第一章 別れと再会?

第2話 《Battle of DutyⅡ》サービス終了

 《Battle of DutyⅡ》のオンラインサービスが終了する日、僕とSinさんは銃口を互いの顔に突きつけあっていた。


 僕達ふたり以外、対戦サーバーにもう誰も居ない。

 みんな死んだ。

 死んだら二度とログイン出来ない状態で、僕とSinさんが、最後のプレイヤーになった。


 廃墟と化した街は夕焼けに染まっている。

 陽が沈むのが先か、僕達が世界から消えるのが先か。


「撃てよ、カズ」


 女性にしては低く嗄れた声に普段の張りはなく、諦観に染まっていた。

 IDがOgataSinだから初めて一緒に遊んだときは男性かと思っていたんだけど、Sinさんは女性だった。

 Sinさんは自分のことをオレって言うし、声の高い男性の可能性もあるけど、過去の発言内容から察するに女性だ。


「……Sinさんが撃ってください」


 僕には二年間共に死線をくぐり抜けてきた相棒を撃つことは出来ない。


「カズ。お前のそういうところ、好きだぜ」


 そして僕達はどちらも引き金を引けないまま、試合が終了時間を迎え、ミリタリー系ファーストパーソンシューティングゲーム《Battle of DutyⅡ》のオンラインサービスが終了した。


 テレビは暗転した後、タイトル画面が表示された。

 僕はコントローラーを床に置く。


「あー。強制的にログアウトした。Sinさんは?」


「こっちもタイトル画面に戻った」


「オンライン対戦を選択しても『部屋を探しています……』のままっぽい」


「まあ、メーカーが今日までオンライン対戦サーバーを設置してくれていたことに感謝だな」


 《Battle of Duty》シリーズの最新作はⅤだ。

 僕達みたいに五年も前に発売されたⅡを遊び続けている方がおかしいのだ。

 僕が《Battle of DutyⅡ》の廉価版を買った時点で既にオンライン対戦は過疎り気味だったし、Ⅳが発売されていたんだよな……。


「SinさんⅤ買います? Ⅴってパッド対応しているけど、もう、操作方法がモーションセンサーコントローラー前提なんですよね?」


「こっちは元からモーコンだから抵抗ないぞ。カズもモーコン買えよ」


「どうしよ、っかなあ」


 僕は親のレトロゲー好きの影響を受け、子供の頃からゲームパッドを使ってテレビゲームで遊んでいた。

 だから、今主流のテレビの前で身体を動かして操作するモーションセンサーコントローラーには抵抗がある。


 けど、今時パッドのコントローラーでBoDを遊んでいる人は少数派だろう。

 FPSはカメラの前でセンサー付きの棒状コントローラーを振りながら専用マットの上で遊ぶ人が大半らしい。


 というか家庭用ゲーム機Virtual Studioがモーションセンサーコントローラーしか付属していないし、パッド自体が別売りの周辺機器だ。


「あれ。メッセージ一覧にメールが着た」


「こっちも着たぞ」


「BoDのメーカーから……。えっと……『最後までプレイしてくれてありがとう』か。旧シリーズのプレイヤーにベテランスキルをあげるから、新シリーズを遊べってこと?」


「ああ、そうっぽいな。しゃーない。明日、ドヨバシカメラで買ってくるわ」


「じゃあ、僕はダウンロード版、ポチる」


「オレは明日から引っ越し準備だから、暫く遊べないけど……。カズは明日から学校だろ?」


「思い出させないでよ。今日で春休み終了……。金曜が始業式。というか、よく覚えていますね」


「いや、まあな」


「僕ら二年は金曜日に準備」


「あー。カズ。先に謝っておくけど、オレ、お前の高校とか住所とか特定しちゃってるぞ」


「まじっすか。気をつけます」


「前『学校の設立記念日で休み』って言ってただろ。名古屋周辺の高校って条件だと一校だけだぞ。ゲームに負けた腹いせにリアルファイトって、たまにニュースになってるし、あまり個人情報は言うなよ」


「えっ。マジで、分かってるんですか?」


「おう。女子の制服が可愛いよな。気をつけろよ。来週早々にでも刺客が襲いにいくからな」


「スタート、メニュー、フレンド情報、このユーザーを通報するっと……」


「お前、貴重な女フレンドを通報って、マジかよ」


「僕の中でSinさんって男だし……。女ってのが冗談で、声の高い男だと思ってるから」


「OK. ブラザー。明日から窓際に立つときは狙撃に注意するんだな」


「窓に近づかないようにしておきますよ」


「じゃあな。カズ。そろそろ寝るよ」


「はい。僕も寝ます」


「おう。いい夢、見ろよ」


 Sinさんのステータスがオフラインになったのを確認してから、僕はゲーム機とテレビの電源を落とす。


 部屋の灯りを消してベッドに入った。

 こんな感じで、僕はまだ一度も会ったことのない女性フレンドと毎日のように楽しくゲームライフを送っている。


 もともと所属していたクランを追放されたのが切っ掛けでSinさんと会ったんだよなあ。追放されて良かったよ。

 毎日(多分年上の)女性プレイヤーとボイスチャットしながらゲームしているし、他にもたくさんゲームフレンドが出来たし。


 僕を追放したクランはランクが下がったんだよな。

 あれから何度か勧誘メッセージが着てたし、きっと僕を追放したこと、後悔しているんだろうなあ。


 僕はクランを追放されたけど、楽しくやってるよ!

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