた「醍醐だいご」が飛鳥時代には作られていた。

C・カレー……明治時代、当時インドを植民地支配していた英国から伝わる。


第2問・発案者の名前が、料理名になっている(諸説あり)

A・沢庵漬け……江戸時代初期の名僧、沢庵宗彭が徳川家光に供した際に、家光が沢庵和尚の名を取って、命名した。

B・サンドイッチ……トランプで遊ぶのが大好きなサンドウイッチ伯爵が、遊びながら食べても、手が汚れないようにと、食材をパンに挟ませたのが始まりとされる。

C・カルパッチョ……イタリアの画家、ヴィットーレ・カルパッチョが好んで食べたというのが通説。


【後書き2】星花女子辞典

・月岡ひなた(人名)

中等部2年2組。紗幸のクラスメート。由緒ある神社の出で、和楽器(笙)を得意とする黒髪美少女。(砂鳥はと子様「日向で輝く桜を愛したい」主人公。カクヨム連載中)

・菅原さくら(人名)

29歳。星花女子学園で家庭科を担当する教師。料理部の顧問でもある。(砂鳥はと子様「日向で輝く桜を愛したい」もう一人の主人公。カクヨム連載中)


 



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