第6話 人生山あり谷あり、山は登りあり下りあり

 その後はひたすら歩いて山を越えた。

 っていうと、簡単にさくっと歩けたっぽいだろ? そんなわけないからな。

「まだ……?」

 百回くらいは聞いた。盛ってないやつ。まじの百回。まだ?もなにも、見渡す限り木で、地面もまだ上か下かに傾斜してるわけだから、まだ山に決まってるわな。考えなくても。

 ナレディやテーベも最初のうちは「ここを登り切ったら先の行程がざっと見渡せるはずだ」とか「頂上は抜けたから後は主に下りだ」とか教えてくれていたが、おれの「まだ?」が二十回を超えたあたりから完全に無視され始めた。

 ちなみに頂上を越えても下りだけではなかったからな。登ったり下ったり色々あった。もう登りなら登り、下りなら下り、ってきっちり分けてくれよって思うよな。だって下りが来たら、もうそのままふもとを目指すだけ、って期待しちゃうからな。でもそういうわけにいかないんだって。山だから。人間が歩けるようなとこに道を作るから、歩けないとこを迂回するわけで、そうすると登ったり下ったり迂回したりってことになるんだってさ……。何十回目か忘れたけど、ナレディに軽くキレられた時に言われたよ……。

「うぅ……まだかな……」

 でも言うおれ。黙ってると余計辛いんです。できたらおもしろいい話でもして気を紛らわしてください。でもこっち余裕ないんで反応できなくても許してください。

 結局おれだけがぶつぶつ言いながら歩いた。一応、休憩も時々。進路の確認でナレディとテーベが立ち止まるたびにいちいち座り込んで嫌な顔をされた。

 多分、今の身体は元の身体よりもかなりスポーティだから、実はそんなにしんどくないんじゃないか? 自分の思い込みじゃないか? とも思ったんだけど、やっぱりどう考えても……あれ? このくだり前にもやったっけ?

 実際「疲れた」とか「死にそう」とか言いながらも歩けてるんだからそうなんだろう。

 てか昨日は「もう動けるのか?」みたいなことを聞かれたけど、屍術?で蘇生?されたばっかでこんな動きまくっていいもんだったのか? 日常レベルの運動だったらさ、ちょっとした階段の昇り降りとか近所のスーパー行くとか、そんくらいなら大丈夫だけど、山越えとかとんでもない! 絶対安静にしてください!みたいなそんな感じだったりしないか? 少なくともおれの気持ちとしては絶対安静にしたい。今すぐ。あとチョコパフェ食いたい。

「おい、見えたぞ」

 日が暮れるほどではないんだけど、夕方っぽい空気になってきた頃。

「えっ」

 ナレディが指さした先を見ると、小さな家が点在する村のようなものが見えた。

「今夜はあの村で宿をとる。明日拠点にできそうな街へ移動だ」

 えっ明日もまだ移動なの? しかも移動手段って徒歩なんだろ知ってる。

 とりあえず目指す先が見えたのは良かった。どこまで行けばいいか分からない状態でひたすら歩き続けるのに比べたらまだ頑張れるわ。

「お前は向こうの世界で馬を持っていたのか?」

「えっ?」

 馬? なんで急に?

「歩くのに慣れていなそうだからな。大方馬でばかり移動していたんだろう」

「…………」

 もうどっからつっこんでいいか分からん。そんでちょっと舐められてる感ある。

 

 ようやく村に着き、村で唯一の宿に部屋を取った。

「雑魚寝~?」

「我慢しろ。そもそも俺の金で寝泊まりしてるんだ。文句言うな、見習い冒険者」

「…………」

 だってあんまりよく知らん人らと並んで寝れる? しかもおれ今セクシー美女なんだけど。セクシー美女がおっさん二人と並んで寝れますかって話ですよ。


 結論から言うと、ぐっすり寝た。

「…………」

 まぁ昨日あれだけ一日歩き回って山まで越えて、人生初となる記念すべき魔物、スライムに一太刀ならぬ一杖浴びせたわけだ。そりゃ疲れるよな。

 もう何か考える暇もなく意識失って気づいたら朝だった。

 そんでちょっと筋肉痛だわ。

「今日も移動だ」

 早朝。なのに眠くない。昨日早くに就寝してぐっすり寝たから。健康かよ。

「次の街が拠点として良さそうだったら、そこにしばらく滞在する。それでモモ、お前に魔法の訓練をする」

「えっ」

 魔法? えっ? 訓練? ええ?

