第21話 終着

美生と佳は北海道の内陸部を突っ切って、昼前に無事苫小牧に戻って来た。昼食をすませ、フェリーに乗り込んで後は出発を待つばかりである。

大洗にはまた父の貴生が迎えに来てくれることになっているから、事実上このツーリングはここで終わりとなる。


昼食の時、美生は佳にある秘密を聞いた。


手持ち無沙汰の美生はスマホを取り出してタップした。


少し離れたところで美生と佳がフェリーに乗り込むところを見ていた父の貴生たかおのスマホが鳴った。


「お父さん、美生。今、苫小牧でフェリーに乗ったところ。」

「おっ、そうか。何事もなくて良かったな。」


「お父さん。」

「ん?」


「ありがとう。おかげで安心してツーリングできた。大洗まで気を付けてね。」


電話は切れた。


まいったな、ばれてたのか。貴生は頭をかいた。最もまだ大仕事が残っている。これから函館まで行ってフェリーに乗り、青森から大洗まで先回りしなければいけない。貴生はサンバーのエンジンをかけた。


「話は済んだかい?」佳が声を掛けた。


「佳はいつから気付いてたの?」


「苫小牧を出て、最初にコンビニで休憩した時、美生のパパの軽トラが通り過ぎたのが見えたんだよね。そこまでするか?とは思ったけど。」


「そうかあ、でも何で今まで言わなかったの?」


「まあ、私も安心できたしね。でも、美生がどう反応するか分からなかったから言い出せなかった。このまま言わなくても良かったんだが、感謝の気持ちは伝えるべきだと思ってね。」


「でも、まさかお父さんがついて来てるとは思わなかった。」


「美生のパパが自分の一存で来る訳ないよ。美生のおじいさんの差し金に決まってる。」


美生はスマホを出した。


「おじいちゃん? 今フェリーに乗ったところ。」

「おっ、そうか。楽しかったかい?」


「うん、とても楽しかったよ。」

「そうかい、良かったな。」


「おじいちゃん。」

「うん?」


「来年は一緒に行こう。じゃ、また後で。」


自宅のリビングで美生の祖父、和之かずゆきは呆然として呟いた。


「俺、もう死んでもいい。」


キッチンにいた美生の母、一美ひとみがぎょっとして和之を見た。




フェリーは出発した。だんだん北海道が小さくなっていくのを、美生と佳は眺めた。


これで今年のツーリングは全て終わった。明日からは来年のツーリングの準備をしよう。岐阜の祖父母にお金をもらわなくもいいように、ちゃんとアルバイトしてキャンプ道具も自分専用の装備を揃えよう。


美生はほんのちょっと大人になった。


(クッチョロ!! ハイスクール編 第一章 美生と佳 完)

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クッチョロ!! ハイスクール編 沙魚人 @hazet

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