第1話 「マネの木」

 北の島、東の島、西の島、南の島、4つの島から成り立つ国で、アリとキリギリスはともに働き平和に暮らしていた。

 働き者のアリたちのお陰で、キリギリスたちも今では立派に働く喜びを感じ、アリとキリギリスが協力し合って国はどんどん豊かになっていった。

 そして、国が豊かになるほどに、アリとキリギリスの新しい命もたくさん生まれて、気がつけばアリとキリギリスの国は、海も向こう側のバッタの国やカブトムシの国が驚くほどに成長していた。

 ある年、アリとキリギリスの国に、天候不順のための食料難が襲いかかった。ただでさえ、急激に国が栄え、住民たちが増えてきた矢先の食糧難は、どんなに働いても住人全員分のエサを確保出来る見通しが立たなくなった。

 そこで、この国を司るアリの長老であるフジは、困惑する全住民を集めて話をした。

 「このまま働いたとしても、全住民が冬を越すためのエサを確保する事は不可能じゃ。そこで、私は先祖から頂いていたマネの木を南の島に植えようと思う。マネの木は1年に一度だけ、秋に大きな実をならし私たちの食料となる。しかし、この木は実をならすのは一度だけで、その後はただの雑木となり、私たちの住む場所を奪ってゆく。実際、数年前に食料難に見舞われたカブトムシの国では、その広大な土地を生かしてマネの木を植え続け、今では国の3分の1が雑木になったと聞く。私たちが住む国は、4つの小さな島国からなる小さな国じゃ。今年はマネの木に頼ったとしても、自分たちでしっかりとエサを確保出来るように、来年は今まで以上に身を粉にして働くようにお願いしたい」

 長老のフジは、マネの木に頼り過ぎる事なく生きてゆかねばならない事を、十分に説明した上で南の島にマネの木を植えた。

 その秋、マネの木は沢山の大きな実をつけ、アリとキリギリスたちは冬を越せた。アリとキリギリスたちは、次の年からは増えてゆく自分たちの命を大切に、長老の言いつけを守り、今まで以上に働きマネの木に頼らずなんとか生きていった。

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