「魔力は高い。あとは使い方を覚えて訓練次第だろう」

 ま、魔力高いの? おれ。使ったこと一度もないんだけど。使ってる奴見たこともないだけど。

 いや、待て。多分あれだ。素体のエレナさんが魔力高かったってやつだろ。思えばこの杖もその人のおさがりだし。

「食ったら移動だ」

 この日の移動は筋肉痛を入れても昨日ほど大変じゃなかった。平地の街道をひたすら歩くだけ。

 ところでおれの靴は、革の靴下みたいなやつに靴底がついた程度みたいな感じだったんだけど、それだけはいつのまにかテーベが新しいのを手に入れてきてくれた。おさがりの靴がちょっと小さかったからな。靴擦れちょっとできちゃったんだよな。助かる。

「身体に合わない装備は疲れが倍になるからな」

 おおおお、優しい……! イケメンかよ……! 



「魔法っていうのはな、」

 道中、ナレディが色々説明してくれた。

「各エレメントの上位精霊がエネルギーを圧縮して具現化したものだ」

「ほうほう」

 なんとなく、おれのイメージとしても合致してる。

「そちらの世界ではどうかは分からんが、」

 おれの方の世界ではそもそも魔法はないが。

「人間は上位精霊に直接働きかけることはできない」

「ふーん」

「だから、一旦下位精霊に呪文を使って語りかける」

「ほう」

「人間が呪文を唱えると、下位精霊がその通りに空中に描画する。これを魔法陣という」

 魔法陣、の概念は知ってる。

「人間が描くわけじゃないのか」

「人間にも同じ紋様を描くことはできる。ただ、上位精霊が認識できるのは、下位精霊の分泌物で描かれた陣のみだ」

 ちょっと引っかかるワードがあった。分泌物……?

「その魔法陣に応じて上位精霊が魔法を発動させる、というわけだ」

「なるほど」

「まず下位精霊に呪文による指示を行うわけだが、その呪文を唱える時に、呼気に魔力が混じり出る。それを糧として下位精霊が動くんだ」

「ほおほお」

「そこでの魔力が足りないと、魔法陣を描き切ることができない。そういう人間は魔術師には向かない」

「なるほど」

「逆に、呼気中の魔力が多ければ多いほど、下位精霊の描く陣は大きく細部も細かくなる。上位精霊の発動させる魔法の威力もその分強大なものとなる」

 なんか伝言ゲーム的だな。人間が呪文唱えて、下位精霊が魔法陣描いて、上位精霊が魔法発動? 魔法を使うっていうより、召喚?

「人間が直接魔法陣描いて上位精霊召喚できないの? なんで間に下位精霊はさまなきゃいけないんだ?」

 依頼元、一次受け会社、二次受け会社、みたくなってるじゃないか。

「言っただろ? 下位精霊の分泌物を使った魔法陣でなきゃ上位精霊には読めないんだ」

「えっ素材の問題? じゃあさ、下位精霊の分泌物使って人間が描いたら?」

 あれっ、なんでそんな顔しかめてんの? そんな変なこと言った?

「下位精霊の姿も見えんのに、どうやって分泌物を取得するんだ」

「え? いやこう、魔力を餌におびき寄せて捕まえるとか?」

「そもそも万が一分泌物を採れたところで、下位精霊の描く魔法陣の紋様はかなり複雑だ。人間が手で描こうと思ったら、どれだけ時間がかかると思っている」

 丸描いてちょっと線を引く程度のもんじゃないようだ。

「呪文を唱える方が手っ取り早い。ま、それも覚えなければならないんだがな」

「もし間違った呪文を唱えたら?」

「下位精霊は呼気に含まれる魔法を食って陣を描くが、誤った陣だから上位精霊は動かない。もしくは、我々の把握していない魔法を発動させるか、だな」

「それってやばい感じの?」

 ナレディはうなずいた。

「自分や仲間の方に向かって攻撃魔法が来たらどうする」

「……なるほど」

「呪文の書は、試行錯誤を経てどの呪文で何が起こるかが明確になった呪文だけを集め、まとめたものだ。それをちゃんと読んで理解し、言い間違いの起きにくい短めの呪文から習得していけば問題ない。長い呪文ほど威力は高いが、お前ほどの魔力なら、短く簡素な魔法でも実用に足るだろう」

「あ、あのー」

 ずっと気になってることがある。

「なんだ?」

「おれって魔力なんてあるの?」

 おっと、すっげぇ驚いた顔された。ナレディこいつフードとかかぶってすかしるけど、顔に全部出るタイプだな。

「お前、気づいてないのか?」

「えっ」

 おっと、そうきたか。本人は気づいてないけどめちゃくちゃ魔力高くてチート級のやつ!

「あちらの世界から召喚された魂は、皆魔力が高い」

 えっおれだけじゃないの?

「まるで生涯魔力をずっと貯め続けてきたほどに」

 ……貯め続けたんでしょうね、生きてるうちに魔法使う奴なんて見たことねえからな。

「加えて、素体も魔力が極めて高い」

 これはやっぱりなって感じだな。元々魔法使い?みたいな人だったんだよな、素体のエレナさん。

「お前の魔力の高さの証拠に、その杖が魔力量に応じて育っている」

「えっ」

 杖って育つものなんでしたっけ?

「地面につけて持つと、大体お前の身長と同じくらいだ」

 あれ? そういえば最初に受け取った時ってこんなにでかかったっけ?

「エレナが持っていた時は、エレナの目の高さくらいだった」

「そういえばそうだな」

 テーベが同意する。

「トモはエレナより背が高いから、かなり伸びたことになるのか」

「ああ、モモはかなり背が高いからな」

 呼び名のブレが気になるわ。

「人間は、呼気から多かれ少なかれ魔力を外に漏れださせるもんだが、杖を持っていると漏れ出した魔力を吸ってくれてな。それがこうやって目に見える形で現れる」

「ふーん」

「モモ、お前はよくしゃべるからな。杖が吸う分も多いんだろう」

「…………」

 おれ別におしゃべりキャラじゃないからね。

「杖に吸わせる魔力が多いのは、悪いことじゃないぞ。その杖の魔力の匂いにつられて下位精霊が周りに寄って来るようになるからな。魔力が充分でも、下位精霊が周囲にいないとなると、魔法は使えなくなる」

「ふーん」

「ふつうではめったにそんな場所はないが、古代のダンジョンなんかではそういう場所もある。が、杖に下位精霊をまとわせておけば、どこでも魔法が使えるというわけだ」

「ふーん」

「なんだ? 急にあまりしゃべらなくなったな」

「おれが割って入ってしゃべるような要素なかったからね!」

 どんだけしゃべる奴だと思われてるんだ、おれ。


 さらに道中の会話。

「えっナレディってまだ二十七歳なの?」

「ああ。テーベは二十六だ」

「…………」

 ずっとおっさんおっさん心の中で呼んでたけど、まだ二十代やんけ。やっぱ顔濃いから老けて見えるんだ……。

 おれはちなみに三十だ。もうじき三十一だった。若すぎる死だ。でもこいつらよりは年上だ。おれこそおっさんだ。

「魔王はちなみに二十五だ」

「えええええええ若っ‼ 若いのにすごいねぇ天下取っちゃって‼」

「どこの親戚のおばさんだ、お前は」

 てか、どっかに魔王プロフィールとか書いてあんのかね? 年齢知ってるって。

「それはそうと、あの街」

 ナレディは前方に見えている街を指さした。

 今日の移動は街道で、村とか町とか、すでにいくつか通り過ぎてきてる。

「あの街で今夜の宿を探すぞ。街全体の雰囲気も悪くなければ、何日か逗留する」

「おおっ! 今日は楽だな!」

「移動もだが、とにかく早くお前に魔法を使えるようになってもらわないと困るからな」

 それなんだけど、おれにできるのかな?


 街は最初に泊まった街くらいの規模だった。昨日の山のふもとのや、今日通ってきた街道沿いの町や村は、どれも住人全員顔見知りかな?ってくらいには小さかった。

 それに比べたら、この街は知らない顔がいても不自然ではないかな?ってくらいには大きい。と言っても、この世界を知らないおれの、ざっくりした印象なんだけど。

「ここには外壁とかないんだな」

 最初の街に壁があったのは、確か国境が近いからだって言ってたっけ。

「ここもまったくないってわけじゃないぞ」

 ナレディは前方、街の中心の方を指さした。

「街の中心あたりは旧市街で、その周りには壁が一部残ってる。昔はそこまでが街だったんだが、徐々に人が増えて、壁の外にも家や店ができて、次第に拡張していったんだな」

「ふーん」

 やっぱ観光ガイドみたい。

「とりあえず飯だ。良さそうな店探してくれ」

「えっおれが選んでいいの⁉」

「テーベに言ったつもりだったんだが、選びたいなら選んでもいいぞ。俺はちょっと買い物してから合流する」

 というわけで、おれは無口なテーベと連れ立って飯屋を探すことになった。

「何系がいい?」

 何系も何も、こっちの飯屋どんなのがあるかすらおれは把握してないのに聞いてしまった。

「…………」

 テーベ氏、特に何も答えない。そのまま並んで大通りを進む。

 あのね、おれ、一応気まずいとか感じる心あるからね。あれかな? お前に選ぶ権利があると思うなよ、とか、そういうことなのか? それならごめんなさい、でもそうならそうと言ってほしい、怖いから。

「あれが、」

 と思ったら急に立ち止まって通りの向かいを指すテーベ氏。

「この辺の郷土料理の店だ」

 店の系統の説明だ!!

「あっちが南部風料理。で、あれはベジタリアン。僧侶とかそういう連中くらいしか行かない」

 ベジタリアンて概念あるんだ。

「で、どれがいい?」

「えっ」

「選びたいんだろ?」

「おっ、おぉぉ……」

 おれのために説明してくれてたとは。

「気に入らなかったら裏通りにはもっとあるぞ」

 よりどりみどりかよ!

「詳しいんだな」

 ちょっと考える時間を稼ぎたくて変なこと言ってしまった。

 テーベは特に表情も変えずに言う。

「ま、行きにも来た街だからな。その時もアイテム調達のために何日か逗留した」

「なるほど」

 ところで、ね。郷土料理とか南部料理とか言われても、全然分からん。

「どれにする?」

 だからさっぱり分からんて。

「えーと、肉系」

 頭悪そうな回答炸裂させてしまったあああああ‼ せめて「肉」って言いきれよおれ‼ なに、肉「系」って。

「肉なら裏通りだな。値段のわりに量が多くてうまい店がある」

「ほお~」

 テーベがちょっと嬉しそうな顔してる気がする。さては肉好きだな。

「じゃあ行くか」

「えっ、ナレディは?」

 勝手に店に入ったら、合流できなくなるんじゃないか?

「そのうち見つけてくるだろ」

 雑‼ ……まぁ、普段からこんなもんなのか?


「探したぞ」

 肉にかじりついていた時。

「おお、ナレディ。買い物終わったのか?」

「終わった。まさかここに入るとは」

 憮然とした顔で席に着くナレディ。

「言っておくが、トモの希望だぞ」

「見え透いた嘘つきやがって。こんな大量の肉、剣士以外の誰が食うっていうんだ」

 どうやら、ナレディはこういうガッツリ系の飯が好きじゃないようだ。

 ちなみに今おれとテーベの前には厚切りのステーキ。何の肉かは知らない。ちょっと羊っぽい気もするけど、臭みの種類が違う気がする。臭みと言っても食えない系じゃなくて、酒が進みそう系の、おれ的にはわりと好きな風味。肉自体はちょっと固いのが難点。でもこの世界、中世ヨーロッパ風の世界観だから、柔らかくなるように下処理とか、そういう概念ないんだろうな。まぁ要するに諦めのつく程度の固さ。

 ソースはめちゃうま。添え付けのポテトにめっちゃ合う。肉にも合う。

「見ろ、喜んで食ってるぞ」

 おっと、がっついてるとこそんなに見るなよ。いいからお前も食えよ。支払いはナレディなんだろうけど。

「…………」

 憮然とした顔のまま、ナレディは店員に何かを頼んだ。ナントカスープって言ってた。まじかよ。肉食わねえんだ。うまいのに。

「エレナとは食の好みが合ってたのに」

 ナレディが拗ねてる。おー、そういう顔すると二十代っぽく見えるぞ。

 ここまでの情報からすると、エレナさんは小柄で食が細い魔法使い。……って、知ったところでどうなるもんでもないんだろうけど。

 屍生術でまったく別の姿で蘇る、ってのは、その通りらしい。食の好みは元のおれのが反映されてるのか、この身体もたまたまガッツリ系が好きなのかは分からないけど、肉がうまい。いや、ポテトもうまい。サイドで出てきた漬物みたいな野菜もうまい。パンは固くて味がしない。ソースが余ったらソースでもつけて食うか。

 そんでこの身体、結構食える。よく食う成人男性と同じくらいは食えてる気がする。さすがにテーベほどは食ってないけど。

「……あのさ、変なこと聞いていい?」

 ふと思い至ったこと。

「なんだ?」

「食事中にごめんなんだけど」

「何でも聞け」

「……食べたら出す、よな?」

 もちろん、ここまでの道中何も出さなかったわけではない。

「ああ」

「本当に生きた人間とまったく同じなんだけど」

「そういう術だからな」

「そういうもんなんだ」

 なんか変な感じではあるけど、食の楽しみがあって良かった。それがなかったら、何がなんだか分からないまま食事で気持ちを切り替えられることもなく、ずーっとモヤモヤしてただろうな。

「ただ、人間と違って食事から摂るのは栄養ではない」

「えっ」

 じゃあ何を摂るんだ? カロリー?

「いや、栄養もある程度摂っているようだが、屍生者が主に摂るのは魔力だ」

「えっ食べ物から?」

「魔力というのはどんなものにも含まれていてな。ただ、食物に含まれる量は少ない。……だから大量に摂取するのか? いや、しかし今までの屍生者はそんなことしなかったぞ。そもそもよくしゃべるだけで魔力も使っていないしな」

 ちょっとばかにされてますね、これ。

「人間も食物から魔力と栄養、双方を摂取するが、2:8くらいで栄養を主に摂る。屍生者は逆だ。と言っても、これは俺自身の研究から知ったわけではなく、昔の文献に書いてあってな。それに異界からの魂を使わない古来からの屍術による屍生者の話だが」

「ふーん」

 あ、ナレディのスープ来たぞ。

「ともかく、食糧から魔力を摂取する、という特性を利用して、昔は屍生者部隊に相手方の魔術師を喰わせ、魔力を直接奪って戦力を増強する、という作戦を使ったこともあった」

 給仕のおねえさんがすごく嫌そうな顔して去ってった。そりゃそうだろうな。こっち食事中。しかも肉食ってる最中なんだけど。

「話題を考えろ、ナレディ」

 テーベが注意すると、ナレディが肩をすくめた。

「歴史のお勉強だろうが」

 ナレディについての考察。こいつは空気が読めない。


 食事を終えたら、街外れの宿へと移動した。

「こんな外周の宿だと、こっち側から追手が来たら危なくねーの?」

 と聞いたら、

「その時は街の中心に逃げて、まぎれるしかないな」

 だそうだ。

「それより、魔法の練習をするにあたって、街中でってわけにいかないからな」

「なるほど」

「それに、あれだ」

 ナレディは街とは反対側、平原の向こうの森を指さした。

「あの森には、練習にうってつけの小物がいる」

 小物……って、魔物のことだろ? ひぃ。

「というわけで、まずはこれだ」

 ナレディが何かをおれに渡した。

「ん?」

 本だ。『かんたん魔法入門』って書いてある。あと変な女の子のイラスト。

「か、かんたん……」

 えっなにこの『世界一やさしい英会話入門』みたいな本……。

「もしかしてさっきの買い物って……」

「それだ」

「…………」

 つっこみたいこといっぱいあった。おれ完全になめられてんな、とか。いやなめていただいたとこ申し訳ないけど、これ読んでもおれ魔法使えるようになる自信ないぞ?とか。お前が直接教えてくれるんじゃないんかーい!とか。

「まずは読め。実践は明日からだ」

「雑‼ 無理だって‼ てか明日までに全部読むのも多分無理‼」

「まず第一章だけでいいから読め。それでダメならその時考える。じゃ、解散!」

 ええええええええ‼

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